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振り込め詐欺の20年 ブラックバイト化する近年の特殊詐欺事情

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振り込め詐欺という名前ができたのは2004年だったそうだ。来年で20年になる。1990年代は架電詐欺が多く「オレオレ詐欺」と呼ばれていた。その後様々な手口が考案され「振り込め詐欺」と総称されることになった。被害額はいったん550億円程度にまで増えるのだがその後は減っていた。一方で認知件数は増加傾向だ。一つのケースで効率よく稼げなくなり「数をこなす」必要が出てきている。ただし最近は「若者の使い捨て」と「秘匿性の高いアプリ」の登場でブラックバイト化している。つまり計画した人にはリスクが少なく困窮している若者が犠牲になるという貧困搾取構造に支えられている。つまり犯罪構造が発展途上国化しているのだ。

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オレオレ詐欺の命名は米子警察署(2003年2月)とされている。

2004年に「オレオレ詐欺で実態と合わなくなった」という記事が朝日新聞から出ていてそこで引用されているそうだ。2004年に警察庁がこれを「振り込め詐欺」という名前に変えたがマスコミは「いわゆるオレオレ詐欺」などと使い続けた。

2004年の被害総額は284億円だった。この時の検挙件数は1305件で検挙人数は548人だった。

振り込め詐欺は振込による詐欺だけではなく特殊詐欺全体の「マスコミ的総称」である。この2004年を振り込め詐欺元年とすると今年は振り込め詐欺19年目に当たる。

元年の構成は次のようなものだった。圧倒的に架電詐欺が多かった。

  • いわゆるオレオレ詐欺が14,459件(被害総額約184億7,447万円)
  • 誘拐などを偽装した恐喝事件が415件(同6億5,426万円)
  • 架空請求詐欺が5,101件(同54億533万円)
  • 融資保証金詐欺事件が5,592件(同38億4,460万)

日経新聞が2010年の振り込め詐欺の実態を書いている。被害金額は100億8805万円だった。2004年から2008年までは250億円から2080億円で推移していたものの2009年には95億円にまで減っていた。つまり2009年と2010年は昇降状態だったことがわかる。ちょうどリーマンショックがあり民主党政権ができた頃である。

一旦抑え込みに成功したと思われていた特殊詐欺だがなぜかこの後から被害金額が急増してゆき2014年には559億円にまで膨れ上がった。窃盗の3.2倍という被害額だ。被害も多様化してきておりオレオレ詐欺(架電による詐欺)が174億円、各請求詐欺が171億円になっている。また高齢者が狙われる傾向はますますエスカレートし78.8%が65才以上の高齢者を狙ったものになっていた。

時事通信の2020年の記事を読むと2014年が被害額のピークだった。なぜ被害金額が減少したかについては記事が見つからなかったが金融機関の努力で被害金額が減少していった可能性が高い。2020年の被害額は301億円と半分近くにまで落ち込んでいた。「ATM操作」のオレオレ詐欺は難しくなりキャッシュカードを盗む手口が大幅に増えたなどと書かれている。

この時の主流は「キャッシュカードが盗まれた」と連絡して実際に訪問する手口だったそうだ。資産を聞き出しておく「アポ電」も増えはじめている。

被害を防ぐためにはリストを無効化しなければならない。一度流出してしまった電話番号は悪用される可能性がある。そこで詐欺に利用された電話番号の利用停止ができるようになったのが2019年だった。またこうした電話番号を取り扱った再販業社にも電話番号を販売できなくなった。

しかしながら電話番号は複数回再販されるため疑わしいことがわかっていながらも手出しができない業者が存在するというニュースが2021年11月に出ている。結局再販禁止で潰れたのは資本力のない小さな業者だけだったようである。

様々な努力で特殊被害の金額は減っているのだが認知件数は反対に増えていった。つまり大口の詐欺ができなくなったことで「細かく稼ぐ」しかなくなったのである。さらに電話番号の再販防止程度ではリストの無効化もできなかったことがわかる。

2019年の時点での認知件数は1.6万件となっている。

最新の情報は2022年のものである。被害金額は361億4000万円で認知件数が17,520件と2019年より増えている。毎日新聞によると内訳は次のとおり。

  • 「オレオレ詐欺」が最多の127・1億円(前年比40・3%増)
  • 架空料金請求詐欺が100・5億円(同47・6%増)
  • 還付金詐欺が53・7億円(同18・9%増)
  • キャッシュカード詐欺盗は43・3億円(同9・7%増)

警察は「通信が傍受できるようになれば特殊詐欺は減るだろう」と考えた。この見込みのもとで警察本部で通信傍受ができるように法改正が行われた。2016年のことだった。

通信業社と警察をパソコン型の「特定電子計算機」で結んでおき警察は傍受のたびに令状をとるという仕組みである。戦前に国家弾圧を受けていた共産党は「効率よく盗聴できる制度」として反対している。立憲民主党は通信傍受の拡大には反対しないものの「濫用されないように監視する」としている。ただし立憲民主党の公約を見ても具体的に「どう監視するのか」についての記述はない。

通信傍受ができるようになっても被害件数は減っていないのだからこの対策はあまり効果的ではなかったなかったようだ。実は秘匿性が高い「テレグラム」と呼ばれるアプリを使って闇バイトを募集する手口が横行している。狛江市で起きた強盗事件のように集められたバイトは使い捨てになってしまうため、犯罪の撲滅にはつながらない。

背景にあるのは高齢者と若者の間にあるアンバランスだろう。

若者は貧困化している。さらに「こんなことをやると自分がどうなるのか」ということがわからなくなっている。つまり発展途上国型の「搾取型犯罪」を計画しやすくなっている。仮に教育がしっかり行き届いていれば「犯罪加害者として利用される」という被害は低減できるだろう。一方でテレグラムのような複雑なアプリは簡単に使いこなすことができるしスマートフォンも行き渡っている。

一方で複雑化するテクノロジーにはついてゆけないが現預金は豊富に持っているという高齢者も大勢いる。中には冷静な判断力を失いつつある被害者もいるだろう。金融機関は様々な方法で被害防止に努めている。だが利用者がそれを理解できなければ被害を食い止めることはできない。

知識と資産のアンバランスがあるため犯罪を組織する人たちにとっては非常に都合の良い状態になりつつある。つまり、特殊詐欺を見ると我々の社会が今どのような状態に置かれているのか、私たちの社会が何をしてこなかったのかということがよくわかる。「犯罪は社会の鏡」と言えるのかもしれない。

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