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政府のデジタル化の最大の障壁は「国と社会の高齢化」

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マイナンバー関連法案が可決成立した。既に伝えられているとおりマイナンバーカード健康保険証が基本となり必要な人には資格確認証を発行してもらうという制度に変わる。既に様々な問題点が指摘されているのだが、このエントリーでは「国の高齢化」にスポットを当てる。

例として取り上げたのが松阪市の事例だ。松阪市では別人の顔写真の使われたマイナンバーカードが配布された。被害に遭った男性が男性が「余っていたものを適当に貼り付けたと言われた」と言われたと証言し騒ぎになっている。この一連のやり取りを見ているとデジタル化が「高齢化した社会に振り回されている」ことがよくわかる。

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参議院でマイナンバー関連の法案が採決され可決成立した。主な改正点を時事通信から拾った。

  • 従来の保険証の廃止と資格確認証の新設
  • 氏名の読み仮名の追加
  • 一部の資格試験のために住民票の写しの提出が必要なくなる
  • 「準ずる事務」であれば省令の見直しで利用できるように
  • 既に行政機関が年金口座などの口座情報を持っている場合、書き留めを送り「不同意」がなければ自動的に登録される

細かな懸案はあるものの着想自体には問題はなさそうだ。ただ「健康保険システムで別人の情報が紐付けされている」といった事務処理の課題は全く解決されていない。

ではなぜ解決が難しいのか。

ここでは「普通の常識では考えられないような事例」を検討することにした。それが「適当にそこにあった顔写真を使って作られたとされるマイナンバーカード」という問題である。

この経緯を読んでもすっきりとした解決策が浮かび上がってくるわけではない。コスパタイパ重視の現代では多くの人は途中で面倒になって読むのをやめてしまうはずである。だがこれこそが高齢化した社会のリアルだ。

被害に遭った人が情報を整理してい把握することが難しい。地方自治体はそのような人たちの対応に疲れ切っておりついつい投げやりな態度をとる。加えて地方行政の非正規化も進んでいる。この3つが複合的に重なり合って社会全体が徐々に疲弊している様子がわかる。企業はこうした状態に耐えられなくなり退場できるのだが地方自治体は退場ができない。


松阪市で70代の男性が別人の顔写真の入ったマイナンバーカードを受け取った。読売新聞産経新聞がそれぞれ経緯を書いている。ただ、両方の新聞にはそれぞれ欠けている情報があり、これをわわせて読まないと実際に何が起きたのかが明らかにならない。

  • 市の委託業者が男性のIDを使って妻の手続きをした。このため妻の写真はシステムに残っていたようだ。
  • このため男性の写真が消えてしまい後日撮り直すとことになった。
  • ところが後で確認をするとデジカメのSDカードが破損していた。CBCの報道によるとSDカードは老朽化していた。SDカードを買うお金がなかったのかもしれない。
  • このため担当者は「記憶を頼りに顔写真を選び直した」と証言している。

ここで話を聞いた人が一つ疑わなければならないことがある。SDカードや作業用ワークステーションのインデックスが壊れて写真の日時などがわからなくなっていたというのであれば取り違いの可能性がある。ただ、SDカードが破損していたのだからデータは「ない」はずである。

つまり「別の顔写真」はどこから来たのかという問題が残る。

どうも日本人はこうした単純なロジック問題の把握が苦手のようだ。どの新聞社もテレビ局ももこの点について違和感を感じていないようだ。書いている人たちがITに詳しくない可能性もある。だが記事を書いている人は忙しくて確認する時間が取れず、情報を確認すべき管理職がITに疎いという可能性の方が高い。つまり、マスコミも「高齢化」している可能性がある。

NHKの報道が最もひどい。この報道には4回「ことです」が使われている。つまり市の言い分を右から左へと流している。

情報を検討すると、市の職員が「言い逃れ」をしている可能性が高い。

既に一度発行を申請している。しかしまたミスがあった。だからわざわざ呼び出してまた写真を撮影させてもらった。だがそのデータも壊れていた。「間違いました、もう一度来てください」などと言えば、おそらく男性は激怒するだろうということはわかる。

