安倍政権はいま「仮想の敵」の存在をほのめかし、自衛隊の守備範囲を広げようとしている。国民が納得できないと思ったのか、中国や北朝鮮の脅威を示唆するようになった。政策を支持する人たちは、平和主義者を指差して「彼らは売国的で愛国心がないのだ」と非難する。「戦争に行きたくない」という学生を「利己主義だ」と非難する国会議員まであらわれた。
ところが、誰が愛国的なのか分からなくなる出来事が起きた。ウィキリークスがアメリカ政府が日本政府や企業の通信を盗聴していたと暴露したのだ。これまでも疑いはあったが、今度は実際に盗聴された内容が書かれてあるので、当人たちに確かめれば真偽は分かるだろう。
これまでの間に、日本政府がアメリカに抗議したり調査を依頼したという話は聞かない。この事件は日本の主権や独立性が脅かすような事態だといえる。政治家たちはアメリカを怖れていて動かないのだろう。
2013年にドイツの盗聴が発覚した時、メルケル首相は即刻オバマ大統領に直接抗議をした。東ドイツ統治下での秘密警察の記憶があるのかもしれない。国民の間に拒絶反応があるのだろう。ヨーロッパの各国もアメリカ政府に対して同様の抗議をしている。背景には「国の主権や権益を外国に侵させてはならない」という当然の意識がある。放置すれば国内の愛国主義的な人たちを刺激しかねない。
一方で、日本にはこうした「愛国的な」人たちがいない。ネトウヨと呼ばれる自称愛国者たちは中国や北朝鮮の脅威を煽りつつも、実際に国家主権を侵害されるような出来事が起きても黙って見ているだけだ。彼らはそれほど独立国の主権に興味がないか、臆病で声を挙げられないのだろう。だから、右翼と呼ばれる人たちは愛国者ではない。
沖縄の新聞社を懲らしめろと言っていた自民党の若手議員たちも、アメリカが相手だと何も言わない。威勢のいいのは目下だと思っている勢力をいじめるときだけだ。しかも、表立っては言えないので徒党を組んで騒ぐのだ。
真の愛国者でもない人たちから「売国的だ」とか「愛国心がない」などと非難される筋合いはない。今後、安倍政権が「国益」などという言葉を持ち出しても、今後一切信頼すべきではない。ただ、嗤ってやればいいだけだと思う。
もし本当の愛国心というものがあるのなら、外国の主権を侵すような行為に対しては断固抗議の声を上げるべきだろう。