依然として、国会は集団的自衛権議論で揉めている。一般的に議論が噛み合ないのは根柢に認識のずれがあるからだ。集団的自衛権違憲論の人たちの議論は聞いた。政府が根拠としている砂川判決は「米軍の日本駐留が違憲かどうか」を争った裁判であり、最高裁判所はその判断すら避けている。故に砂川判決は集団的自衛権を容認したことにならないというのだ。
ところが、政府答弁は「砂川判決が根拠になっている」と繰り返すばかりで、その根拠は分からない。首相や防衛大臣の答弁を聞いても分からないのは当然だ。彼らが考えた理論ではなく安倍首相のブレーンの発案だからだ。
ハフィントンポストが元駐タイ大使岡崎久彦さんのインタビュー記事を掲載している。ここに集団的自衛権の話がでてくる。
岡崎 自衛権は集団的と個別的の区別はないんです。最高裁の判決では。それはもう明快なんです。だからいかなる憲法解釈も砂川判決にはかなわない。だって憲法に書いてあるんだもん。みんなね、憲法を尊重するって言っているでしょ。
で、みんな憲法を守るなら、最高裁の通りにしないといけない。
要約すると「そもそも自衛権には集団も個人もない」と言っている。だから面倒なロジックは必要ないということになる。ごちゃごちゃ言うなというわけである。
記事を読むと、岡崎さんの説は勇ましい。そもそも戦争をするかどうかは首相が独断で決めるものであって、誰かがとやかく議論する(岡崎さんは「くだらない議論で手足を拘束されないようにする」と表現する)ような問題ではないと言い切っている。つまりは国会の議論すら否定しているわけだ。
一方、民主党は自民党案に反対するリーフレットの中で、集団的自衛権について「他国の戦争に参加すること」と説明している。リーフレットには説明がないのだが、第二次世界大戦後、集団的自衛権が東西冷戦、ベトナム戦争、アフガン戦争などを正当化するために使われていたことを指しているのだろう。
もし、自民党に議論するつもりがあるのなら、なぜ集団的自衛権が行使できないとされるに至ったかの経緯を調べて、それを覆す努力をすべきだった。一般的にはベトナム戦争への参加を嫌がった佐藤政権が集団的自衛権を行使できないという解釈を行ったと言われている。(日経BP)
ところが、議論の元にあるのは「ごちゃごちゃ言わないで、俺に任せろ」というロジックだ。「俺(内閣総理大臣)が大丈夫だと言っているから大丈夫なんだ」と言われても安倍首相に懐疑的な人たちを説得する事はできない。
今回の法案は、岡崎さんのロジックを借りると「戦争権限全権委任法」であるといえる。
少なくとも民主党くらいは「死ぬ気で」反対しても良さそうなものだが、民主党が強気に出ることはないだろう。党内に岡崎さんの「集団的自衛権合憲論」に賛成する議員を抱えているからである。長島昭久議員はツイッターで、岡崎さんの理論を「パワフルな正論」と賞賛している。まともに安全保障の議論をすると民主党は分裂してしまうだろう。