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自衛隊はどのように暴走するか

ついに安全法制の参議院審議がストップしてしまった。共産党が防衛省統合幕僚監部から独自に資料を入試した資料の存在を中谷防衛大臣が知らなかったのだ。野党はシビリアンコントロールができておらず、軍部が暴走していると糾弾した。
この件が「軍部の暴走」なのかどうかは分からない。参議院で審議が中断しても60日ルールで法案は可決できる。参議院審議など政権にとっては儀式にしか過ぎないのだ。防衛省が官邸と図って計画を準備していたとしても不思議はない。
一方で、自衛隊幹部にトップマネジメントへの不信感を持つ人がいるのは確かそうだ。誰かが漏らしたのでなければ共産党に次々と資料が渡るはずなどないからだ。防衛省では「犯人探し」が始まるだろうが、これは避けるべきだ。情報は隠蔽できるかもしれないが、自衛隊員の不安や不満を解消するきっかけが失われてしまう。この不安や不満を放置すれば、本物の「軍部の暴走」につながるだろう。
士気が高く優秀な人材が集った自衛隊が暴走するはずがない、と熱心な法案支持者であればそう思うはずだ。ところが、実際には士気が高く優秀なチームの方が危ないのだ。
こんな話がある。
マサチューセッツ州ボストン近郊のナットアイランド下水処理場では80名のチームが働いていた。給与水準は低く注目されない職場だったが、使命感に溢れ、士気は高かった。その一方で管理当局からは充分な予算を与えられず、マネジメントは政治的課題にばかり気を取られて、現場には関心を寄せなかった。
外からの保護が得られない現場は外部からの干渉を敵視するようになり閉鎖的になった。不十分な装備しかないにも関わらず援助を求めず、ローカルルールを発展させた。その結果、処理しきれなくなった大量の汚染水を海に放出するようになった。
この事件は、ハーバードビジネスレビューに取り上げられ、ナットアイランド症候群として知られるようになった。
安保法案は国民の理解が得られないまま成立するだろう。すると、政府は「自衛隊が派遣されるのは安全だ」とことさら主張するようになるはずである。仮に現場が安全でない地域であったとしても、政府は現場からの報告を無視するかもしれない。
加えて政府は自主判断ではなく「アメリカや他の国とのおつきあいのために自衛隊を派遣するのだ」と考えている。自衛隊は優秀な組織なので黙って任務に耐えてくれるはずだ。だから、自衛隊の置かれている状態について高い関心を寄せるとは思えない。
充分に安全確保できない現場で何が起こるかは目に見えている。現場は独自のローカルルールを発達させるはずである。日本本国の指示よりも現場の他国軍隊との連携の方が重要視されることもあるかもしれない。現場が危険になればなるほど、独自ルールは極端になる。特に死と隣り合わせの現場でどんな不測の事態が起こるかは分からない。生存本能は軽々と法律を越えるだろう。
あまり考えたくないことだが、それは市民の殺戮かもしれないし、非正規軍化した現地の武装勢力との衝突かもしれない。
繰り返しになるが、内部文書が盛れるというのは、組織がひび割れる最初の兆候だと考えてよい。犯人探しは止めて、何が動揺の原因になっているのかを冷静に調査すべきだ。これまでの答弁を見ていると中谷大臣には当事者能力がなさそうなので、政府はマネジメントに長けた大臣を宛てるべきだろう。


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