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ジャニーズ「再発防止特別チーム」を率いる林真琴元検事総長とはどのような人なのか

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ジャニーズの「外部専門家による再発防止特別チーム」のトップに元検事総長の林真琴氏が就任したとして話題になっている。「なんとなく聞いたことがある名前」なのだが詳しいことが思い出せないので改めて調べてみた。随分とぴったりな人を選んできたなあと妙に感心した。

日本の検察組織は政府から半ば独立している。安倍政権はこの検察を官邸の支配下に置こうとして検察組織と対立した。官邸側の黒川さんの名前はよく出てきたがこの時に「検察側のトップ候補」だったのが林真琴さんだ。この時の検察は「政治からの独立を勝ち取る」ために随分政治的な動きをして政権に抵抗している。

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林さんは検事総長退任時のインタビューで最も思い出の深い事件として任期6年目に関わったリクルート事件を挙げている。リクルート事件と消費税導入の反発から金権政治批判が巻き起こり自民党の下野につながってゆくと言う事件だった。つまり最初から政府にとっては「言うことを聞かないやっかいな」人たちだったということになるだろう。

林真琴氏は安倍総理と周辺が疑われた「桜を見る会」の捜査で注目を集めることになる。本来検察には法務官僚「赤レンガ派」と呼ばれる人たちがいて現場捜査派を牽制することになっているのだが桜を見る会の問題ではそうならなかった。安倍政権下で検事総長コースから外されかけた林真琴氏が後ろから押しているのではないかと言う話が出ていたそうだ。

おそらくこの操作の狙いは安倍官邸を終わらせることではなく官邸にプレッシャーを与えることだったのではないかと思われる。安倍官邸は内閣人事局を作り官僚をコントロールしようとしていた。最後まで抵抗を示していたのが検察である。「政治から半ば独立した」という意識があり政治とは距離を置きたがる人たちだ。

この独立を守るために検察サイドはおそらく世論に対してかなり巧妙な働きかけをしている。

官邸は黒川氏を次期検事総長にしたかったのだが黒川氏は定年問題を抱えていた。このためルールを変更して黒川氏の定年延長を認めてしまう。逆に林氏は後継候補から外されている。内閣は「人事権」を武器化したのだが検察側は「週刊誌」を武器化したのである。

黒川弘務氏を検事総長に据えたい官邸は定年問題を解釈変更することにより黒川氏を検事総長にしようとしたのだが森雅子法務大臣の答弁は二転三転する。官邸側は「検察官には転移年延長が認められる」との答弁をしていたのだが、実は1981年の国会で人事院から「検察官には適用されない」という答弁が出ていた。野党は山尾志桜里さんがこの問題を多く取り扱っているが、山尾さんは検察の出身だった。

結局この戦いは検察側の勝利で終わる。安倍氏の意向を受けて東京高検の検事長に上り詰めた黒川弘務氏が「賭麻雀問題」で辞職したことが原因になっている。いわゆる「文春砲」が小児の決めてになったのだ。異例の定年延長で安倍政権から特別扱いされていると言う評判のあった人だった。産経新聞の記者と「三密」賭け麻雀をやっていたとして話題になった。

当時はちょうどステイホームのイライラが募っている時だったため週刊文春は二ヶ月ぶりの完売となったそうだ。世間の空気をよく把握して「クリーンヒット」を打ったのだ。

もちろん黒川氏の事件が誰の意図によって発覚したのかはよくわかっていない。ただ、黒川氏が失脚して喜ぶ人たちがやった可能性は極めて高いといえる。結果的に林氏とその一派は望むものを手に入れた。

結局黒川弘務氏は東京高検検事長を辞職することになり、林真琴氏がその後任になった。その後検事総長に就任し2022年6月24日に退任している。林氏は望みのポジションを手に入れると立憲民主党も自民党が攻撃できなくなった。立憲民主党も週刊誌と同じように一部の人たちの武器であり道具に過ぎないと言えるのかもしれない。独立したシンクタンクも調査機関も持っていないのだから当然と言えば当然である。次に立憲民主党が活躍したのは小西博之氏による高市早苗文書問題だが、これも「リーク」に依存している。いつまでも道具は道具なのである。この時には大分県(礒崎陽輔さん)と奈良県(高市早苗さん)でそれぞれ選挙が行われている。この2人を抑制するために総務省出身の小西さんが「活躍」した可能性が高い。

今回林さんは「外部専門家による再発防止チーム」の指揮を取ることが発表されたが、同時にイオンの取締役に就任し、JR東海の監査役と三井物産の監査役に就任している。「退任後1年は監査役や役員になれないのだな」ということがわかる。同時に政治と世論に精通しており大企業からは引く手数多であったことも窺える。ジャニーズ事務所としてはスポンサーになり得る大きな企業の役員や監査役を味方につけることによりスポンサーの離反を防ぎたいという思惑があるのかもしれない。

選挙によって選ばれた政治と対立する、検察は選挙で選ばれない分だけ常に民意を味方につけておく必要に迫られる。つまり民意の意向には極めて敏感でありその操作手法にもおそらくは長けている。だが検察の意図は政権交代ではない。例えば桜を見る会の問題でも安倍晋三氏にまでは捜査が及ぶことはなかった。あくまでも「私たちに逆らうとロクなことはありませんよ」と示すことが目的である。あくまでも政権に任命してもらわなければならないのだからその政権が倒れてしまっては元も子もない。

この辺りの「政治的バランス」の取り方が絶妙なのだ。

そう考えると林真琴氏にとって今回のジャニーズの件はそれほど難しい案件ではないのかもしれない。記者会見も極めて政治的に巧妙なメッセージが練り込まれている。世間の敵意や疑惑はわかっているのだから「疑惑があった」前提で捜査をすると言っており、なおかつ「現在の役員たちも捜査対象になる」としている。一方で第三者委員会であるかは重要でないとし、調査を希望しない人たちは対象にならないとして網羅的な調査は否定している。陰で世論を操作する必要もなく「依頼主からほどよく距離をおいた」体裁で直接情報発信ができる。

つまり「世間の疑惑を受け止めた」という体裁を作りつつ「調査を良きところで終わらせよう」としていることになりそうだ。おそらくテレビ局はスポンサーや視聴者の離反に繋がりかねないこの問題を早めに終わらせたいと考えているのだろう。林氏のシナリオを意図を汲み取って行動するのではないだろうか。

誰が林真琴さんを調査委員会のトップに据えたのかはわからない。だが、極めて適性が高い人を選んできたなあという印象を持った。ただしこれは「スポンサー対策」としてはという限定付きである。ファン、被害当事者、海外のメディアなどがどう反応するかは今後の対応次第ということになりそうだ。

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