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安倍さんの嘘と抑止力という安全神話

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安保法制を巡って、当初安倍首相は2つの事例を挙げて「これは日本人を守る法案だ」と説明してました。ホルムズ海峡の機雷掃海と朝鮮半島(とおぼしき外国)から退避する邦人の保護です。
ホルムズ海峡の事例はしばらく前に取り下げられました。イランとアメリカが関係を修復したために、ホルムズ海峡に機雷がまかれる可能性がなくなったからです。これについで、朝鮮半島から退避する邦人を保護するという事例でも、集団的自衛権が行使できるかどうか怪しくなってきました。(東京新聞 – 米艦防護の条件めぐり 防衛相、邦人乗船「絶対でない」
この朝鮮半島の件には予兆がありました。先だって安倍首相は「朝鮮半島で有事が発生しても日本には重大な影響がない」という趣旨の発言をしたのです。ちょうど北朝鮮が準戦時状態に入っており、朝鮮戦争の可能性が出てきたために「日本が朝鮮戦争に巻き込まれるかもしれない」という議論を怖れたのかもしれません。これを聞いてネトウヨの人たちは「日本は韓国を見放す宣言をした」と大喜びしました。しかし、朝鮮戦争が有事でないならば、半島から邦人が逃げてきても集団的自衛権は発動できないことになってしまいます。
では、なぜ根拠のない集団的自衛権を通す必要があるのでしょうか。それはアメリカを防衛するためです。伝わってくる情報は断片的ではありますが、いくつかの事例があります。一つは安倍首相が訪米時に「北朝鮮がアメリカにミサイルを撃ってきたら、迎撃してあげる」という約束をしています。もう一つはアーミテージ元国務副長官がNHKへのインタビューで語った「日本周辺でアメリカ人を守るため自衛隊員も命を懸けるという宣誓なのだ」という台詞です。
アーミテージ氏のいう自衛隊の米軍護衛は、平時であれば特に国会の承認などが要らないことが民主党の質問で分かっています。平時からなし崩し的に緊張状態に陥る可能性があります。
ここから分かるのは「邦人保護」とか「国益を守る」というのはあくまでも国内向けの説明であって、本当の目的ではないということです。本当の目的はアメリカの保護なのです。
明らかに安倍首相は嘘をついているのですが、この文章の目的は安倍首相の嘘を非難し日米同盟など守る必要がないと主張することではありません。むしろ、安倍さんの嘘が日米同盟と自民党を危機にさらす可能性が懸念されます。
善意に解釈すると、安倍首相はアメリカを喜ばせようと考えて米国向けに「日本はアメリカを守る国になる」と宣伝し、日本人が心配すると思って「たいした事は起こらない」言っていると考えることができます。
何事もなければ、この2つは矛盾なく両立します。ところが、いったん何かが起こるとどちらかを満足させられなくなるでしょう。アメリカの圧力を怖れて内閣が有事を宣誓すると自衛隊に多くの死傷者がでて、国内世論が動揺する可能性もあります。一方、国内世論の動揺を怖れて内閣が知らないふりをすると、裏切られたと感じたアメリカ政府は日本に有形無形の圧力をかけるでしょう。もしかしたら、それは危機が去った後も続くかもしれず、日米同盟の空洞化が進む可能性もあります。すると、日本人は日米同盟への疑問を募らせるようになるでしょう。
この構図は原発に似ています。日米同盟が強固ならば何も起きないという「抑止力論」はつまりは、原発の安全神話と同じことなのです。法案が成立すれば、政府には有事の想定を「なかったこと」にしようとする圧力が働く事になると思います。
いったん事故が起こり国民保護の大義がなかったと国民が気づけば、国民世論は一気に「集団的自衛権行使反対」に傾くはずです。原発事故後に原発への反対世論が一気に進んだのと同じです。
事故後、原子力発電所の再開の判断は原子力規制委員会に丸投げされました。内閣への風当たりを避けたものと考えられています。しかし、安保法制では有事の判断をするのは内閣なので、日米双方からの圧力をまともに受けるものと思われます。逃げ場はありません。事故の際に地元への対応に追われるのは自民党と公明党の議員たちでしょう。
政権を賭してまでアメリカを守る覚悟があるとすれば、それはそれで立派な態度だと言えるかもしれません。しかし、安倍政権は本当にそこまでの覚悟があって、この法案を通そうとしているのでしょうか。