ざっくり解説 時々深掘り

与党に対抗する強い野党が生まれないのは「こだわり過ぎる護憲派」がいるから

Xで投稿をシェア

カテゴリー:

ReHacQが「日本に強力な野党ができない理由」について説明している。ノース・テキサス大学准教授の前田耕准教授の研究に基づく。統計に基づいた研究であり価値判断を排除しているのが特徴だ。宮原さんの知見は「日本に強力な野党ができないのは護憲というWedge Issueがあるからだ」というものである。なお前田さんは「これがいいことだ」とか「悪いことだ」とは言っていない。あくまでも考察材料を与えるのが研究の目的だとしている。

なお、タイトルの「こだわりすぎる護憲派」という価値判断を含む表現はこのブログ特有のものであり前田耕さんの着想ではない。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






まずビデオの筋立てから説明する。国際政治学という分野の中に比較政治学という分野がある。文化的背景を取り除き統計的に各国の政治状況を比較し「今の政治がどうしてこうなったのか」を説明しようとするという学問分野である。前田さんは「野党の存在」を重要視している。強い野党が存在すれば与党も緊張感を持って政治を行うようになるのではないかという問題設定がある。なお前田さんは1974年の生まれである。60年代70年代生まれなので中選挙区制どのもとで自民党と社会党という2つの大きな政党があった時代を経験している。

「普通の先進国」ではさまざまなイシューは収斂してゆき2党体制になることが多い。だが、日本にはそれが当てはまらない。この要因を調べたところ「さまざまなイシューに優先するイシュー」が野党を分断しているということがわかった。これをWedge Issueという。Wedgeとは楔という意味である。この楔(くさび)のせいで有権者が代替選択肢を選びにくくなっているのである。

日本のWedge Issueは「防衛・憲法問題」だ。「改憲くらいしてもいいのではないか?」という人たちと「改憲だけは絶対に嫌だ」という人たちがいる。護憲派は数としては少ない。ところがこうした人たちが社会党や共産党を応援し続けることにより少数政党が淘汰されない。結果的に野党陣営は分断されてしまい与党に有利な条件が生まれている。

ここまでが事実関係である。前田耕で検索するとSYNODOSに一つだけ記事が見つかった。基本的に同じ話が書かれている。ReHacQはやや曲がりくねった構成になっており主張だけを知りたいのであれば文章のほうが全体像が掴みやすい。

ここから話は仮定に入る。「思考実験」というような言い方がされている。

与党にとって「憲法問題」は極めて有効なツールである。つまり憲法改正を政治的に高い位置に置いておくことにより野党分断を図ることができる。憲法改正が実現してしまえば野党分断は解消される可能性がある。「仮に憲法改正が実現すると与党の優位性が揺らぐ」のだから与党は改憲するつもりもないのに憲法改正を掲げて見せている可能性があるのではないかと類推できる。だがこれはあくまでも類推であり証明された話ではない。

類似事例としてイギリスのブレグジットがある。なかなか解決されない課題だからこそ特定の野党が支持を伸ばすのに利用できていた。だがこれが実現したことでブレグジット推進派の野党は凋落しイギリスも今副作用に苦しんでいる。

この考察には当然ながら2つの質問に対する答えがない。

  • なぜ保守派は憲法や防衛の問題で分断されないのか
  • なぜ左派系野党が護憲と防衛の問題にこだわり続けるか

である。

さらに

  • なぜ2009年に民主党が政権を取ったのか

に対する答えもない。

もともと現在の政治を統計的に処理しているので「政治に参加していない人」や「気まぐれに政治に参加してそのままいなくなってしまった人たち」は捕捉できない。あくまでも現状を把握するのが目的であり、考察の出発点としては使うのが良いのかもしれない。

「実際に政治に参加しよう」と思考実験するとこれらの疑問を埋めることができる。

与党側陣営に入るためには「医師会」とか「農協」などの何らかの団体に入る必要がある。公明党まで入れると創価学会に入ってもいい。つまり何かの組織に入っていない人は原則的に与党陣営に入れない。別のエントリーで「自民党が結局公明党を選んだ」という話を数回書いた。これは今の自民党が結局が「今そこにある支持基盤」を優先したことを示している。ただ、その支持基盤は高齢化により年々小さくなっている。

一方で困窮した個人が左派系の団体に近づくと大抵「お勉強会」という形で護憲運動に参加させられる。「戦争はいけませんね」というわかりやすい平和運動が社会主義や共産主義に人々を引き摺り込む入口商品化している。つまり「今の政権には問題があるが、世の中はもっと複雑なのではないか?」と考える人は政治から排除されることになっている。あくまでも目標は社会主義の売り込みであり個人が持っている政治課題の解決ではないからである。

議論を整理すると次のようになる。特定の集団に支えられた自民党と公明党は視野狭窄を起こし問題が解決できなくなっている、自己変革のためには強い敵の存在によって危機感を持つ必要がある。ところが、既存の野党は「戦争はいけませんね」程度の平和運動に占有されている。これは新規参入者を妨げるばかりかWedge Issueにもなっている。このため、強い野党が現れることはない。だから与党も自浄作用が働かない。

「戦争はいけませんね」という平和主義は極めてわかりやすい。このため社会主義思想の普及には大きな力になる。と同時に「戦争はいけないから安倍政権には反対」程度の認識を持った人たちを大勢生み出した。当然それ以上には支持が広がらない。一般有権者の問題意識や課題とはずれているからだ。

わかりやす過ぎる「平和主義」が日本停滞の一因であるということになる。

これはあくまでも「仮説」なのだが、この仮説に基けば野党の党首は次のようなことをやらなければならない。

  • まず党内にいる「戦争はいけません程度」の護憲派を一掃する。彼らは政治に興味がある人たちの参入障壁になっており柔軟な野党連携を妨げる。
  • これまで政治の枠外にいた人たちに「政治は問題解決能力がある」ことを示す。

しかしながら現在の野党は行き詰まっている。維新の台頭に触れた共産党は内部から分かりやすく崩壊を始めている。体制批判を恐れた執行部は「第8回中央委員会総会」を延期した。もはや党内の統制も取れていないことがわかる。

立憲民主党も「政治的な問題解決能力がない」とみなされている。SNSで話題のマイナーイシューを次から次へと追いかけ「迷走」と表現されている。SNSには問題の集約機能はないのでこれを後追いしているだけでは「何がやりたいのかよくわからない」ということにしかならない。

迷走した政党に「人生を預けてみよう」などという人がいるはずもない。候補者集めに苦労している立憲民主党は遂に「借金を背負わせる」ことにしたようだ。100万円を貸し付けるから政治家になりませんか?と言っている。

与党の自民党と公明党は支持基盤の縮小に苦しんでいる。だが、現在の選挙制度のもとでは「それでも与党側に有利」である。さらに状況を有利にするために憲法を改正しましょうと提案する人もいるが、おそらく政治不信が定着しているため有権者の賛同を得ることはできないだろう。さらに野党も労働組合依存と平和運動依存では先がないとところまではわかっているのだろうがそれでもそれは「今そこにある支持基盤」なのだろう。

ある程度統計的な情報が出ているにもかかわらずなかなかそれを日本政治の再活性化のために動き出すことができない。与野党とも非常に難しい状況に置かれているといえる。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です