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なぜ日本政府は通販サイトの「送料無料」を規制しようとしているのか

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最近「2024年問題」というワードを目にすることが多くなった。トラックドライバーの待遇改善のために労働時間に規制をしようという動きだ。現在の年間時間外労働1176時間を960時間に短縮する。この規制のために「トラックドライバーがますます足りなくなる」のが2024年問題である。2024年度に14%のドライバーが不足し2030年度には34%まで悪化するだろうと言われているそうだ。政府はさまざまな改善策を提示している。その中に「送料無料表示禁止や自粛」という項目がある。果たしてこれは政策として適当なのかを考えてみた。

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「通販サイトから送料無料の文字をなくせ」とのアイディアが6月2日の関係閣僚会議の「対策」の一つとして検討事項になっているようだ。だが、命令はできないので消費者庁が「無料表示」の見直しを要請するのではとも言われている

送料無料が「いけない」のは「送料というものはタダなんだ」と消費者に誤認される可能性があるからだそうだ。社会的な理解が進まなくなり「運送業者が適正な運賃を受け取れなくなる」と説明されることが多い。

消費者にとって送料無料はありがたい制度なので、ついつい「そんな無謀なことはやめてほしい」などと思ってしまう。そもそも「消費者が無知だから運送業者が困窮する」というのは言いがかりに過ぎないのではないか。

ただ単に反発をしていても生産性はない。ここは冷静になぜ運送業者が困窮するのかを考えてみたい。背景にあるのは日本独特のムラ社会のようだ。この背景分析は少し意外に思えるかもしれない。

Forbesが「なぜ物流の2024年問題は、いまだに解決されないのか」という記事を出している。実際に運送業者の待遇が悪くなった理由には次のようなものがある。

1990年代に物流業者の規制緩和が進み車両台数が5台以上あれば運送業者として参入できるようになった。このため設備投資が難しく価格交渉ができない運送業者が増えた。

だが、それ以前から物流業界には問題があった。日本はもともと狭い国土に複雑な流通経路を持つ。業態・地域ごとに異なった「卸問屋」が多いと言う構造だ。流通業者はお互いにライバルであり地域ごとに違う商習慣も残っている。つまり「小さな藩や村」がたくさんあるという封建構造なのだ。

物流業界は、大手/中小、系列企業/独立系企業、幹線道路/ラストワンマイル(最終拠点からエンドユーザーまで)、B2B/B2Cなどによって、状況がまったく異なります。なので、一緒に動くことができません。

政府はこれを「行政指導」というやり方で補完してきた。社会主義的とも言えるが「江戸幕府が各藩を束ねる」という言い方の方がわかりやすい。今でも運賃は「地方運輸局が決める運賃率表(タリフ)」をもとに価格が決まるという。村が分断されていて情報が集約されないため、運送業界自体が「どれくらいが適正な料金なのか?」が把握できない。情報がないので荷主に団体交渉ができないようだ。

しかしながら現在ではさらに状況が悪化している。それがAmazonである。日本はもともと協力できない「流通村」社会だったが、そこに黒船Amazonが入ってきた。Amazonが持っている「鉄砲」が情報だった。

日本の流通はライバル同士で情報を共有しない。しかしAmazonはすべての物流情報を細かく把握している。Amazonは知っているが物流業界は知らないとなると交渉はすべてAmazon優位で進むことになる。つまりAmazonはやる気にさえなれば全体をコントロールしつつ「生かさず殺さず」で日本の物流を植民地化できてしまう。

実際にAmazonがそのような悪意を持っていると言いたいわけではない。結果的に情報を持っている方が勝ってしまう。消費者としてはできるだけ安くできるだけ品揃えが豊富なところから物を買いたい。

2017年に既に「日本の流通業界がアマゾンに潰されないための策はあるか」という記事が出ている。AEONのような大手小売も太刀打ちできなくなっていたようだ。

Amazonが一人勝ちすれば運送業者もAmazonに依存せざるを得ない。情報を全てAmazonが握ってしまうという事情もあり「ヤマト運輸がアマゾンの荷物で再び阿鼻叫喚!宅配危機を上回る「物流全崩壊」の裏側」と言うような状態になっていた。この記事は2022年に書かれている。読ませるために大袈裟な表現になっているが、Amazonは宅配業者の情報を管理し「ギリギリ死なない程度」で宅配業者を管理している実態がわかる。

Amazonが実際に植民地支配を画策しているとは言えないのかもしれないが、少なくとも日本の物流業界で働く人たちはそう感じている。だから「阿鼻叫喚」になる。

Amazonに代表される「圧倒的勝者」を規制すれば全体としては不効率が温存されることになる。そもそもWTOの規制のためAmazon規制などできない。消費者が節約志向を強めるなか官製値上げをすれば保護主義的だという批判の対象にもなるだろう。

ただそれでも今の日本の官僚には「送料無料を禁止すればその分だけドライバーに転嫁されるのではないか」程度のアイディアしか出せない。

今後運賃の問題は国鉄のJR民営化と同じ道を辿るだろう。

民営化は都市から鉄道路線を奪ったが、仮に国鉄が生きていれば都市住民は地方に鉄道を維持するための負担を求められていたはずである。

都市部では流通団地のようなものが相次いで開発されている。「流通団地」で複雑化した小売や卸を集約し流通インフラを提供しようというアプローチである。こうした集約は都市ほど進めやすいだろう。だがおそらく地方はこの動きについてゆけないはずだ。

さらに既に「黒船Amazon」の存在がある。日本政府は国内の小売を外資から守りつつ、都市と地方のバランスを取るという難しい判断を迫られていると言えるのかもしれない。

日本の流通は長い間「ムラ」的な慣行を温存し自己変革ができなかった。だからといって経営努力をして事業の効率化を進めIT投資や設備投資を行ってきたAmazonなどの外資を恨むのは筋違いだろう。いずれににせよ通販需要はかなり伸びているようだ。政府はトラックドライバーが1/3も足りなくなるという2030年ごろまでに何らかの解決策を提示しなければならない。

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