安保法制についての議論も一息ついた。その一方で、中国の経済不調が原因で株価が下がり「アベノミクスもメッキがはがれたのではないか」という声が上がっている。 物価も上がっておらず、リフレ派と呼ばれた人たちの主張がデタラメだったのだという指摘がある一方、勢いが足りないだけだからさらに財政出動すべきだという人もいる。
経済政策に関する議論にはテクニカルなものが多く複雑だ。そこで、もっと単純な仮説を立ててみる事にした。日本人がたくさん給料を貰っていれば、たくさんものを買うだろうという仮説だ。民間給与の総額は国税局の民間給与実態統計調査という資料を使えば簡単に調べられる。
現在の日本人の給与総額(民間)はおよそ200兆円弱だ。給与総額は1970年代の後半には50兆円だったので、80〜90年代にかけておよそ4倍になった。バブルが弾けた1991年には伸び率が鈍化したが、その後も伸び続けた。トレンドが変化したのは2000年頃で、給与総額は低下を始めた、さらに、リーマンショックの後減少ペースが加速した。ちょうど、自民党から民主党への政権交代の時期に当たる。その後民主党政権時代に底を打ち、自民党が政権復帰したところで下げ止まった。給与所得者の数は減っていないので、平均給与が下がっているということがわかる。給与所得者は貧しくなった。
時事ドットコムの記事によると、男性の平均給与が511万円のところ女性の平均給与は271万円だ。また、正規社員の給与が473万円のところ、非正規社員の給与は167万円である。被正規雇用が増えていることと合わせて考えると、日本の企業は正規雇用を減らし非正規雇用を増やす事で人件費の圧縮を図っているのだということが伺える。また「女性の社会進出」は本来であれば望ましいところだが、実際には人件費の圧縮に一役買っているだけだということが分かる。政府の掲げる「働き方の多様化(派遣の促進)」も「女性の社会進出」も根は同じで、人件費の圧縮を追認しているのである。
人生を豊かにするために女性が社会進出するのは大変結構なことだ。しかし、非正規雇用が増えて共働きでなければ生活が維持できないのであれば話はまた別だろう。共働きのためには子供をどこかに預ける必要がある。給与が低い女性かつ非正規雇用の労働者が増えれば公的支出の増加が見込まれる。それを支えるためには誰かが税で支える必要がある。それでは税収はどのように伸びているのだろうか。
財務省の資料によると所得税も法人税もバブル崩壊後急減している。それを置き換えているが消費税だがこれだけで全体の税収減をカバーすることはできない。
給与所得が落ち込む一方で年金支出は増えているので、全体としての収入の落ち込みはゆるやかなものになっているものと考えられる。しかし、国民所得が急激に増加するわけではないので、全体として物が売れなくなるのは当たりまえだ。
従来、日本の福祉は企業が背負ってきた。企業は男性社員に高い給与を支払うことによって間接的に専業主婦に支出していたものと考えられるからだ。しかし、企業はバブル崩壊後にそこから降りてしまった。一人当たりの稼ぐ力GNIで見ると、GNIはバブル崩壊後下がり始めたものの持ち直した。人件費削減の効果と考えられる。しかし、企業は給与を増やさず、法人税も支払わなかった。好調だったのもつかの間、リーマンショックをさかいにGNIは急落し今に至っている。
この事から分かるのは、日本経済にとって必要なのは金融政策や短期的にしか効果が持続しない財政出動ではなく、収益力の落ちた企業から経営資源を解放し稼げる企業へ引き渡すことだろうと思われる。
こうしたことができるのは国民に支持された安定した政権だけである。安倍政権には2年あったのだが、安保法制議論で時間と支持率を浪費した。また、大手企業の労働組合に支えられた民主党も対案を出す事はできなかった。多くの国民は政治への興味をなくし、こうした状況をただ傍観し続けている。