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「再び戦争ができる国に」というよりは防衛産業の介護体制整備。防衛装備品生産基盤強化法の本当の狙い。

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防衛産業を支援する「防衛装備品生産基盤強化法」に基づいて防衛大臣が策定する基本方針の原案が明らかになった。あまり兵器や防衛装備品に詳しくないので「国産にこだわるのはいいことなんだろうな」という漠然とした薄っぺらい感想を持った。ちょっと調べてみようと思ったのは「日本を再び戦争ができる国にしようとしている」という雑な反論を読んだからだ。だが調べてみて驚いた。どうも日本の防衛産業は死に勝っているらしい。これは「防衛産業介護提案」だと思った。

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政府広報機関紙の読売新聞は今回の方針について次のように説明している。大体これを読めば政府の「建前」がわかる。

防衛装備、国産を追求し継戦能力・機密保持を強化…「新たな危機」で政府方針原案

  • 中国、北朝鮮、ロシアの軍事活動が活発化し日本を取り巻く安全保障環境が新しいフェイズに入った
  • 自衛隊の体制を強化しなければならないので防衛産業の重要性はますます高まっている
  • だが、日本の防衛産業の利益率は低いために撤退する企業が相次いでいる。
  • 継戦能力を高めるために軍事技術産業は外国に依存すべきではないのだから国産産業を育てなければならない。
  • 一方で国産取得が困難な場合には同盟国と国際共同開発を推進すべきだ。

つまり国産を基本にして「仕方ない場合」には国際調達もという組み立てである。何も知らないので「ふーんそうなのか」と思った。

本来ならば、自衛隊の待遇改善をしなければ防衛装備品は却って自衛隊の負担を増やすことになるだろうとかそもそも台湾有事を前提にした防衛戦略の策定は国際社会の実情を見ていないという批判をしたい。

だが残念ながら、今回の話はそこまで至らない。どうも話が変なのである。

今回この話を詳しく調べてみようと思ったのは古賀茂明氏の「戦争を望む国民世論の形成が狙いである」という極めて安易で雑駁な反論を目にしたからである。

「防衛産業強化法」で誕生する“国有”武器メーカー 戦争を望む国民世論の形成が狙いか 古賀茂明〈dot.〉

古賀氏はこの法律には隠れた狙いがあるとする。今回の狙いを「国家による事業の接収であるとの認識を示す。2027年に台湾有事が起きるという前提があり「国家総動員体制が作られてようとしている」と指摘している。

国営軍事産業ができれば「国民は戦争ができる国づくりを求めるようになるだろう」と言いフランスの例を挙げている。しばらく戦争がなかったフランスの軍事産業は停滞していたが「ウクライナ特需」で潤っているのだという。だからフランス人は「ウクライナで戦争が起こればフランスが儲かる」と考えるというのだ。

日本国はいつか来た道に戻ろうとしている。「これは大変だ、今すぐ街に出てデモに参加しなければ」という気になる人もいるかもしれない。

戦争反対のデモに参加しなければ!と感じた人もいるかもしれないので、急いで先に進みたい。そもそも「防衛装備品生産基盤強化法」は何を狙いにしているのだろうか。共同通信に記事がある。

防衛装備品、国の工場新設を容認 輸出失敗でも経費返還求めず

まず日本は同盟国との間で「共通仕様」の武器を作ろうとしているようだ。こうすると武器の国際市場が生まれる。世界仕様に合わせるための経費を助成した後「失敗しても経費の返還を求めない」ということにした。また企業には「国防を担う重要な存在だと認識」させるのだそうだ。これは精神論だ。つまり国内産業が防衛装備品の調達にそっぽを向いているということになる。

どうやら「失敗が前提」になっていて「精神論で国内防衛産業を鼓舞しようとしている」ようだ。

日経新聞産経新聞が防衛産業の詳細を書いている。日経新聞は20年で100社が撤退したといっている。市場規模は3兆円だが買い手が自衛隊だけなので受注量が少なく量産効果が見込めないそうだ。産経新聞は韓国の装備品の輸出は伸びているため「下手をしたら韓国のものを買うことになりかねない」のだと懸念を表明している。Quoraでも聞いてみたが「日本の防衛産業が行き詰まっている」というのは割とよく知られた話のようだ。誰も「日本の防衛産業は前途洋々なのだ」とか「日本を貶める発言だ」などと否定する人はいない。

