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参院のドン青木幹雄氏が亡くなる 参議院にはなぜ「ドン」が必要だったのか

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参院のドンと呼ばれた青木幹雄氏がなくなった。党内バランスが崩れ今後の政局に影響を与えるのではないかと言われているそうだ。それにしてもなぜこの人は参院のドンと呼ばれていたのか。改めて考えてみた。セリフを言う人だけでは舞台は円滑に回らない。裏方が上手に振り付けてやる必要がある。つまり「裏回し」が非常に重要なのだ。

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もともと自民党という政権はない。さまざまな利益団体の集合体を「自民党」と言っている。現在の岸田政権は事実上は宏池会系岸田派、麻生派、旧竹下派によって支えられている保守本流系の派閥連合政権である。自民党はさまざまな利益団体が議員を送り込みその議員たちが派閥を形成することによって成り立っている。

この中に保守本流と保守傍流という言葉がある。このうち保守本流とは吉田茂の流れを汲む人たちの集まりである。それ以外を傍流という。安倍派の清和会も保守傍流の一つだ。

吉田氏の系譜はまず佐藤栄作派と池田勇人派に分かれる。佐藤栄作氏の派閥を引き継いだのが田中角栄氏だった。竹下派の源流は田中派にある。田中角栄氏がロッキード事件で表に出られなくなった結果「造反」して生まれたのが竹下派だと言われている。最終的に田中派118人のうち141人を掌握し経世会が作られた。青木幹雄氏はこの竹下登氏の秘書だった。現在この派閥は茂木派(平成研)と呼ばれている。

一方で池田勇人氏の派閥が宏池会だ。宏池会からはまず河野洋平氏のグループが抜けた。この流れが最終的に今の麻生派になる。宏池会は森喜朗総理に造反を企てた「加藤の乱」の後で、加藤氏について行った谷垣氏のグループとついてゆかなかったグループに分かれる。このついてゆかなかったグループを最終的に受け継いだのが岸田文雄氏である。

現在の岸田政権は「保守本流」のうち谷垣氏のグループだけが抜けたという構成になっている。

自民党の歴史は派閥抗争と簒奪の歴史だった。田中派を掌握した経世会はその後も分裂を繰り返した。

竹下派を継承したのは金丸信氏だったが闇献金事件で議員辞職した。小沢一郎・羽田孜らのニューリーダーは竹下派の金権体質を嫌い派閥を出て新しい政党を立ち上げる。結果的に宮沢政権が崩壊し自民党は単独過半数を獲得できなくなった。結果的に経世会は勢いを失い小派閥に転落したことから名前を「平成研究会」に改める。

また大平総理の時代には派閥同士が反目しあっていた。大平総理は宏池会系の首相だが反主流派の造反に遭い大平総理は解散に追い込まれ心労で亡くなっている。つまり自民党の派閥争いはそれほど過酷だった。過酷だったからこそ「裏から手を回して」安定させる必要があったのだ。

青木幹雄氏が竹下派を事実上継承したのはちょうどこの混乱期なのだそうだ。ただ参議院議員であったために総理候補になることはなく「裏方」として橋本政権を野中広務とともに支え続けた。

青木幹雄氏は一貫して党内闘争には極めて強かった。派閥内部で疑似政権交代を繰り返す自民党をうまく渡り歩き森・小泉と「保守傍流」の清和会に政権が移った後も派閥を維持し続ける。

青木幹雄氏は森喜朗政権の成立にも大きく関わっている。経世会の小渕恵三首相が亡くなる際に代理として内閣辞職を選択しその後の「談合」で保守傍流清和会の森喜朗氏が選ばれた。

この結果として自民党は保守本流から保守傍流であった清和会系の政権が続くことになる。続く清和会系の小泉内閣では小泉支持に回り野中広務氏と対立する。2018年の総裁選挙では現職安倍晋三氏が優勢とされる中で青木幹雄氏は石破茂氏の陣営についた。しかし茂木敏充氏などは安倍晋三支持を打ち出し「分裂選挙」になっている。

今回の件で時事通信は茂木氏と青木氏の関係について次のように書いている。つまり関係はあまり良くなかった。

  • 2018年の選挙で茂木敏充氏が青木幹雄氏の意向に逆らい安倍晋三氏を支援した。
  • 青木幹雄氏は「恩のある」小渕恵三氏の娘を平成研の後継者に据えようとしたが、茂木敏充氏が承諾を得ることなく後継会長になった。

日本の政治は有権者へのコミュニケーションという表の顔の他に派閥同士の調整という裏の顔がある。総理大臣は「表」の担当だが、その裏には菅義偉官房長官(政府)や青木幹雄参議院幹事長(参議院)などの「裏回し」を担当してきた人たちがいる。彼らのような「ドン」が存在してきたことでかろうじて自民党の安定が保たれてきた。

ところが小選挙区になって「党の公認権」が次第に大きな意味を持ち派閥の役割が縮小した。派閥が縮小すると当然「裏回し」の人たちの影響も削がれてゆく。

現在の岸田政権において岸田首相は派閥のドンである古賀誠氏との間に距離があると言われる。また茂木幹事長も青木幹雄氏との中はあまり良くないと言われてきた。このためこれまで「裏」の仕事をやっていた人が「面も裏も」担当する必要が出てきている。

菅義偉総理には菅官房長官がいないという話があった。同じように岸田総理大臣にも「裏を任せることができる」人がいない。これは党務においても同じである。茂木さんにはおそらく「裏回し」ができる側近がおらず、かろうじて「重鎮」たちがその役割を担っている。

現在青木氏のポジションにいるのは世耕参院幹事長だが自分にもまだ「表への野心」があり二階俊博氏と対立することも多い。安倍派そのものが主人なき状態が続いており参議院全体を裏から取り仕切るどころか安倍派が参議院での不安定材料になりかねない状態になっている。

参議院のドンというのはいかにも古めかしい感じがするのだが自民党政権の安定にとっては必要悪だったと言えるのかもしれない。舞台は主役だけでは成り立たないのだが、小選挙区になり「自分もセリフを言う側に回りたい」と考える人が増えているのである。

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