2015年に書いた「先制攻撃」についての記事。今読み返しても状況はあまり変わっていない。最近では、トランプ大統領が国際的な手続きを守らずにシリアを叩いた。「旧西側」はこれを許容する態度表明をしたので「お咎めなし」なのだろうが、空気を読み間違うとたいへんなことになりそうである。安倍首相はいつものようにトランプ大統領に賛成表明をした。(2017.4.9)
2015年7月28日、参議院の特別委員会で民主党の議員が「相手国が攻撃の意思表明をしていないのにこちらから攻撃することがあるのか」という趣旨の質問をした。これに対して、安倍首相は「あり得る」と言い、岸田外相は(これは)「先制攻撃だ」と説明した。
これに対して、共同通信は「攻撃意思を推測し行使と首相 集団的自衛権、参院特別委で」という記事を配信した後に削除した。また、「日本は先制攻撃も辞さないのか」という非難めいたツイートが飛び交った。先制攻撃は、国際法上違法ではないかという指摘があるのだが、結論だけを言うとこれは「違法とはいいきれない」そうだ。
すでに相手がピストルを構えていた(攻撃行動が起きている)場合、まだ撃たれていなくても反撃することができる。形式上は先制攻撃だが、これを「先制的自衛(もしくは自衛的先制攻撃)」と呼ぶ。これは合法的な自衛だそうだ。一方、まだ攻撃行動が起きていないのに自衛名目で攻撃することは「予防的先制攻撃」と呼ばれて非合法とされる。
先制的自衛に関しては、過去何度も政府見解が出ており、Googleで検索すればいくつかの資料を見つけることもできる。だから、軍事や防衛を勉強した国会議員は知っているのだろうが、質問した民主党議員がわかって質問したかは不明だ。
一方、先生的自衛には問題点もある。
まず、「自衛的先制攻撃」と「予防的先制攻撃」の間には主観的な違いしかない。故に、事後的に「違法だ」と判断されてしまう可能性がある。緊迫した状態では、極めて短い時間に様々な判断をする必要がある場合が多く、実際の現場では切り分けは難しいだろう。つまり「絶対に国連から事後承認されるだろう」と考えるのは危険だ。
また、「自衛的先制攻撃」は濫用される可能性がある。例えば、イラク戦争は「大量破壊兵器を持っている疑いがある」ことが自衛戦争の根拠になっている。しかし、後に大量破壊兵器は発見されなかった。ブッシュ大統領は(多分意図的に)自衛的先制攻撃の幅を拡大解釈したのだろうと考えられる。ポケットに何か入っているらしいので「それは銃に違いなく、あいつは間違いなく俺を撃つつもりなのだ」と見なして相手を撃ち殺したのがイラク戦争だ。
さて、ここまではあくまでも「個別的自衛」と「自衛的先制攻撃」の関係についての整理だ。政府答弁は集団的自衛権を合憲とした上で、個別的自衛時代の答弁を踏襲して「他国軍隊への攻撃を自衛隊への攻撃とみなす」と拡大している。一方、「集団的自衛」が憲法違反なら、「アメリカへの攻撃を自国攻撃と見なす」こと自体が、憲法違反ということになってしまうので、これ以上の議論は無意味である。いずれにせよ「集団的自衛」が容認されると、自衛隊だけではなく他国の軍隊が防衛の対象になる。つまり、状況はより複雑化することになるだろう。
答弁した側の首相や外相は「軍事の素人」だ。細か違いを理解しないまま軍事行動を行えば、容易に戦争犯罪者になってしまうだろう。間違った状況判断で戦争に突っ込めば、巻き込まれるのは国民だ。
首相にはブレーンがついているから大丈夫とおもいいのだが、この点で安倍首相には懸念がある。ホルムズ海峡の例から分かる通り、安倍首相が国際状況に関する知識は非常に疑わしい。さらに「火事の模型」の例で分かるように、抽象思考能力にも問題があるようだ。
今回の例では、安倍首相が「自衛的」か「予防的」かどちらの意味で「先制攻撃もあり得る」と言ったのかを確認する必要がある。さらに、野党はそれに留まらず安倍首相に対して具体例を交えた「知能テスト」を徹底して行うべきではないだろうか。
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