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あの読売新聞が「どうか紙の保険証はなくさないでください」と政府に泣きつく

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「あの政権寄りの読売新聞が政府の方針に異論を唱えている」と話題になっている。デジタル化についてゆけないことに「泣き」を入れているようにも思えるのだがそうは書けない。そこで社説にて拡張高く「国民の不安を払拭するのが筋」だから「紙の保険証をなくすな」として選択肢を提示している。

一方で政府は前のめりにマイナンバーカードの利用促進に邁進している。今度は住所などの個人情報ではなく「マイナンバー」での本人確認を求めるようだ。おそらく現場はさらに混乱するだろう。つまり「マイナシステムの悪夢」は今後さらに拡大するはずだ。ではこのまま日本の政府は電子化を諦めるべきなのか。考えてみた。

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読売新聞が既存の保険証廃止を見送るように社説を通じて政府に「泣き」を入れた。デジタル化にはついてゆけない読者層を代表したのだろう。珍しくリベラル界隈からも「読売新聞に賛同した」という声がでている。

ただ、現役世代の中には「一体何を騒いでいるのだろう?」と感じている人も多いかもしれない。

このように同じ国民とは言っても、楽々と変化に対応できる人とさっぱり変化についてゆけない人が二極化している。読売新聞はついてゆけない人たちの声を代弁している。この「さっぱり変化についてゆけない人」の対応コストは非常に高くつくが不利益は国民全体が負担することになるだろう。

市区町村の現場は既に「デジタル介護状態」になっているようだ。マイナンバーカードの発行ではミスが相次ぎ「顔写真が違っている」ものが手渡されているがしばらく気が付かなかったという人や説明を聞いたがよくわからなかったため「その辺にあった写真を貼り付けたと言われた」と訴える人も出てきている。

デジタル介護の新しい事例がある。支援して登録してもらった人の中で「身に覚えがない」と言い出す人が出てきた。新たに本人の同意なく保険証が登録されたという事例が5件報告されている。岸田総理は総点検を求めているが厚生労働省は拒絶している。朝日新聞は厚生労働省の方針に否定的だ。

そもそも紐付けを希望しない人が支援を求めるはずはない。「ポイントがもらえるから」という理由でよくわからずに紐付けをしたという人も大勢いるのではないか。だが後になって「紙の保険証はなくなる」というニュースを知り「そんなのはイヤだ」と態度を変えてもおかしくない。

厚労省はいちいち確認しないと言っている。全員に確認すれば膨大な通信費(切手代)がかかる上に「何を申し込んだのかよくわかっていなかった」という人を大勢発掘してしまう可能性がある。

確かに発端はシステムエラーだった。だが、現在の混乱を見ていると、疲弊する現場と何をやっているのかよくわからないままに手続きをしましたという利用者が起こす複合汚染の様相を呈している。読売新聞はこれを「国民の不安」と言っている。スマホに慣れた現役世代はこの不安には共感できないかもしれない。彼らはきちんとわかった上で手続きをやっている。つまりこれは「一部の国民の不安」だ。

だが「悪夢」は終わりそうにない。問題は事業を推進する政府が問題の本質をよくわかっていないところからくる。それが「データベースにおけるインデックスの重要性」と「データベース統合」だ。

紙の運転免許証」が統合されることになっている。これによって「紙の本人確認書類」がなくなるはずなので銀行口座や携帯電話のオンライン申込の本人確認手段がマイナンバーカードだけになる。さらに「氏名や番号などの記載をなくす」という話もある。

いくつかの問題がある。「自分のマイナンバー」を覚えていない人は本人確認ができなくなる。「スマホで見ればいいじゃないか」と思うのだができる人とできない人がいるだろう。さらにマイナンバーカードから住所などの情報がなくなると「マイナンバーを伝え損ねた」だけで本人確認が混乱する可能性がある。つまり番号というわかりにくいものを「キー」にするのは危険なのだ。人間は間違えるので「補助のために」住所や電話番号などの補完情報を付けている。

マイナンバーシステムは「すべてのデータベースを一元的に閲覧できる人を作らない」という方針で作られている。これは最高裁判所の判例が根拠になっており方針が変更される見込みは薄い。誰も一元的にみることができないのだから、誰も一元的に復旧できないということになる。つまり一度ぐちゃぐちゃになると誰も復旧ができないという悪夢のシステムだ。

例えば「カナがシステムに入っていないので口座情報と突合できない」のも補助インデックスの問題だ。また各システムとの間の連携をマイナンバーではなく個別の番号にするというのも補助インデックスの問題である。

身分証システムは広く本人確認に使われている。例えば古いパソコンや衣料品を売るときの本人確認もその一つだ。現在は運転免許証のコピーを取り本人が記載した住所などと照らし合わせていることが多い。紙の保険証がなくなればそれができなくなる可能性が高い。コピーを取ってもそこには何も書いていないのである。古物商が読み取り機を導入するかスマホを持参で来てもらうしかない。もちろん対応できる人はいる。だが対応できない人もいる。そして新聞やテレビで話題になるのは「対応できない人」だけである。

おそらく運転免許証の統合で健康保険証と同程度の混乱が起きるものと思われるが民間が広く使っていた身分証明証システムが崩壊することによってさらに状況は混乱するだろう。

今回の一連の騒ぎで最も気になったのは「ITに詳しい人が新聞の中枢にいない」ことである。システム開発の基本もわからないという人が多いらしく「データベースとインデックス」の概念を理解している記事がほとんどない。データベースの世界で「インデックスの崩壊」は世界の終わりと同じ意味だ。日本ではまさにそれが起ころうとしている。

例えば日経新聞はきちんとこれが理解できているため状況を整理した上で一貫した記事を書いている。問題が理解したい人はぜひ記事を探してタイトルと冒頭部分だけでも読んでみるべきだ。分散管理が問題なのだからそれを改善しないままでシステムを拡張すべきではないという立場である。これを実現するためには最高裁判決を出している司法と行政・立法が協力して作業する必要がある。「何が問題なのか」はもうわかっている。あとはそれに政府が気がついて実際に動くかどうかだ。

読売新聞の社説は本質的にこのことが理解できていない。ただ「状況がよくわからない」ともかけないので最後は拡張高くふんわりと終わっている。読売の社説を書いている人はなぜ混乱が起きているのかがわからないまま「とりあえずちょっと待った」と言っているだけなのである。読売新聞を応援している人や社説の筆者は「政府に泣きつく」という表現は読売新聞に失礼だと思うかもしれない。だがそれでもせめて「日経新聞がやっている程度」の論点整理をやってから社説を構成すべきだろう。

 マイナ保険証の見直しは、今からでも遅くはない。トラブルの原因を解明し、再発防止に努めるのが先決だ。当初の予定通り、選択制に戻すのも一案だろう。

いずれにせよ「何が起こっているのかが理解できていない」以上、しばらくこの混乱は続くだろう。

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