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結局のところアメリカの債務上限問題は何を話し合っているのか?

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バイデン大統領とマッカーシー下院議長の間で債務上限問題に関して激しい議論が行われている。だが冷静に考えてみると「一体何を話し合っているのか」がそもそもよくわからない。あらためて調べてみた。

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概要

違い1:財政再建のアプローチ

第一にアメリカは財政再建圧力にさらされている。民主党も共和党もそれぞれ対策を出しているがアプローチが異なる。特に共和党側は支出を抑えることで財政再建を実現したい。このため長期にわたって支出を2022年の水準に抑えようとしている。当初10年間支出を制限するという約束を取り付けようとしていたがこれを6年に短縮した。ABCニュースによると政権側は2年間の予算協定を望んでいるそうだ。

ただし、例外もある。それが国境対策と国防関連費である。民主党の政策を縮小し国防に費用を割り当てようとしている。共和党はどちらかというと「強さと結束」にこだわっている。民主党が福祉予算を需実させ多様性を促進することが「弱さへの配慮」に見えてしまうのだろう。

ポリティコによると、民主党は国防、住宅補助、教育、科学研究の支出を据え置こうと提案した。一方で共和党は軍、退役軍人ケア、国境警備の支出は増やすように主張している。そのための財源を捻出するために「一部プログラム」を削減しろというのが共和党の要求だ。

ロイターによると下院共和党は政府支出の削減は広範囲に8%の規模となる。教育や法律執行などの一部のプログラムは22%も削減されることになると民主党は主張しており共和党もこれを否定していないそうだ。CNNによると共和党は移民条項とフードスタンプという2つの条件を新たに加えたいようだ。

違い2:トランプ減税の評価

もう一つの問題は増税である。ロイターによるとトランプ大統領時代に富裕層をターゲットにした減税が行われている。民主党はこれを廃止して自分達の政策を実現するための原資にしたい。一方で共和党は支持基盤になる富裕層や企業を優遇し続けたい。

トランプ政権時代の減税はポリティコによると3兆5000億ドルになるそうだ。CNNによるとマッカーシー議長は増税は「テーブルの外にある」としている。つまりトランプ減税は死守したい。一方でバイデン大統領側は「税収もテーブルに乗っている」と主張している。

ここまでが大体の概要のようだ。

あとはお互いの罵り合いに

双方の主張の違いはわかった。だが主に伝えられているのは共和党と民主党の罵り合いだ。一つの記事に双方が入り混じっているため記事の読み込みは極めて難しい。

共和党側は「民主党は闇雲に支出を増やしアメリカの財政を破綻させようとしている」と主張している。一方で民主党側は「共和党は富裕層を優遇しつつ助けが必要な人たちを見殺しにしようとしている」と共和党を批判する。

当初この問題を整理するまで「これは共和党側の条件闘争なのだろう」と軽く考えていた。つまりどの費用を削減するかでできるだけ多くの成果を勝ち取ればマッカーシー下院議長は満足するだろうと思ったのである。

だが、そもそも基本が全く違っており「合意点を見出すのは簡単ではないだろうな」という気がする。だが「もう話し合いなんかやっていられない」と宣言した方がデフォルトの主犯ということになってしまう。そのため交渉のテーブルから降りられないという状況だ。

参考文献


長い長いあとがき

今回あらためて状況を整理してみて「普通のアメリカ人は果たして現在の債務上限問題について理解しているのか?」と感じた。実はこのまとめには含まれていないものがある。それが「レッテル貼り」と「制度の複雑さ」である。

レッテル貼り

共和党側は「バイデン大統領はバーニー・サンダーズ氏が何か言うたびに意見を変えているぞ」と主張しているそうだ。バーニー・サンダーズ氏は民主党左派だが一部からは「社会主義者」と見做されている。つまりバイデン大統領は社会主義者に操られていると言いたい。一方でバイデン大統領はMAGA共和党員は「いっそのことアメリカがメチャクチャになればいいと思っているのだ」と主張している。トランプ前大統領が「アメリカはデフォルトすべき」と主張したことを受けてのコメントだろう。

そもそもの問題が複雑な上に両サイドともレッテル貼りをやっている。この罵り合いに夢中になっている人もいるのだろうが、中にはもううんざりだと考えている人も多いのではないかと感じる。

制度の複雑さ

さらに複雑なことに民主党も共和党も党内に極端意見を持った人たちがいる。つまり、下院執行部も大統領も「妥協が必要だ」と考えても妥協できない可能性がある。

おそらくアメリカ人が最も恐れているのはこの点なのだろう。

バイデン大統領は何も自分が自分のやりたいようにやろうと考えて各種プログラムを発案しているわけではない。民主党の上院・下院の支持を取り付ける必要があり各種プログラムの提案をしている。バイデン氏が「どのプログラムを削減しようか」として何かを選ぶとそれを要求した人たちを敵に回すことになる。

上院は民主党優位なので報復的に予算案を潰してしまうかもしれない。するとバイデン、マッカーシー両氏が合意したとしても予算案が潰れてしまう可能性がある。つまり下院と大統領の他に「上院」という不確定要素が残っている。

マッカーシー氏が「生産的だった」というのは「バイデン氏が何かを諦めることに同意した」という意味になる。ただこれは「どの民主党議員を切り捨てるのか」というのと同じ意味になる。バイデン氏は早めに諦めてしまうと「次々と何かを差し出さなければならない」という恐怖心が生まれる。だから妥協が非常に難しい。一方でギリギリまで粘ってしまうと上院で不測の事態が起きた時に対応できない。こうして意地の張り合いから自ら沼に嵌まり込んでしまっているという印象すらある。

バイデン大統領もまた民主党を「統制」しているわけではなく造反のリスクにさらされている。

2021年に予算をまとめた時にバイデン大統領は民主党から造反されている。まずエネルギー問題では共和党が優位になりそうな州で造反された。さらに年末にかけても「マンチンの乱」が起きている。インフレを加速させかねないという主張で民主党内からも「和を乱す」として批判されたそうだが結局マンチン氏の懸念は的中している。

ただ、これらは「アメリカ」という文化の中で行われている単なる政治闘争に過ぎない。つまりどんなに激しく思えたとしてもそれはある程度予測可能な対立である。アメリカ合衆国は同じようなゲームを外国に対しても仕掛けることがある。対中国で「デカップリングからデリスキング」という流れがある。バイデン氏側はこれで中国とコミュニケーション可能だと考えているようだ。だが実際に中国がこれをどう受け止めているのかはわからない。アメリカと中国では文化が全く違っているからだ。

ロイターはさらに「中国も売られた喧嘩は買わなければならないと考えているだろう」というような意味のことを書いている。

今回の債務上限問題はバイデン大統領の好戦的な姿勢が状況を悪化させていると言える。だがそれでもまだアメリカの国内問題である。一方で対中国問題は米中の間に挟まれている日本や韓国の外交に大きな影響を与える。感情的な行き違いが生まれる可能性はおそらく外交の方が内政よりも遥かに高いだろう。

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