アメリカ国債がデフォルトする可能性が出てきた。ウォール街では具体的な対応が始まったそうだ。こうなると「これをきっかけに儲けをようとする人が出てくるのでは?」と考えて調べてみた。その前にまず「デフォルトが起きると誰が損をするのか」について考えなければならない。総論だけをいうと「お金のある人は儲けるチャンスがあり」「お金を借りている人は壊滅的な被害を受ける可能性がある」ことになる。デフォルトしたときより「いよいよデフォルトするかもしれない」時の方が大変なようだ。
ロイターが「情報BOX:米国債デフォルトに備えるウォール街の現状」という分析記事を出している。
アメリカの債務上限問題が膠着すると次のような被害が出る。
- 連邦施設が閉鎖されたり連邦職員が給料をもらえなくなる。
- 福祉給付に頼っている人が明日の食べ物を買えなくなる。
- アメリカ国債の信頼が揺らぐ。
この文書は3番目について書いている。細かい内容は記事を読んでいただくとよいのだが、要するにアメリカ国債はあらゆる取引の「基礎」として用いられていると書かれている。つまりアメリカ国債が「明日どうなるかわからない」という事態に陥ると「借金をしている人」の状況が不確かになるということになる。米国債はさまざまな取引の「担保」として利用されており、その担保価値に不安が生じるからである。こうなると「与信」の計算が極めて面倒になる。このため金融機関は手計算で状況を把握しなければならなくなるそうだ。
いずれもシナリオでも、金融機関は業務上で重大な問題に直面し、取引や決済の事務は毎日手作業で軌道修正しなければならない。
これは二つの問題をひきおこす。
- 一つは貸している側の与信管理の問題だ。与信管理の事務経費が飛躍的に増大する。
- 一つは借りている側の問題だ。担保価値に疑念が生じる。これ以上の借金ができなくなったり、当座の運転資金が借りられなくなる。事業の支払いや貿易など幅広く影響が出ることになる。
もちろん個人や貿易業者なども被害を受けるのだが最も懸念されるのは新興国であろう。既にアメリカのインフレ抑制策の影響で資金が逆流しておりデフォルト懸念が生じ始めている。アメリカ合衆国政府はそれほど被害を受けない。困るのは周りの人たちだ。
曖昧な状況が続くと、日本も全く被害を受けないというわけにはいかなさそうである。日本の外貨準備は米国債に大きく依存しているため貿易に懸念が生じるものと思われる。この影響がどう及ぶのかはわかっていない。既に金利が引き上がり日本の金融機関が持っている米国債には含み損が出ているようだが難しい状況は続きそうだ。
国別の米国債保有で日本は首位を維持。保有額は1兆0870億ドルで前月の1兆0820億ドルから増加した。(2023年5月に発表された3月の状況)
だがこれはある意味儲けのチャンスである。今回のデフォルトは実際にはデフォルトではない。「払おうと思えば払える」が「議会が許してくれない」という状態である。つまり交渉が決着すれば米国債の値段は再び上がる。
このため当然ながらBloombergは「米国がデフォルトの瀬戸際でも株式市場は冷静-下落なら買いの好機も」と書いている。一旦下がってもいずれ上がることは確実なのだから今のうちに買っておこうとする人が現れそうだ。ただし何かを担保にして買い入れることは好ましくないのだから「そもそも自己資金を持っている人」が買うことになるだろう。
日本円は「安全通貨」とは見做されなくなっているそうだが、「焦点:米債務上限問題で円高警戒、国内勢のオープン外債投資で抑制も」によると、それでも「パニック時」限定で一時円高に触れる可能性はあるそうだ。一瞬の隙をついて「割高になった円」で「割安になった米国債」を買うチャンスがあるともいえる。貿易などでかなりの被害が出るかもしれないが、自己資金を持っている人だけは例外ということになるのかもしれない。
つまり「日本」とは一括りにできない。ごく一部「儲けのチャンスが巡ってくる人」が出てくるのかもしれない。だがおそらく一般国民は恩恵は回らないだろう。むしろ、何らかの影響を受ける可能性の方が高い。
冷静に考えると「アメリカ人はそれほど被害を受けない」ということもわかる。貿易が大混乱してもアメリカは自給自足ができる。さらに貸している側なので「お金はいずれ返せますが今は返せません」と宣言さえすればいい。また、有権者たちも連邦職員の給料が払えなくなっても福祉給付が切られても「所詮は他人事」と考えるかもしれない。それよりも「民主党の政策が気に入らない」と考える人が大勢いる。彼らは大統領選挙の負けにこだわっておりアメリカの国際的な信任にはそれほど興味がない。
このためイエレン財務長官はメッセージの打ち出しに苦労している。せいぜい「アメリカ経済全体がリセッションに陥りかねない」というようなメッセージしか打ち出せない。全体に被害が及ぶ可能性があるから妥協してくださいと議会にお願いしなければならないという状態である。
トランプ前大統領はおそらくこの辺りがわかっている。だから「民主党が折れないなら一度デフォルトするべきだ」などと強気のメッセージを発信しつづけているのだろう。強硬派の影響の強い共和党で下院議長は容易に妥協ができない。
バイデン大統領も副大統領時代に「ちょっとした妥協」で交渉が長引いたという経験をしているようで、強気な態度を取り続けている。このため6月1日を過ぎても交渉はまとまらずにXデーがすぎて(つまりいよいよデフォルト直前というところまで行って)何らかの妥協が出てくるのではないかなどと指摘するシナリオもではじめているそうである。日経新聞は次のように書く。
シナリオ1)直前に交渉妥結、上限引き上げ・一時停止
シナリオ2)Xデー通過後に交渉妥結
シナリオ3)交渉破談で不履行、世界に影響
日経新聞を読んでいると「6月1日をすぎてXデーが近い」となった時が最も厄介なようだ。税収や支払いの期日が細かく刻まれているため、その度に「今回は大丈夫か」ということになる。金融機関や貿易事業者はその度に手計算によって状況をアップデートしてゆかなければならない。つまり曖昧な期間が長ければ長いほどさまざまなな事業者が疲弊してゆくことになる。ただしこの時に一瞬割安になる金融商品も出てくるはずで投資家にとっては色々な意味で忙しい期間となりそうだ。ある意味「稼ぎ時」なのだ。
ただアメリカ合衆国が最も大きな被害を受けるわけではないとなると、バイデン大統領は本当にギリギリまで交渉をしない可能性がある。つまりG7サミット期間中には問題が解決していない公算は日々高まっている。
どっちみちギリギリまで妥結しないのだから今慌てて外交日程を変えても仕方がないと思っているのかもしれない。予定通りの来日が決まった。
初稿の段階では「外遊を続ける予定」としていたがG7以後の予定はキャンセルされたようだ。産経新聞が「米大統領がパプア、豪州訪問を見送り 債務問題で」伝えている。当初のこの文章の結論は次のようになっていたが、さすがに本国の問題を放り出して外遊を続けるのは得策ではないと判断したのだろう。
バイデン大統領は世界に迷惑をかけそうなデフォルトの可能性を残しつつ、世界に向けて「G7が中心となる民主主義の素晴らしさ」を発信するということになるのかもしれない。来日は正式に決まり、18日には日米首脳会談が行われる。G7後の22日にはパプアニューギニアを訪問し太平洋諸国首脳との会談も行う予定である。24日にクアッド首脳会談に出席して「開かれたインド太平洋」に向けて自由主義体制の素晴らしさについて世界に発信する予定になっている。
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