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連邦レベルで起訴されてもトランプ氏の人気が衰えない3つの理由

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トランプ元大統領が文書持ち出し疑惑で起訴された。「安全保障上の重大情報が含まれていた」などとして大騒ぎになっている。だがこれはトランプ氏の政治生命の終わりとは見做されておらず「新しいエンターティンメントの始まり」のように扱われている。その背景には若干の「ヤバさ」を感じる。「重大」なはずの文書が乱雑に積み上げられていた。例えていうならばあれほど欲しがっていたオモチャが無惨に放置されているというような状態になっているのだ。

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トランプ元大統領が起訴された。すでにニューヨーク州で起訴されていたが今回は連邦レベルでの起訴ということになった。容疑は文書の持ち出しとそれに付随する捜査妨害などである。起訴されても大統領に立候補することはできる。起訴されると99%以上有罪が確定する日本人から見るとトランプ氏はもう終わりだろうと思えるのだが、実際にはそうなっていない。

理由が三つある。

ドキュメントの扱いの杜撰さ

まず、ドキュメントの扱いが極めて杜撰だったこともわかってきている。シャワールームなどに段ボール箱が放置されている状態だ。中には箱からこぼれ落ちているドキュメントもあったそうだ。写真付きで公開されている。

もちろん重大な機密が漏洩するリスクがあったと言える。だが「特に情報を外国に売るつもりがあって隠していたわけではない」から悪気はなかったと考える根拠にもなる。つまり「金儲けのために持っていたわけではないのだからいいではないか」という不思議な理屈が成り立ってしまう。

トランプ氏はなぜこれほどまでに大量の文章を保持していたのか。いくつかの記事を読むと理由がわかる。まず「これは本当は見せてはいけないんだけど」と言いつつ自慢するのに使っていたようだ。

この地図は「軍事作戦に関連」するもので、前大統領はこのPAC代表に、「本当は見せちゃいけないんだ」、「だからあまり近づかないで」と言ったという。

音声の書き起こし記録からはトランプ氏が文書を室内の人々に見せていたこともわかってるそうだ。どうやら普段から見せびらかしていたようだ。

情報筋がCNNに明かしたところによると、音声記録は紙がめくれるような音を捉えている。ただこれが実際にイランに関する文書なのかは判然としない。

これらの情報から、トランプ氏が「自分は大統領にまでなったすごい人なんだぞ」と周りに自慢して回っていただけという可能性が浮かび上がる。つまり子供のおもちゃとか大人の男性の高級腕時計などとそれほど違いがない。

おそらくトランプ氏の生育歴が関係している。トランプ氏の父親は自分の判断基準でお気に入りの息子を選別していた。トランプ氏の姪は祖父にあたるフレッド・トランプ氏を「支配的な教育方針が怪物を生み出した」と表現する。このためビジネスを引き継がなかった息子の一人は自殺している。トランプ氏は「父親自慢の息子」だったのだが、政治家として「大成功」するまではビジネスで破綻を繰り返していた。

トランプ氏の関心事は「自分をいかに大きくみせるか」ということだけだった。ビジネスでは失敗したが政治では大成功した。おそらくそれは「主要候補者」である今でも変わっていないのだろう。ただその裏には数々の疑惑がある。ビジネス記録の改竄や不倫の隠蔽などである。どんどん話の辻褄が合わなくなり多くの裁判を抱えている。

相手もやっているではないか

過激な右派の「選挙は盗まれた」という主張のせいで訴訟に巻き込まれたFOXニュースは「仮にこれが本当だったらトランプ氏はアウトだろう」とのバー元司法長官の指摘を紹介している。つまり右派急進派とは経済的な理由で距離を置こうとしているようだ。つまりトランプ氏の味方をしているわけではない。

だが一方で「同じようなことを民主党の歴代大統領候補もやっていたではないか」とも主張している。これが現在のFOXニュースの視聴者たちの気持ちなのだろう。これをWhataboutism(お前はどうなんだ主義)などと言ったりする。

犯罪行為が「絶対的」なものであればトランプ氏はアウトということになる。「相手もやっているではないか」と相対化されてしまうと「あれもこれも騒ぎの一つ」と位置付けられることになる。この「相対化」がトランプ氏の政治生命が終わりにならない第二の理由である。

武器には武器を

明確に国を売ったという証拠がない上に、支持者の間では「民主党が司法を武器化している」という認識が広がっている。

ノーステキサス大学准教授(政治学)の前田耕氏によれば「トランプ寄り」の判事が今回のケースを担当するという。前田さんが挙げているのはNew York Timesの記事なのだがCNNも同じ論調の記事を出している。

司法の武器化というのは政権が司法を武器にして相手の陣営を潰すことを意味している。つまり侵略されているという含みなのだから「自衛手段を講じるべきだ」ということになる。実際に事件を担当するのはトランプ氏に任命された判事である。

前田耕氏は明らかに証拠が出揃っているのだから無罪にするのは難しいのではないかと言っている。だが「そもそも司法省の提訴が間違っているから起訴には疑いがある」と陪審人に主張することはできるだろう。前田氏は「と思う」と若干あやふやながらも、無罪評決が出ればこの件を検察の方からは上訴できないのではないかと言っている。

実際にそうなるかは今後の報道での分析を待ちたいところだが、ありとあらゆる法的な道具(つまり法律や憲法)を使って抵抗を試みるはずだと考えると「明らかな漏洩が疑われるのにその件ではもう裁けない」可能性があるということだ。

まとめ

トランプ氏が政治的な野心を持った職業政治家であれば自分の政治的立場を有利にするためにドキュメントを利用しようとしたとかもしれない。ところが天性のショーマンは単にドキュメントを見せびらかしたかった可能性がある。既に民主党や政治への不信感が高まっている状況では倫理観がが相対化しやすい。さらにアメリカは法の支配(つまり形式)が非常に重要な国なので「倫理は傍に置いておいて法律を武器として戦う」というような発想が生まれることがある。このために「おそらく明らかに文書を持ち出して国家機密を危険に晒しているのに」候補者として終わりになることもなく下手をしたら罪に問えなくなるかもしれないというような状態になっている。

政治であれば政治倫理が問題になるべきだ。だが、仮にこれよりももっと別のことが問題になるとしたらそれはもうエンターティンメントの世界の出来事だ。

ただし冷静に考えるとこれはやはりおかしい。

今回の件を受けて特別捜査官は「とにかく起訴状を読んでほしい」と訴えている。現在トランプ氏が訴えられている罪状は37あるそうだ。31が国防情報の意図的な隠蔽だが、それを隠すために司法妨害、記録の隠匿、隠蔽工作、虚偽鎮実などを行ったとしている。本来は健全な統治システムの信頼性を維持するためにこの件はきっちりと裁かれなければならない。少なくとも特別検察官はこの問題を「政治問題」に引き戻そうとしている。

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