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G7首脳宣言であらためて注目される「チャイナ・デリスキング」とは何か

G7首脳宣言が早めに発表された。その中であるワードが注目されている。それが中国を念頭に置いたデリスキング(リスク軽減・リスク低減化)である。まずは中国を念頭に置いた経済威圧・経済的威圧という言葉を概観しデリスキングという概念が出てきた背景について関連記事を読んでゆく。最後にG7の現在地について軽く触れてみたい。今後経済ニュースなどを読みたい人は「デリスキング」について概要だけでも押さえておくと良いだろう。

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G7首脳宣言が早めに発表された。極めて異例ではあるが、すでに文言の調整は終わっており各国の間にそれほど意見の相違がなかったことの表れであるとみられているようだ。またゼレンスキー大統領の来日で首脳宣言が埋没するのを恐れたのではないかという指摘もある。

岸田総理がこだわったのは自身のレガシーを歴史に刻むことだった。核軍縮の誓いが盛り込まれた「ヒロシマ・アクション・プラン」を前提にした首脳宣言の一節が埋没してしまうのではないかという懸念があったものと思われる。ヒロシマ・アクション・プランは2022年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で華々しく提示されたが、世界的にはそれほど注目を集めていない。日本の核廃絶へのコミットメントが極めて曖昧だからだろう。

実際のコミュニケ(首脳宣言)を見ると、ウクライナ・軍縮・インド太平洋という構成になっており、岸田総理と外務省側がこのアクションプランを中心課題に据えようとして努力した様子は窺える。ただやはり主眼となっているのは対中国・対ロシアだったのだということもわか。軍事的にはロシアが課題であり経済的には中国が課題だった。

おそらくはアメリカの演出もありG7の最終日はゼレンスキー大統領を中心に据えて「対ロシア」一色になるのだろう。ここでもう一つ注目されるのが「対中国」である。

今回のG7においては早くから中国を念頭に置いた「経済(的)威圧」という言葉が使われてきた。NHKは次のように説明している。なお、このエントリーのタイトルは分かりやすさのために「チャイナ・デリスキング」を使ったが、実際には慎重に対中とかチャイナという言葉の使用は避けられている。

そのうえで、中国を念頭に、輸出制限などで相手国に圧力をかける「経済的威圧」を抑止し対抗するためG7が連携するとともに、標的となる国や組織を支援するとしています。

政府と企業の境が曖昧な中国が経済を外交上の武器にして覇権を狙っているというような含みがある。この「経済的威圧」に対する対抗手段が「デカップリング」だった。中国の切り離しを意味するのだが「チャイナ・デカップリング」とは表現されない。

ところが「切り離し」という表現はあまり穏やかではない。そこで表現を和らげて「リスク軽減という言い方にしましょう」と提案したのがEUのフォン・デアライエン委員長だったとされている。域内のフランスとドイツは中国とのつながりを維持したいため「間を取ったもの」と思われる。

つまり中国に対する姿勢は欧米の間で微妙に異なっている。今回の「デリスキリング」を理解する上で重要なのはこのポイントである。Forbesに別の記事を見つけた。要するに半導体の中心地は今度もアメリカであるべきであると言っている。

サリバン氏は4月27日の講演で、この政策は「デカップリング(切り離し)」ではなく「デリスキング(リスクの回避)」だと語った。米国がサプライチェーンの強靭化を図ることをデリスキングと称した。最先端の半導体など機微技術・製品だけを中国に渡さず、安全保障と関係ないものは、どんどん自由に貿易・投資してもらって構わないという。

Forbesの記事は「バイデン政権が日韓に迫る「対中デリスキング」とは」というタイトルになっている。あくまでも中国を名指ししない「デリスキング」なのだが分かりやすさのために対中という言い方になっている。アメリカの国内には民主共和党の深刻な対立があり「アメリカファースト」で競い合っている。バイデン大統領もアメリカファーストを主張し日韓に覚悟を迫っているということになる。だが表向きは「開かれた」と言っているのだから中国排除とは言えない。そこで「中国にはリスクがある」と置いているのである。チャイナ・リスクという言葉は政治経済の世界では広く使われており野村證券の証券用語解説にもエントリーがある。

だが、実際のチャイナ・リスクにはアメリカ政府の意向という要因がある。この要因はアメリカ国内の政治情勢により微妙に内容が変化してゆく。Forbesの記事は政府も企業も「アメリカの意向と最新動向を探りながら計画を立ててゆくしかない」という論調になっている。明確なスタンダードが提示されていないからである。

今、日本や韓国の政府当局者は、ワシントンや東京、ソウルでバイデン政権の動きを追いかけるのに必死になっている。その流れをつかむや、慌てて国内法や制度の整備に取り掛かっている。日本や韓国の政治部・経済部記者が「特ダネ」として、その新しい日本の制度を報じるころには、バイデン政権は規制の実績を十分積み上げるところまで進んでいるという。

いずれにせよデカップリング(切り離し)からデリスキング(リスク低減)になったことでアメリカはアメリカのやりたいようにやれる。またヨーロッパもヨーロッパの思うように政策が進められるようになる。日韓はその狭間にあって「今後どうしてゆくべきか」ということになるだろうが、ここはアメリカを怒らせないようにしつつ中国への投資も損なわれないようにやってゆくしかない。アメリカは「関心のない問題については好きにやってもらっても構わないが、関心事(半導体など)はそれでは困る」と言っている。

今回のG7には岸田政権の「核廃絶や平和主義で歴史の1ページに刻まれたい」という思惑があった。だが、それとは別にロシアや中国という「敵」を配置してG7の相対的な地位低下という印象を払拭したいという切実な背景もある。

このため、経済戦争では対中国が、軍事的な意味の戦争では対ロシアが重要な課題になっている。つまりディスアーマメント(武装解除)どころか緊張が増しつつあるG7ということになった。40ページにも及ぶコミュニケを読むと、平和と対立の両者が奇妙な割合で混在しつつ、環境・多様性・性的多様性などの課題が盛り込まれたというかなり奇妙な構成になっている。岸田ビジョンは「分断から協調へ(Amazon)」だったわけだが現実はなかなか厳しかったということが言えそうだ。

債務上限問題を抱えるバイデン大統領は「グローバルサウス」の会合を欠席した。おそらくバイデン大統領の関心事は中国やロシアに対抗する強いアメリカにある。つまり、途上国支援などの優先順位はそれほど高くないのだろう。バイデン大統領は国内問題に忙殺されており「国際関係構築」どころではないのだろう。部下たちに任せて国を後にしたものの「ボスが折れてくれなければ話にならない」ということになったようだ。

豪雨災害に見舞われたイタリアのメローニ首相も早々とイタリアに帰った。イタリアは来年の議長国でサミットは6月に行われる予定なのだそうだ。イタリア北部のエミリアロマーニャ州の洪水被害は10人を超える被害者を出しているとAFPは伝えている。

一方で国内情勢が落ち着いているスナク首相は20分ほどお好み焼き作りを体験したそうだ。

英スナク首相が広島市内でお好み焼き作りを体験

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