先日ジャニーズの調査委員会の記事を書いていなければ読み飛ばしていたと思う。現職検事長が裁判所から呼び出されたという記事を見つけた。安倍官邸の強引な定年延長問題が裁判所で議論されることになる。
おそらく当面は大きく語られることはないだろうが岸田政権にとっては「地雷発掘」である。
証言が行われるのは選挙直前(と噂される)秋頃になりそうだ。前の政権の遺産とも言える統一教会問題を半年かけて沈静化させた岸田政権はまた一つ厄介な問題を抱えることになりそうだ。
記事自体は非常に短く目立たない。「法務省内で協議した記録などを不開示とした国の決定は違法として、神戸学院大の上脇博之教授が決定の取り消しを求めた訴訟」が行われており、そこに現職の仙台検事長がでてくることになった。共同通信が短く書いている。
おそらく「黒川弘務問題」など覚えている人は少数だろう。佐川理財局長問題と混同している人すらいるかもしれない。それほど問題の多い政権だった。
もともと安倍官邸は官僚人事を掌握しようとしていた。この一環として法務省人事に強い影響力を持つ検事組織も掌握しようとする。安倍官邸は黒川弘務氏に期待をし本命だった林真琴さんを名古屋に飛ばしてしまう。
だがここで黒川さんの年齢が問題になった。定年を迎えてしまうのだ。このため安倍官邸は「検事も内閣が承認すれば定年が延長できる」と主張した。ところが「検事は定年延長の対象にならない」というのは法曹界では知られた話であった。検事出身の山尾志桜里議員が森まさこ法務大臣を追い詰めるのだが、森さんの答弁は二転三転した。
結局黒川さんは「国民がコロナで大変な思いをしているのに三密賭け麻雀をやっていた」ことが文春にリークされて東京高検検事長を退任した。林さんは東京高検検事長となりそのまま検事総長になり退任した。
結局は「メディアリーク」により官邸側が負け検事側が勝ったことになる。だれがマスコミに記事を流したのかはもちろんわかっていない。
この時に森法務大臣が説明のために使った資料には怪しい点があった。誰が作ったのかよくわかっていないのである。神戸学院大の上脇博之教授はこの点を問題視している。つまりこの裁判は「アベ政治批判」の最後の生き残りのような裁判である。
「現役の検事長も大変だなあ」などと思ったのだが、Yahoo!ニュースの個人セクションで気になる記事を見つけた。
記事はまず黒川事件のあらましを説明している。森まさこ法務大臣の説明が二転三転したうえで「後付け」で法律を改正しようとした一連の経緯が書かれている。
この時に誰かがなんらかの意思決定をしているはずで、当然書類が残っていなければならない。だが実際に示されたのは「勤務延長制度(国公法第81条の3)の検察官への適用について」という誰が書いたのかよくわからない資料だけだった。さすがにこれはないだろうということになり開示請求をかけたのだが「意思決定の過程は全く残っていない」との返答が返ってきたそうだ。これはおかしいということで裁判が起こされたわけである。
裁判所としては誰かの話を聞かなければならない。だが辻仙台高検検事長という「偉い人」を直接呼び出すようなことはしたくない。そこで国に対してやんわりと「誰かもっと無難な下の方の人はいないですかねえ」と聞いたようである。だが国側は「断固拒否」の姿勢を示した。裁判長の顔色が変わり「だったら辻さんに直接話を聞くしかないですね」ということになったようだ。
その後も裁判長は「その気になれば総理大臣でも誰でも呼び出せるんですけどそれはさすがにアレなので」などと国側を諭した。だが国側の態度は頑なだった。この頑なさのせいで問題がかえって大きくなってしまったのだ。
結局「だったら辻さんに責任を取ってもらうしかない」ということになったようだ。
この裁判には「アベ政治の総括」という側面がある。おそらく筆者や上脇さんが証明したいのは「安倍政権がいかに乱暴な国家運営をやっていたか」なのだろう。だがやはり気になるのは岸田政権の対応だ。可能性は二つある。つまり「国」の主語が誰なのかがよくわからない。
- 岸田総理が頑なになっており「誰にも証言させるな」と言っている。
- 岸田総理は現場の官僚組織に対してグリップが効かなくなっており法務省が勝手に証言を拒否した。
どちらにしても、辻さんの証言が行われるのは秋頃になりそうだ。現在「解散は秋頃にになるのでは?」と言われている。仮に辻さんが「防衛」に成功するかあるいは「政権は関係なく私が勝手にやりました」と言えば政権に対して被害が及ぶことはない。一方で「安倍総理に言われて仕方なくやりました」などと言えば大騒ぎになるだろう。おそらく他にも色々な事例がある。どう処理するかは辻さん次第ということになるが、岸田政権にとっては「地雷」となりそうだ。
安倍晋三さんが亡くなった事件をきっかけに統一教会問題が盛んに語られ岸田総理は支持率の回復に非常に苦労をしていた。今回もあるいはこれをきっかけに数々の書類や文書の問題などが語られることになれば政権にはあまり良い影響を与えないだろう。
つくづく前の政権の遺産に苦しめられる政権だという気がする。