だから「もうどうでもいいや」と考えて手近にあった写真を使った可能性が残る。後でどうせバレてしまうがとにかく作業は終わり家に帰れる。ただこれでは写真の盗用になってしまう。だから市の側は「男性の氏名や生年月日などの確認を怠ったまま別の夫婦の男性の写真を使った」ということにしたのではないだろうか。

ただ、伝聞に伝聞を重ねるうちに元々の原因がどこにあったのかはわからなくなってゆく。一人一人の頭の中はクリアかもしれない。だが、全体から見ると「恍惚化」した状態になっている。

おそらくこの高齢の男性はかなり感情的に市職員を問い詰めたのだろう。「そこら辺にあった写真を使って写真を適当に使ったのか」と問い詰め、疲れ果てていた市職員は「そう思われたとしても仕方ないですねえ」と応じたようだ。後で問題になるかもしれないがとにかくその場を乗り切りたかったのだろう。

そしてそれを要約した男性はCBCに対して

男性は市から「『余っていたものを適当に貼り付けた』と説明された」と話しています。

と説明した。

おそらく県知事が取り組むべきなのは疲弊した窓口と業者に対する対処だろう。一連の出来事を見ると「すぐにバレてしまう嘘」でその場を取り繕おうとしている。現場はかなり疲弊しているはずだ。

これはデジタル庁にも言えることである。国民全体に電子システムを行き渡らせようとするとどうしても高齢者対策が必要になる。

電子化事業はDXではなく介護なのである。

様々な企業も高齢化した「お客様」への対応に追われている。ただ企業は疲弊すると消費市場から撤退できる。例えば日本企業はモバイルフォン事業から撤退しつつある。京セラは個人向け携帯電話事業から撤退した。Arrowsとらくらくスマートフォンを作っていたFCNTは民事再生の手続きに入った。つまり潰れてしまったのだ。大手キャリア3社は「店頭で手続きをすると「3850円」の手数料を取ることにした。高齢者中心でまともに対応すると4,000円近い人件費がかかるということになる。

ユニバーサルサービスとされてきた金融機関も徐々に高齢化社会に対応できなくなりつつある。オンラインバンキングなども高齢者対策のためにセキュリティ対策がどんどん厳しくなりその厳しいセキュリティ対策についてゆけなくなった高齢者の怒りを買っている。それでも三菱UFJ銀行はそれでもオンラインバンキングを優遇しようと手数料を改定しATMや窓口を減らそうとしている。もう事業として成り立たなくなりつつあるのだろう。

このように日本のサービス産業は高齢者から手をひこうとしている。うまく逃げられたところもあればそうでないところもある。

今回のマイナンバー健康保険証の義務化に最も強く懸念を表明しているのは医療機関である。医師会や看護師会は自民党の支持団体なので強く反対していないようだが「トラブルを経験した医療機関が6割もある」という具体的な調査結果も出ている。

ただし原因を細かく調べてゆくと何割かは医療機関がシステムをうまく扱えていないという事例が散見される。個人開業の高齢化した医療機関が自前でシステムをメンテナンスするのはかなり難しそうである。システムを扱いかねているのは実はユーザーだけではないのである。

それでも政府は医療情報の電子化に前のめりだ。岸田総理を本部長にした医療DX推進本部は2030年までに電子カルテの共有しシステムを普及させる計画を承認した。

日本の「脳」にあたる政府は実にいろいろなことを思いつく。問題は着想ではなく神経と手足だ。神経に当たる連絡通路はあちらこちらで遮断されており手足もおぼつかない。つまり、日本は社会としての高齢化が進行している。このままでは「あちらに歩いてゆきたい」と考えてもどこかでコケることになるのだろうが「脳」はまだ衰えに気がついていない

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