G7が終わりテレビは一斉に「マイナンバーカード関連のトラブル」を報道し始めた。どうも「なんかいろいろ」起きているようだ。総理大臣じゃ「重く受け止める」と発言しているが、おそらくこの手の問題はしばらくはなくならないだろう。問題は大きく分けて二つある。システムエラーと運用ミスだ。それぞれ具体的な対策が異なるのだから問題を整理しないまま犯人探しを始めめても状況が混乱するだけだろう。マイナンバーカードの信頼性どころか与野党を含めた国会議員全体の信頼性が疑問視されかねない。システマチックな落ち着いた議論と対応が求められる。
一般企業でこのような問題が起きた時にも担当者が関連部署から詰問されるというようなことはあるかもしれない。だが責任問題だけが話し合われることはないはずだ。おそらく「具体的にどんな対策をとるべきか」を担当者がきちんと認識しているかどうかに関心が集まるはずである。
ところがNHKの「立民 安住氏 マイナンバーでトラブル “国会で集中審議を”」を読む限り、国会ではそのような議論になっていない。立憲民主党は政府の落ち度を責め立てる。一方で政府側は平謝りはしているが何が原因だったのかという情報の整理はしていない。TBSの報道によると総理大臣はとにかく重大な決意で問題を解決し信頼回復に努めると言っている。
今回の問題を極めてざっくりと分けると「システムエラー」と「運用上の問題」という全く異なる二つの問題が入っている。原因が異なるのだから当然対策が異なる。システムの問題は「バグの修正」で片付く。だが「運用体制」の問題は簡単には片付かない。根本にあるのは人材不足である。予算を準備して人をかき集めるだけでは不十分で人材の育成も同時にやらなければばらない。さらに政府の側にもデジタルリテラシを持った官僚が配置されていなければならない。
とここまで整理した上で各論を見てゆく。問題は三つある。コンビニ、銀行口座、健康保険証だ。
Fujitsu MICJETコンビニ交付システム:システムエラー
日経XTECがまとめページを作っている。一定時間以上過ぎると「ロックを解除するバグ」が存在したというのが最初の説明だった。さらに後になって「川崎市では既存システムと橋渡しをするシステム(アドオン)にバグが存在した」ことがわかった。だがこれは川崎市の特殊ケースだったと書かれている。
全国で200弱の自治体がこのシステムを使っている。
個人ブログで事故をまとめた人がいる。
影響は住民票・印鑑登録証明書(他人のものと廃印が含まれる)・戸籍など多岐にわたって誤送付が起きており住民票だけの問題ではなくなっている。この個人ブログは事故原因も細かく分析していて読み応えがある。ブログには富士通のバグ報告へのリンクもあり細かな内容が知りたい人は富士通の説明も見ることができる。
ざっくりと要約すると次のようになる。
- システム上設定されているタイムアウトの上限を超過するとロックが解除される。
- コンビニ用のデータベースと地方自治体が使うデータベースが別立てになっている。この二つのサーバーの整合性は「随時」保たれているのだが随時連携処理に加えて2件以上のコンビニ交付が起きると本来のイメージファイルが上書きされてしまうというバグがあった。
- 川崎市の例は2に似ている。違いは地方自治体が使うデータベースが「川崎市専用の独自システムだった」という点にある。
1と2、3は結果は同じなのだが、厳密には原因が違っている。一方はタイムアウトによるロック解除という「システム設計の仕様」の問題である。もう一つは複数システムの連携の問題だ。
これらの問題を6月4日までかけて点検するということになった。このため現在このシステムは利用できなくなっている。いずれにせよ問題はバグなのだから頑張って調べれば特定可能だ。つまり開発体制と監査体制を整えれば解決が可能だ。
ただ残りの2件はそうではない。公金受取口座の問題と健康保険証の問題があるがどちらも運用上のトラブルである。公金受け取り口座の問題は「ほぼ運用問題」なのだが、健康保険証の問題はそうではないかもしれないという違いがある。
公金受取口座:想定されていなかったオペレーション
6自治体で11のエラーが確認されたとしてこちらも一斉点検が実施されることになった。エラーの原因は「支援」だった。市役所などでマイナンバーカード取得の手続きを支援する取り組みがある。この時に使われた機械でログアウトしないまま次の人が手続きをすると前の人の情報が紐づいてしまう。マニュアルを作って対応することになっていたが徹底されていなかった。
こちらの件はコンビニの問題と全く原因が違っている。もともとのシステム設計上では「個人が情報を登録する」ことになっており登録システム共用という想定にはなっていなかった。ところが政府方針が変わり、急遽「公共登録機」のようなものが必要になる。当初想定されていなかった要件が後から降ってきたことでシステムが対応できなくなった。
