南アフリカのケープタウンでBRICSの外交大臣会合が行われた。今回のテーマは勢力圏の拡大である。G7広島サミットに反発する国が増えており「いわゆるグローバルサウスとの対話」が失敗に終わったことがわかる。もう一つのテーマがプーチン大統領の逮捕だ。ラマポーザ大統領が板挟みになっていて首脳会合が行われる8月までに回答を出さなければならない。先進国に恨まれたくもないがかと言って頭を押さえつけられるのも嫌だという各国の鬱屈した心情がよくわかる。これをどのように解釈するのかは別にして「グローバルサウス」と乱雑に括られた国々の本音がよくわかる。
南アフリカでBRICSの外務大臣級会合が行われている。今年のメインテーマは勢力圏の拡大だ。ロイターはイラン、サウジアラビア、ベネズエラ、アルゼンチン、アルジェリア、アラブ首長国連邦が加盟申請したかまたは興味を持っていると書いている。非同盟のインドはこのリストの中には入っていないのだが「あまりにも多くの国があまりにも少数の国の言いなりになっている」と表明した。インドネシア、ナイジェリア、ケニア、タンザニアなどリストに入っていない国もあるがG20から西側先進国を除いた新しい枠組みが形成されつつあり中国とロシアが入っている。
名指しこそされなかったが「あまりにも少数の国」はG7に代表される西側先進国を指しているものと思われる。ニコニコと「対話しましょう」といいながら経済制裁を振りかざす姿勢が嫌われているのだろう。育ちのいい岸田総理大臣は「誠意を持って対話すればきっと相手もわかってくれるだろう」と考えたのだろうが逆効果だった。既に経済で頭を抑えられているいう鬱屈とした感情を持っている国に共感できなかった。育ちの良い人にはありがちである。
もう一つテーマになったのはプーチン大統領の処遇だ。「サミット」と呼ばれる首脳会談は8月に南アフリカで開催される予定になっている。南アフリカはICC加盟国であるためプーチン大統領が入国すれば逮捕せざるを得ない。
BBC、CNN、ロイターなど各メディアを整理すると次のようになる。つまり結論は出ていない。
- 既にプーチン大統領への招待状は出ている。つまり南アフリカに来るなという話にはなっていない。
- ただし法的にどのような扱いになるのかはまだ決まっていない。
- 南アフリカはプーチン大統領を特別待遇したとは思われたくないため「すべての首脳に対しての対応を協議している」と言っている。
- ロシアも「プーチン大統領が逮捕されそうだからICC非加盟国の中国で開催しました」とは思われたくない。つまり晴れて南アフリカの地を踏むことが国際秩序に対する外交的勝利になる。
- 南アフリカの最大野党は裁判所に対して「プーチン大統領が入国したら逮捕するように」と要請した。つまり国内政局化が始まっている。
最終的な決定はラマポーザ大統領に委ねられているがどのような選択をしても誰かから責められる。BBCはこの状態を「外交上の悪夢」と記述している。
南アフリカでも当然ロシアはひどいことをしているという認識がある。と同時に「経済力で西側に頭を押さえつけられていた」という被害者意識もあり簡単にプーチン大統領の身柄を引き渡すことはできないと言った状況のようである。
ウクライナでプーチン大統領がやっていることは許し難い。悪い人は捕まって裁かれなければならない。この当たり前に思えることが「政治課題になる」ことからも、先進国と新興国の対立の根深さがよくわかる。
関連記事を読むと「国際統治」に関する不満がかなり溜まっていることがわかる。G7の関連報道を読むと「ロシアの経済制裁の抜け穴になっている国に協力を要請した」という記述が出てくるのだが、BRICSの記事を読むと「少数の国がなんでも決めてしまう今の体制には問題があるというメッセージを強く打ち出さなければならない」という記述が多い。
南アフリカの外務大臣は
BRICSは競争、地政学的緊張、不平等、世界的な安全保障の悪化によって分断された世界でグローバルなリーダーシップを発揮することをビジョンとして掲げる
と表明している。
つまりG7に代表される先進国こそが分断を煽っているという立場だ。
また中国の排除を念頭に置いたデリスキングも「現在の金融情勢の中でBRICS機関のデリスキング(リスク低減)に向けた機会を探る」と鏡写しになっている。経済制裁を振りかざすG7こそがリスクだという立場である。
立場が違うと見え方が全く違ってくるのである。