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イラン核合意 – 外交か戦争か

このところ、ツイッターでは安保法制に関して賛成派と反対派が罵り合っている様子を眺めながら、別の問題に興味を引かれる。それが「Iran Deal」である。日本語では「イラン核合意」などと呼ばれている。テレビでの報道は少ないが、ツイッターでこの問題をフォローしている人が少なからずいるのだ。
イラン核合意は、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、ドイツの6か国とイランの間で結ばれた。イランは当面の間核開発をせず、国際的な監視を受け入れる。その代わりに国際社会はイランへの経済封鎖を解こうというものだ。交渉は難航し合意までに2年間かかった。
ケリー国務長官は「この案を受け入れなければ、アメリカは戦争に引きずり込まれる」と議会を説得している。オバマ大統領は「外交か戦争か」という二者択一を迫った。
政府の説得にも関わらず、9月に議会が再開されると合意案は否決されるものと見られている。議会で多数派を占める共和党が反対しているからだ。大統領は拒否権を行使するが、議会の2/3が反対すれば拒否権は覆される。従って、民主党議員のどれくらいが合意に賛成するかによって合意の成否が決まる、と言われている。
反対派は合意の内容に異議を唱えている訳ではないようだ。共和党議員の多くは単に「イランを信用できるはずがない」と信じている。また、オバマ政権に反対して次の大統領選挙を有利に進めようとする思惑もあるようだ。国際問題でありながら内輪の論争に発展して行く様子は日本に似ている。
共和党を中心とするアメリカの議会は、イラクとアフガニスタンの戦争を経験した後も戦争も辞さない態度を取り続けている。イランを制裁するのにどのような理屈で攻め込むべきかという議論はない。いつものように集団的自衛権を持ち出せば各国がついてくるだろうと思っているのかもしれないし、アメリカは特別だから戦争するのに理屈は要らないと考えている可能性もある。
その一方で、ヨーロッパには厭戦気分が強いようである。経済を拡大し地域を安定させるためにはイランの経済制裁を早く解いて貿易を活発化させたいのだろう。ケリー国務長官は「イラン核合意が否決されれば、イランへの経済制裁の枠組みは破棄されるだろう」と言っている。アメリカの独断で敵国を封じ込めることはできなくなっているのだ。オバマ大統領やケリー国務長官もこうした国際社会の空気をを理解しているのだろう。
国際社会の指導者がどうにか戦争を避けようとしているなか、ただ1人安倍首相だけが「アメリカは戦争を望んでいるのだ」と考えて、平和指向の強い国民の気分を変えようとして近隣諸国の脅威を煽っている。
背景にあるのは、アメリカの提示する国際戦略に沿っていれば自ずと大義を得られるだろうという見込みであり、冷戦時代の感覚とそれほど変わりはない。安倍政権はアメリカについて行く為には、憲法を少しばかり無視しても構わないと考えているようだ。
安倍首相の言う「我が国を取り巻く環境は大きく変化した」というのは概ね正しい意見だ。しかし、それは「中国の脅威が増し、北朝鮮がミサイルを持った」ことを意味するのではない。東西冷戦の時代のようにはっきりした構造があった時代が終わり、アメリカだけが正義だったという時代も終わりを迎えつつある。


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