ざっくり解説 時々深掘り

アメリカ合衆国がウクライナの動きを不安視しはじめる

「マスコミが伝えない真実」という言葉がある。ウクライナで進行しつつある出来事に対してアメリカ合衆国サイドの懸念が強まっている。だが地上波を見ていてもあまりそのような報道は見られない。もちろん丹念に情報を拾うときちんと伝えられてはいるのだが日本の地上波などでは扱いに困っているのではないかと思う。我が国の外交政策とは相容れない部分が大きいからだ。この問題を突き詰めてゆくと「法治国家」の根幹というとても大きな問題につきあたる。世論が政府より先にダイレクトに現場から情報を得るようになると政府の信頼性が根本から揺らいでしまうのだ。

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ウクライナからロシア側への越境攻撃が増えている。ロシア側は今回の紛争を「西側がロシアを破壊しようとしている」と宣伝している。これまでは単なる専制主義のプロパガンダだと思っていればよかったのだが「あるいは本当にそうなのか?」と疑念を持つ人が増えてきた。そうなると別の陰謀論が出てくる。つまりアメリカは当初からロシアの転覆を狙っていたのではないかということだ。だがそうでもなさそうだ。アメリカ合衆国はこの問題をかなり深刻に受け止めており、盛んに「米軍が供与した武器が他国侵略に利用されてはならない」と主張している。当初から狙っていたのならこのような表現にはならないだろう。

このためミリー統合参謀本部長は「ウクライナに対し、米が提供する軍備を使用してロシア領内で攻撃を行わないよう求めてきた」と釈明した。

なぜこのこのようなことになるのか。

アメリカは法律が支配する国だ。つまり全ての枠組みには法的根拠と国民の支援・支持が必要である。今回の支援はウクライナの民主主義を守ることであって他国への侵略はあってはならない。そう説明してきたし枠組みもそういう建前になっている。

だが、実際の軍事作戦においてこの二つの区別は極めて曖昧だ。

現在起きている「越境」の動きは2つあるが、今後もさらに続くものとみられている。後述するが「作戦」には祖国解放主義者だけではなく危険思想を持った民族主義者も含まれておりそうした「現実」が政府見解を待たずにSNSでダイレクトにリビングルームになだれ込んでくる。

マスコミが整理した情報が国民に流れそれをもとに徐々に政党間で合意形成されるというのが民主主義だとすると、その前提が揺らいでいる。現在の「法律が支配する」という枠組みではこれを整理することも説明することもできない。

まず第一の越境の動きから見てゆく。ニューヨークタイムズが、クレムリンのドローン攻撃についてウクライナ側の関与があったようだと伝えている。この記事を引用した記事を時事通信・産経新聞・ロイター通信が出している。

まず、この動きは「アメリカがウクライナを使ってロシアの体制を破壊しようとしている」とするロシアのプロパガンダに利用される可能性がある。だがもっと懸念されるのは国内政局っへの影響だ。

大統領選挙への出馬を決めたフロリダ州のデサンティス知事は「ウクライナ戦争への関与は米国にとって重要な国益ではない」としている。ロイターの記事によるとトランプ氏も関与は控えるべきであると主張している。ただ、共和党内部の意見はまとまっておらず、今後の情報によって世論が大きく変わる可能性がある。つまり世論の反応は極めて重要だ。

第二の動きは「越境作戦」だ。双方の主張が食い違っており作戦の規模はよくわかっていない。だが、どうもロシア人志願兵たちの話が変なのだ。彼らもうっすらと「ウクライナ防衛とロシアの体制転覆」を分けなければならないことがわかっている。さらにアメリカなどの支援した武器をウクライナ防衛に使うのはOKだが越境攻撃に使ってはいけないということもわきまえているようである。

CNNが積極的に政府の姿勢を伝えていることからも分かるように、おそらく今回の動きでもっとの動揺しているのは支援継続派だろう。

支援継続派の中にも「力を維持したいから」という人と「民主主義というイデオロギーを守りたい」という人がいる。「イデオロギーを守りたいから」と考える人の方が動揺は大きいかもしれない。民主主義擁護派のCNNが今回の件を熱心に報道している理由はおそらくこの辺りにあるものと思われる。

自由ロシア軍団については報道がいくつも出ているのだがロシア義勇軍団についての情報は少ない。実は創始者のデニス・カプースチン(デニス・ニキーチン)氏は2019年にシェンゲン圏から10年間の「出入り禁止」を申し渡されているという。「危険思想」が域内に影響を与えかねないというのがその理由である。このため西側の報道でフィーチャーしにくいのだ。

「戦争ってこんなものだろう」という気はする。「祖国防衛」と言ってもやはりきれいごとでは済まされないのだから色々な不都合な話は出てくる。祖国存亡の危機に立つウクライナは何が何でもこの戦いに勝利しなければならない。自分達の命がかかっているしその背後には大勢の国民がいる。仮にこの戦いに負けるとこれまで必死にアイデンティティを保ってきた「ウクライナ」という存在が無かったことになる。つまり彼らは歴史の重みも背負っている。

だが支援する側にはまた別の事情がある。

すでにこの「基礎」の上には大きなお城が建ち始めている。G7広島サミットではそのことが明らかになった。ゼレンスキー大統領をセンターステージに立たせて「民主主義と専制主義との戦い」に格上でされた。

日本ではロシアのウクライナへの一方的な現状変更を許してしまえば、それは中国を刺激して台湾でも同じ話が起きるだろうという話に接続されている。だから中国は抑制されるべきだという論につながる。日本の国益にとって対中国競争は極めて重要なテーマだ。

一方でアメリカでも「民主主義の擁護者である民主党が共和党や専制主義者と戦わなければならない」という話と接続されている。こちらは予算を巡り壮絶なバトルが繰り広げられている。

政権担当者にとっては極めて重要なテーマであるため「ウクライナの専守防衛を支援している」という前提が揺らぐことがあってはならない。

「戦況」の様子はSNSを通じて拡散しておりこれを整理して再配信する軍事ブロガーという人たちが増えている。今回の動きを2014年のロシアの一方的なクリミア侵攻から始まったとするとすでに8年以上が経過していることになる。このため民間レベルの「情報網」が形成されつつある。

政府の説明とは別に豊富な情報がリビングルームに直接配信される。これがマスコミを動かし世論を形成するのだ。アメリカだけでなく日本でもこうしたまとめ情報を出す人たちがいる。Quoraの政治スペースで教えてもらった話によると日本でもこうした活動に参加する人がいるそうだ。彼らは「趣味」でやっていて「好きでやっているだけなので放っておいてほしい」と言っているという。

国民世論が支援の大義を疑い出すという現象はベトナム戦争時にも見られたが、現在はSNSによって「戦況」が逐一報告されるというベトナム戦争当時にはなかった状態も生まれている。その担い手たちは必ずしもプロのマスメディアではないというのも今回の特徴だ。

このロシアとウクライナの間の「紛争」をどう呼ぶかは別として、徐々に「新しいフェイズ」に入りつつある。独裁主義や専制主義はこうした状況を「都合よく」解釈することができるのだが「法律が支配する」という体裁の国はそういうわけにはいかない。砂の上に大きな城を立ててしまうと足元から瓦解するということになりかねない。

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