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干ばつの影響で北米の冬小麦は不作

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2023年3月ごろ小麦価格に関しては二つの異なる見方があった。小麦価格が落ち着きつつあるという報道と今後値上がりするかもしれないという報道だ。アメリカ大陸では干ばつがあり冬小麦の不作が予想されている。収穫は6月ごろになるそうだ。

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小麦相場は1ブッシェルあたり4ドルが底だった。ウクライナの戦争で13ドルから14ドル超まで値上がりしたが次第に落ち着きを取りもどし8ブッシェル近辺に落ち着いた。最近のニュースでは3月に「オーストラリアやブラジルでの生産が増えるであろう」という見通しから6ブッシェル近辺まで落ちていると伝えられている。

ウクライナの状況が混乱すると一時極端な値上がりが進んだ。しかしながら小麦の産地は多極化している。気象条件は地域によって異なるためしばらくすると価格は安定する。つまり市場には価格調整という機能がある。つまりある一定地域で小麦が不作でもそれは中期的には調整されるということになる。

小麦の価格を理解するのに重要なのは産地の多極化とその作付けスケジュールのようだ。作付けには「冬小麦」と「春小麦」がある。アメリカ大陸南部では冬に種を蒔いて夏に収穫する冬小麦を育てる。一方で越冬が難しいアメリカ合衆国北部とカナダでは春に種を蒔く春小麦が作られる。当然季節が逆になる南半球でも小麦は栽培されているしインドなどでも小麦は作られている。

アルゼンチンはこの冬は深刻な干ばつだった。大豆ととうもろこしの減産は大きく「小麦は比較的マシ」というのがJETROのまとめである。一方でCNNは小麦も被害を受けていると書いている。当然のことながら干ばつの影響はあらゆる作物に及んでおり小麦は比較的マシという状態に置かれているに過ぎない。

3月の時点では暖冬の影響で再び上昇する可能性があるなどと指摘されていた。この時に北米で懸念されていたのは霜の害だった。4月ごろの報道ではアメリカ合衆国の冬小麦の品質が危惧されている。主要生産州の冬が乾燥しその影響を受けたようだ。今年の冬小麦の収穫は6月と7月になる。春小麦の作付けも過去5年間で最低になる見込みだと考えられているという。アルゼンチンとアメリカ産の小麦の出来はしばらくはあまり期待できそうにない。

特に干ばつはかなり深刻だったようである。

アメリカ小麦協会のウェブサイトには深刻な2023年干ばつの状況が報告されている。日付は4月25日だ。冬小麦の産地はテキサス州からサウスダコタ州にまで広がっているというが、干ばつのため収穫を諦めて放棄されているところも多いという。

この短い文章から一つわかることがある。日本人は日本中の田んぼでコメだけをつくる。水田を畑に変えるのは大変だし畑から水田に戻すのはもっと難しい。だが小麦はそうではないようだ。

気象の状況を見ながら今年は何を作るのかを決める農家がいるようだ。小麦相場の方がギャンブル性が高いということがわかる。雨の降る時期を過去の天候パターンから読み取る必要があり仮に小麦に向かない気象条件だった場合には対策を講じなければならない。その対策とはつまりトウモロコシや大豆などの他の作物に転作することである。

だからこそ小麦などの穀物には先物市場がありリスクの軽減が図られている。

産地の多様化もまた小麦価格の安定に寄与する。

このニュースを受けてカナダは2001年以来最大の小麦生産計画を立てている。アメリカの冬小麦の品質は1989年以来最低だったが、アメリカの春小麦の不作を受けてカナダ側は「チャンス」を感じているのかもしれない。2001年以来最大の作付面積になりそうだ。

このようにグローバル市場は小麦価格の安定化に寄与している。だがそのグローバル化がうまく機能しない例が出てきている。

ウクライナで戦争が起きた時「ウクライナの小麦の品質は比較的悪く日本は高級なカナダの小麦を使っているからあまり影響を受けない」などと説明されてきた。確かに小麦などの穀物相場は「グローバル化」が進んでおり価格が平準化される傾向にある。ただこの時は小麦の価格が世界的に急騰した。おそらくは情報による価格高騰もあったのではないかと思われる。その後急速に価格は落ち着き以前より少し高い程度まで落ち着いているからである。

肥料や農業機器の生産もこのグローバル化の影響を受けるそうだ。NHKがウクライナの戦争が始まって直後2022年の春頃にアメリカの穀倉地帯を取材している。サプライチェーンの混乱により農業機器の生産が滞り生産を拡大したくてもできないという人たちがいるという。また、ロシア産の肥料の供給が滞ることで肥料価格の高騰にも苦しんでいるそうだ。つまり戦争というリスク要因が小麦価格に影響を与えている。つまり本来は関係がないはずのさまざまな要因が複雑に絡み合い「バタフライエフェクト」を起こしている。

農家は穀物価格、希少条件、金利条件などの複雑な条件を先読みしながら「今年は自分の畑で何を作ろうか」と決める。変動がある程度穏やかなものであれば対応は可能だ。あまりにも動きが激しくなりすぎると農家はこの変化に耐えられなくなる。価格高騰に釣られて市場に参入したものの価格が急激に下落すると言ったことが起こりかねない。アメリカでは金利も上がっている。つまりこれまで気軽に借りられていた事業資金が借りられなくなる人たちが出てくるのだろうし、地域経済を支えていた地銀も倒産するかもしれない。

つまり本来価格の安定性に寄与するはずだった「緊密に結びついた市場」が逆に安定性を損ねる方向に機能してしまう可能性があるということになる。

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