田崎史郎氏がTBSの情報番組「ひるおび」で「ゼレンスキー大統領の広島訪問は前々から決まっていた」と説明した。「ひるおび」は岸田総理は一歩後ろに引いてゼレンスキー氏を主役に据えることでプロデューサの役割を果たしたのだろうと岸田総理の配慮を讃える構成になっていた。だが実はイギリスやフランスも「自分達こそゼレンスキー氏の訪日を主導した」と主張する。一体田崎さんと英仏のどちらの言い分が正しいのか。調べてみた。
田崎史郎氏はTBSの情報番組「ひるおび」に出演し「ゼレンスキー大統領の広島訪問は前々から決まっていた」が「日本が最初に情報をリークするわけにはいかなかった」と説明した。ソースは田崎史郎氏の取材ということだが取材源は明かさなかった。のちに共同通信が「茂木幹事長の発言」を記事にしている。こちらも岸田総理から聞いたとなっている。つまりどちらも伝聞だ。
今回の広島サミットを見ていると岸田総理が悲願としていた「広島で核廃絶に向けて大きな一歩を踏み出す」というメッセージと「ロシアの核兵器利用も仄めかしも許されない」とするメッセージが混在している。
特に加害国アメリカから見れば、自国が莫大な損害を与えて国で核廃絶にコミットすることは弱さの現れと見做されかねない。アメリカにとってみればゼレンスキー大統領が全面に出ていた方が何かと都合が良い。これは核兵器保有という既得権益を獲得しているイギリスにもフランスにも言えることだ。
ゼレンスキー氏の早期訪問により首脳声明(コミュニケ)は異例の早期発表となった。ゼレンスキーサミットになりかねないという危惧があり埋没を恐れたのであろうと報道されている。ただ、これが「サプライズだった」となると議長国日本がゼレンスキー大統領にジャックされたとなりかねない。そこで側面から「日本が蚊帳の外」にはいなかったというメッセージを発信しようとしているのだろう。田崎史郎氏の発言も茂木幹事長の発言も伝聞になっているため、これが誰の発案だったのかはわからない。
マクロン大統領は終始一貫してウクライナ大統領がアラブの指導者、インド、ブラジルと対話できるように心を砕いてきたと明している。マクロン大統領がゼレンスキー大統領に会った時にはまだ計画は固まっていなかった。だがこの時にキーウサイドから正式な要請があった。フランス空軍のエアバスがポーランド国境でゼレンスキー氏をピックアップしその後で日本に輸送するという計画を立てた。
これがフランスの主張だ。
田崎史郎さんの「消息筋」からの情報と違いFrance24の報道は極めて具体的だ。またフランスはジョー・バイデン大統領がF16などの提供を認可するという許可を得てウクライナ人パイロットの訓練をする用意があるとも述べている。
ロイターも同じ論調である。マクロン大統領は中国に接近し同盟国とウクライナを怒らせてきた。そこで名誉挽回のために今回のゼレンスキー大統領の訪日について働きかけたのだという。ただし日本に全く告げないわけにはいかない。そこでフランスの主導で日本に対して数週間の間準備をしてきた。つまり田崎史郎さんの言っていた「日本が来日の可能性を知っていた」点は間違いがないようだ。「日本主導」ではなかったが全く蚊帳の外でもなかったという程度の話だったのだろう。
ガーディアンは「G7の対面出席を提案したのはイギリスのスナク首相である」と報道しているようだ。共同通信が伝えている。原文によるとこちらも消息筋の情報である。
日本にとっては重大関心事だった広島・長崎の原爆投下と核廃絶だがおそらくマクロン大統領とスナク首相はそれをそれほど大きなテーマとは見做さなかったのだろう。ゼレンスキー大統領と一緒に世界の首脳が集まる絵が作れた方が注目が集まると考えた可能性がある。さらに核兵器保有国の首脳が広島に呼び出され「将来の既得権放棄」を約束させられたというのはいかにも格好が悪い。つまり「広島でのG7開催」はおそらく岸田総理の思惑を遥かに超えるインパクトを持っていたのだろう。日本は自分達が主張しても非核など簡単に実現するはずはないと思っている。だが実は当の核兵器保有国はそうは思っていない。非核国の方が数としては圧倒的に多いからである。
いずれにせよゼレンスキー大統領の訪問について事後報道が流れると「本来議長国であるはずの日本は主導権を握れなかった」ということになってしまう。そのため田崎史郎さんの「積極的関与」という「取材」につながったのではないかと思う。
とはいえ、永田町の現在の関心事は「この流れにどうやってあやかれるか」に移っている。つまり広島サミットは単なる政権の宣伝のための小道具だと見做されている。
今、マスコミが注目するのは「解散総選挙」だ。各メディアともさまざまな観測を流しているがロイターは「アングル:解散観測に浮足立つ永田町、岸田首相に吹くサミットの風」とタイトルをつけている。
解散総選挙については今行うべきだという主張と秋頃にやるべきだという主張がある。
今行うべき
- G7広島サミットはゼレンスキー大統領の訪日もあり「満点以上」の出来だった。このため今は支持率が高い。この空気のまま解散総選挙に流れるのが良い。菅総理は支持率の高いうちに総選挙をやれずに短命に終わった。ここは安倍総理を見習い支持率が高い時に総選挙をやるべきだ。
- 維新の準備が整う前にやった方がいいのではないか。維新の勢いは侮れない。
- 夏には電気料金の値上げの影響が出てくる。また秋以降には防衛増税の話をしなければならない。国民は徐々に問題の大きさに気がつくのだからその前に総選挙をやった方がいい。
秋にやるべき
- 今総裁選挙をやると「支持率が高いうちに逃げ切ろうしたと言われる」という反発が出る。
- 公明党の準備が間に合わないので公明党の支持が得られない。
- 前の総選挙からの期間が短すぎていかにもご都合主義だ。
どちらにせよ「日本主導でゼレンスキー大統領を招いたG7広島サミットは大成功だった」という前提がなければ成り立たない話である。特に「秋以降」の場合この流れをできるだけ長く持続させなければならない。
マスコミが「このサミットは大成功でした」と総括すれば多くの人は「ああそうだったのかな」と思うわけで、ここは日本主導で(あるいは積極的関与で)ゼレンスキー大統領を呼んだということにしておきたいのだろう。
岸田総理は記者会見の最後に「逃げるんですか?」と問われ4分以上反論したと伝えられている。おそらく本当に成功したのかそうでなかったのかはご本人が一番よくご存知だろうが、永田町の関心は「次」に向かっている。
これまでは「宿願のサミットまでは」というのが岸田内閣の求心力になっていた。今後何を課題にして求心力を維持するのか、岸田総理の手腕に注目が集まる。