さらに日テレは企業が防衛産業から撤退するときには「生産ラインが国有化できる」と説明している。撤退を前提にして「海外に生産ラインが流出したり解体したりしないように国がそれを維持しようとしているのだ」ということがわかる。確かに中国あたりの企業が技術ごと買い取るようなことは避けた方がいいのだろう。

防衛産業の生産基盤強化法成立 “自衛隊装備品”の製造企業撤退時に生産ライン国有化も

大体あらましが見えてきた。古賀茂明さんがいうような国家的陰謀がないとは言い切れないが、それよりも「衰退」を食い止めようとしていると考えた方が説明は容易だ。

日本の防衛産業は長らく自衛隊とだけお付き合いをしてきた。通信産業やソフトウエア産業と同じ構造だ。官公庁とだけお付き合いをしていればいいので段々国際競争力を失ってゆく。特にリテールで稼ごうという気持ちがなくなる。

だが、次第に自衛隊だけでは日本の防衛産業を支えられなくなってきている。防衛装備品の国際化という要請もあるようだ。これがアメリカによる圧力なのか価格の適正化に向けた日本独自の取り組みなのかについてはわからなかった。

このまま市場が解放されてしまうと調達コストの低減には役立つだろう。だが、ただでさえ衰退している国内防衛産業が破壊されかねない。そこで「失敗しても国がなんとかするから」と約束をして防衛スタンダードの共通化をやろうとしている。だが「おそらく失敗するところも出てくるだろう」ということはわかっているのだろう。「失敗しても責任は取らなくていい」し「それでも撤退するというなら国が設備を買い取ってやる」といっている。

とにかくそれでもいいからやってみなさいということだ。

産経新聞は韓国との比較を出しているが、これもK-POPとJ-POPの例で容易に説明できる。ある程度市場があった日本の音楽産業はテレビとうまくやっていればよかった。一方で韓国は国内市場が狭いために早い段階から韓国に出てゆくしかなかった。結局「防衛省とだけうまくやって行ければいいや」という国内企業は競争力を失い早くから外に出た韓国は成功しているということになる。

ここまで分析を進めると「では国が保障すれば日本の防衛産業は息を吹き返すのか?」という疑問が湧く。秋冬には国民負担の議論が始まる。政策議論として「投資として正当性があるかどうか」を知りたい人は多いのではないかと思う。

大きくしてもどうにもならなかった事例に液晶ディスプレイがある。

かつて「亀山モデル」などと賞賛されていた日本の液晶技術は技術革新とコスト削減に失敗して競争力を失ってしまった。結局「ジャパンディスプレイ」という受け皿を作って集約するのだが「長いトンネル」から抜け出せず赤字幅を拡大させている。それでも「日本には素晴らしい技術があるのだから今が頑張りどきだ」として諦めることはできない。JOLEDも破綻してしまい有機ELディスプレイ事業も引き取った。

スマホに破れたガラケーも悲惨な状態になっている。富士通系の携帯電話事業を継承していたFCNTが破綻した。APPLEやLGなどの国際競争力のある会社に負けて採算性の低い高齢者用スマホ事業に閉じ込められたのが理由だった。

「らくらくスマホ」の会社はなぜ破綻した?富士通の携帯がたどった残念な末路

今回の防衛装備品の予想される失敗はこの液晶ディスプレイと携帯電話の失敗を合成したものになりそうだ。

中途半端に大きい日本市場に特化する中で国際競争力を失ってゆくが「茹でガエル」になっていてそれに気がつかない。カエルがのぼせ上がると「大変だ大変だ」ということになり集中治療室に運ばれる。だが死にかかっているカエルを野に離しても死んでしまうだけなので国が丸抱えすることになる。次第に歩けなくなり「寝たきり患者」対応に移行する。

そんな状態である。

防衛産業も新しいカエルさんとして「集中治療室」に入ろうとしているということなのかもしれない。

今回調べていて最も違和感を感じたのはマスメディアの対応だった。

おそらく取材している人は薄々「日本の防衛産業ももうダメなんだろうな」とは感じているのだろう。だがそうは書けないのでなんとなく仄めかしを加えつつ誰かが気がついてくれるのを待っている。色々な記事を寄せ集め人の話を聞くとなんとなく「ああこれはまずいんだろうなあ」と思える。しかしこれを取り上げて政治的なアジェンダとして議題にする人はいない。このため「新しいカエルさん」を迎えるだけになってしまうのである。

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