CNNのリクトCEOが退任した。このリクトCEOの退任によってアメリカの左派が置かれている厳しい状況がわかる。穏健リベラルの退潮は世界的な傾向だが、豊かな国アメリカも例外ではないようだ。
CNNのリクトCEOが退任した。リベラルで知られるCNNの視聴率はこのところ低迷していた。リクトCEOは大胆なリストラを行いトランプ前大統領のタウンホールミーティングを中継したりしていた。リベラルでは金にならないとして中道派・穏健派・保守派などを取り込もうとしたのだ。
そもそもリストラで出演者やスタッフたちの恨みを買っており加えてトランプ氏の「根拠なき主張」を垂れ流したとして批判の対象になっていた。つまり、リクトCEOはリベラルたちの反感を勝った。さらにオーナーからも認めてもらえなかった。この結果従業員たちからもオーナーからも支援されず退任ということになってしまったのである。
日本の立憲民主党やギリシャのSYRIZAの例を見ると穏健派リベラルの退潮はよく見られる傾向のようだ。ところがここで保守主義に迎合すると今度は既存の支持者たちからも離反されることになる。最後に残るのは過激な左派なのだが彼らが持つ暴力的な過激思想はますます穏健なリベラル支持者たちを離反させることになる。
バイデン政権は共和党との対決姿勢を示し続けている。保守派への迎合がリベラルの死を意味することを知っているからだろう。トランプ氏がついに連邦から起訴されたがそれでも民主党の支持は回復していない。これまで民主党を支持してきた穏健派の気持ちが次第に離れていることがわかる。
立憲民主党の不調もおそらくは世界的な潮流の一つである。有権者はかつて鳩山民主党のリベラルな政策に期待した。しかし有権者の期待に応じることができず改革志向の人たちから離反されることになった。2012年からの安倍政権下では「アベ政治を許さない」という極端な運動ばかりが持て囃されることになったが「高市早苗氏文書問題」での小西洋之氏の暴走からわかるように過激左派も支持を失いつつある。
立憲民主党は「共産党との連携が嫌われているのだ」とばかりに維新に接近した。一時は共闘も行われたが、維新が地方選挙で大勝すると「維新は立憲民主党を叩き潰す」などと三行半を突きつけられてしまう。今度は自前で中間層にアピールすると言っているのだが「中間層が何を期待しているのか」はおそらく理解できていないのではないかと思う。物言わぬ中間層はおそらく苛立っており「不調の犯人」を探している。「説明」さえつけばリベラルだろうが守旧派保守であろうが攻撃の対象になるだろう。
ギリシャでは新自由主義政党の対立軸として期待されていたSyrizaが反移民的な政策を取るNDの政策に反対しなかったことで離反されたなどと伝わっている。二度目の総選挙が行われるが、SYRIZAが政権を取る見込みは極めて低くなっている。ここでも躍進しているのは旧来の穏健保守ではなく「新自由主義者」だ。
ではアメリカの民主党はどうなのか。Quoraでこれについて書いたところ「アメリカで左派が退潮しているという指摘は筋違いである」というコメントがついた。
根拠としてあげられているのがMSNBCの躍進である。2023年の平均視聴率ではFOXニュースに次いで二番目に多い視聴者を獲得したそうだ。ただMSNBCは「極めて左派色が強い」メディアに分類されている。この件に関する別の投稿は「リクトCEOはオーナーの意思に従って穏健左派を獲得しようとして失敗した」と分析している。
このことからCNNから離反した視聴者がより過激なMSNBCに流れたということがわかる。特に民主党は若者から支持されているのだそうだ。バイデン大統領は学生ローンの返済免除を打ち出しておりまだ既得権を獲得していない若年層には人気がある。当初の計画では4300万人に恩恵があるなどと言われていた。
ギリシャは急進左派政党が失敗したことで若者の多くは政治に期待しなくなったと言われている。若者はSNSで文句を言うか海外に逃れてしまう。
日本にも同じように「諦め」ている人たちは大勢いるだろう。ただ彼らは国外に逃げられない。わかりやすい説明を期待しつつ国内で燻っている。左派の退潮という基調は共通しているのだが、それぞれ状況は異なる。
仮に今回の件が左派のCNNからMSNBCへの移動を示すのであれば特にアメリカ政治には大きな影響を与えないだろう。だが仮に急進左派だけを集めたということになれば話は別だ。仮に購買能力が高い急進左派がMSNBCに集まったのであれば左派言論はこれまでのように保障されるが「広告主にとって好ましくない」人たちばかりが集まってしまうと左派を代表する報道機関がなくなってしまう。
今後の注目点は「購買意欲が高い穏健な中道左派・中道右派」がどのどの程度残っているかということになりそうだ。彼らが消え去ればアメリカの報道の自由は守られなくなる。アメリカの民主主義は「資本主義市場」によって支えられているからである。アメリカの民主主義を守っているのは結局のところスポンサーなのだ。
コメントを残す