G7サミットが行われている最中、おそらくアメリカの債務上限問題とFRBの利上げ問題については(少なくともランキング上は)報道が少なくなる。いろいろ動きは起きているので、ロイターの記事を拾い集めてみた。流れを確認するのが目的なので詳細は各記事をあたっていただきたい。
債務上限問題は一時中断
バイデン大統領はG7訪日前に「解決はもうすぐだ」と楽観的なメッセージを発信した。下院議長もこれに呼応していたため市場には一定の安堵感が広がっていた。
その後「複数の問題があった」として協議が棚上げになっている。実際に会ってみて「お互いの認識が希望的観測だった」ことがわかったのであろう。「協議は生産的でなかった」とされており溝はかなり深いようだ。
懸念されるのがバイデン大統領と交渉スタッフたちのボタンの掛け違いである。バイデン大統領は「協議は確実に前進している」との報告を受けていたそうだ。スタッフは次の3名だそうだが、おそらくバイデン大統領が直接政治的決断を下さなければ解決できない問題があるのだろう。
政権側からはリケッティ大統領顧問、ヤング行政管理予算局(OMB)局長、立法問題責任者のルイーザ・テレル氏が共和党のマッカーシー下院議長の側近らとの交渉に当たっている。
ハリス副大統領は民主党の活動家などを集めて次のように依頼している。地元に返って圧力をかけろというと日本ではかなり激しいメッセージのように思えるがアメリカは議会と行政が分離した二元代表制なのでこのようなやりとりは普通なのだろうとは言える。しかし大統領と議会の協議が必ずしもうまくいっておらず「リセッション不安」を煽り「民意のサポートが必要」なポジションに追い込まれているとみなすこともできる。言うまでもないことだがリセッションはFRBの金利引き上げ単独でも起こり得る。つまり債務上限問題だけがリセッションの原因になるわけではない。
民主党活動家らを対象とした電話会議で参加者に対し、議員に接触して債務不履行への反対を表明するよう促した。
6月にはもう一度利上げが行われるかもしれない
FRBの利上げは5月で一時中断されるのではないかなどと言われていた。だが状況が変わりつつある。連銀総裁のうち2名が「インフレ抑制が十分ではない」と指摘している。金融機関の安定も文化の安定も中央銀行の仕事なのだがこの両立が難しくなりつつある。
金利引き上げは確実にアメリカの銀行の経営を圧迫している。パウエル議長は「状況が悪化し利上げと同等の効果を上げているのではないか」と苦しい立場を強調している。タカ派(利上げ派)は少数なのだが当のパウエル氏が揺れているのだ。
ただし「もう利上げはできない」ともいえない。このため全ては数字次第で何も決まっていないと表現している。市場はパウエル議長の発言を希望込みで解釈してしまう。これが過度の楽観論を刺激しインフレを刺激しかねない。パウエル議長は継続して「何も決まっていない」と言い続けるしかない。
金融政策の前途は不確実に、次の一手はまだ決定せず=FRB議長
パウエル議長自体も強烈なプレッシャーにさらされている。FRB議長にも「支持率がある」というのがアメリカらしいところである。日銀は「内部検証をやるべきだ」という声はあっても「内部から外部検証を求める声が出る」というようなことは起こらない。だがパウエル議長には身内からもかなり厳しい指摘が向けられているようだ。
ただパウエル氏(70)は現在、金利の行方を巡って難しい選択を迫られ、支持率はFRB議長として過去最低に落ち込み、FRB内部からも監督体制の外部検証を求める声が上がるという異例の状況に直面している。そうした中でジェファーソン氏を副議長に迎えることは、パウエル氏の指導力を試すものでもある。
焦点:パウエル米FRB議長が正念場、インフレや銀行危機で集中砲火
なお次のFOMCは6月13─14日だそうだ。
二つの要因から米ドル相場はギャンブルに
この二つの動向は一体何を意味するのだろうか。仮に「皆がやらないと言っていた利上げ」が行われれば米ドルの価値が上がる。日本の金融政策が変わらないことはわかっているからである。一方で債務上限問題は「これで解決するだろう」という予想をする人が多くなっている。つまり、これが裏切られれば米ドルの価値は下がる。
ロイターの記事は140円という具体的な数字を提示してはいるのだが、内容をよく読むと「先行きがよくわからない」ということが書いてある。つまりどっちに転ぶのかがよくわからないということになるのだが、これを「波乱」と表現している。意思決定を迫られる投資家にとっては「ギャンブル」になってしまうということになりそうだ。
ドル堅調地合い、140円が視野 米債務上限の行方次第で波乱も=来週の外為市場
コメントを残す