システムは「要件」を決めてからシステムを決め、その要件に従ってテストをしてゆく。つまりこの件で議論されるべきなのはシステム設計ではなく広い意味での運用である。運用は大きく分けると「政府の物事の決め方」と「現場のオペレーション」ということになる。冒頭の立憲民主党の「政府のやり方が悪い」だけでは解決ができない。
いずれにせよこの問題はそれほど大きな問題にはならないだろう。「システムが信頼できるまでは使わない」と自治体が決めてしまえばいいからである。
健康保険証:事務処理の問題の可能性が高い……のだが
実は今回最も根が深そうなのは義務化が予想されている健康保険証の問題である。
国会では中心課題にはなっていないが、義務化を前に報道自体は徐々に増えている。医療機関で戸惑いの声が上がっている。ざっくりとまとめると「政府はマイナンバーカードの運用上の問題だと思っているが実はそうではないかもしれない」ということになる。
最初の問題は「マイナンバーカードに紐づけられている保険証データが本人のものではなかった」というものだった。これは「運用上の問題」であり「マイナ保険証の問題」と考えてよさそうだ。
利用者が見つけたエラーとは別に点検によって見つかったエラーが7300件程度あった。すでに6件で情報の閲覧が確認されているという。これは同姓同名で生年月日が同じ場合に起きたと説明されている。
同姓同名で生年月日が同じ場合は住所によるマッチングを行うはずだ。だが、そもそも申請の住所と登録の住所が違っているというエラーメッセージが全体の1割から2割もある。このため住所によるチェックが行われていなかったというのが現在の政府の認識である。本人のマイナンバーがわからない場合は住民基本台帳で本人情報を照会し転記する仕組みになっている。この時に転記ミスが起きた可能性が高いようだ。
朝日新聞は健康保険組合は7月末までに結果を報告するようにと求められているそうだ。
ひもづけられた全データを点検するほか、健康保険組合などに確認を指示し、7月末までに報告するよう求めるとした。
そもそも「急いで登録せよ」と言われ間違いが多発した。今度は「急いで確認せよ」という話になっている。つまり政府は全く反省をしていない。いずれにせよどちらも「システムは間違っていない」という前提がある。だがその前提がそもそも怪しい。
「同姓同名で生年月日が同じ」という人が7,300件もあるものだろうかという疑問が湧く。
この件について記事を書いている東洋経済は健康保険証に関してはそれ以外の問題も起きているとしている。大阪市守口市の北原医院では「全体の3割は保険証の内容とオンラインの出力結果が合致しない」という。読売新聞は埼玉県保険医協会が会員を対象に行ったアンケート結果を報道している。情報が表示されるはずが表示されないというエラーもかなりの割合で起きているようだ。「7割が何らかのトラブルを経験」と総括されている。表示の問題に加えてネットワーク障害などのシステム障害も頻発しており現場がシステム自体を扱いかねていることがわかる。
今世間の関心は「マイナンバーカード」に集まっている。だがこれを健康保険証システムとみた場合、当然「それを読み取る装置」と「情報を保存しておく装置」も含めて検討されなければならず、医療従事者などのオペレーターもシステムの一部になる。
「顔写真がすり替わっている」という新たな問題も
実は読売新聞を読んでいて気になる箇所を見つけた。埼玉県美里町で「別人の顔写真が入ったマイナンバーカードが発行されている」と書かれている。この問題に関してはそもそも独立した報道がない。つまりまだ問題にはなっていないのだが今後問題になる可能性がある。
そもそもマイナンバーカードがPhotoIDとして信頼できないということになれば、マイナンバーカードシステムの信頼性は根本から崩壊するだろう。
顔写真以外の個人情報は2人とも申請者のものだった。受け取った後の今月18日に町に連絡があり、ミスがわかった。
システム設計担当者は「窓口で本人確認するから顔写真の撮り違いがあっても気がつくはずだ」と思い込んでいる。だが「受け取ったカードを眺めても自分の写真でないことに気がつかない」人がいるのである。
だが、この問題はそもそも自治体側が確認ができない。地方自治体は「住民の顔を確認する手段」がない。つまり申告待ちということになる。2件確認できたということはおそらくそれ以外の場所でも起きているだろうということになるだろう。
今回は「問題を洗い出した」だけで「これをどうするべきか」については踏み込まなかった。まずは前葉を洗い出した上でシステマチックに検討しなければいつまで経っても「マイナンバーカード関連でなんか色々起きている」以上の認識にはならないだろう。おそらく問題が全て出尽くしたとは言えないようである。国会がこの問題をどうハンドリングするのかに注目が集まる。