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得票率50%を割り込みトルコの大統領選挙は決選投票へ

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トルコで大統領選挙が行われている。メディア統制が強まり野党には圧倒的不利であるとされていたのだが、アルジャジーラの速報では90%以上が開いた時点でエルドアン氏の得票が50%を下回る展開となっている。両陣営共に「寝ないで投票箱を監視する」などとしているが決選投票に持ち込まれる可能性が高くなった。

NATOの一員でありながらスウェーデンのNATO入りを妨害しまた親ロシア的な側面も見せているエルドアン大統領がこのまま大統領職に留まるのか、あるいは親欧米派とも呼ばれるクルチダルオール氏が勝利するのかに注目が集まっている。

その後情報が更新され「与党側が開票結果を受け入れず本日中は結果が公表できない」ということになったようだ。日経新聞が伝えている。決選投票になれば状況が混乱されることも予想されている。

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トルコの大統領選挙は即日開票され現在開票作業が進んでいる。開票自体は順調に進んでいるが接戦となり決選投票の可能性が出てきた。アルジャジーラも決選投票になる可能性が濃厚だとしているが、共同通信も先ほど50%を割り込みそうだという記事を配信している。Bloombergも同じ見解だ。各社報道はアナトリア通信の再配信である。

その後、日経新聞が「トルコ大統領選挙、接戦に 選管は当日に結果公表できず」と伝えている。都市部では野党CHPが優勢だがAKP側がその結果に意義を申し立てているためだ、と日経新聞は解説している。決選投票になればかなり状況は混乱しそうだが、そもそも結果が確定するまでにしばらく時間がかかりそうだという情勢になっている。

これまでの経緯をざっとおさらいしておきたい。構造は比較的簡単だ。

トルコ建国の父と言われるケマル・アタチュルクが作った政党CHPとそれに協力する野党勢力と、新興勢力として長年権力を維持してきたエルドアン氏が率いるAKPの対立構造である。AKPは大統領権限を拡大し「独裁傾向」を強めていた。野党連合の目標はこれを伝統的な議会制民主主義に戻すことである。

トルコの経済成長の原動力は脱イスラム化だった。オスマン帝国はヨーロッパとの競争に負けて領土を失ってゆく。アナトリア半島の中心部にあるアンカラに新しい政府が組織され中心にいたケマル・アタチュルクは脱イスラム化を推し進める。文字もイスラム色の強いアラビア文字からヨーロッパ風のラテン文字に変えている。ケマル・アタチュルクの思想は「世俗主義、トルコ民族主義、共和主義」だった。このためCHPも「議会制民主主義」を党是としている。

エルドアン氏は1994年の選挙でイスタンブール市長に当選するが宗教的憎悪を煽ったことで市長の地位を剥奪された。その後、穏健政党AKPを作って勝利する。まずはギュル氏を首相に就任させ公職復帰を果たし、その後首相に就任する。その後2014年に大統領に選出され2018年に再選を果たしていた。

エルドアン氏の躍進からはトルコでは既存政党への疑念が膨らんでいったことがわかる。このため世俗主義への抵抗が生まれCHPの下野につながったのだろう。

西側がエルドアン大統領への懸念を強めたのは2017年のギュレン派の摘発だった。エルドアン大統領は再選前に敵対勢力の粛清をおこなった。ギュレン派は元々はエルドアン大統領に協力的だったが徐々に路線対立を起こすようになっていったようだ。ギュレン師はクーデターの首謀者として粛清され関与が疑われる人たちが1000人以上摘発されている。解雇・停職を受けた公務員は12万人に登るそうだ。ジャーナリズム統制も進むことになった。

この後大統領権限の拡大を問う国民投票があり大統領権限が拡大している。司法人事権の掌握や国会解散権などが含まれている。

だがこの欧米に対立する政権の姿勢が徐々にトルコ経済に悪い影響を与えるようになる。きっかけはアメリカの経済制裁だった。

2018年にはトルコ・リラが急落するいわゆるトルコショックが起きている。きっかけになったのはトルコ政府によるアメリカ人牧師拘束だ。トランプ政権がこれに制裁をかけるために鉄鋼・アルミニウムに追加関税をかける。これでトルコリラが売られる展開になった。

しかしながらエルドアン大統領は金融政策の定石とされる利上げは行わなかった。元々の支持基盤である中堅所得層に資金が行き渡らなくなることを恐れ定石とは真逆の低金利政策を続けている。これは「エルドアン経済学」などと言われ揶揄されている。このためトルコリラは度々急落し物価が上昇するという悪いスパイラルが生まれている。

にもかかわらず、なぜエルドアン氏は失脚しなかったのか。理由は大きく分けて三つある。

一つがケマル主義の遺産である。この遺産のおかげで欧米から「権威主義者」認定されずに住んでいる。

2015年に移民危機が勃発するとトルコは経済移民の受け入れを表明した。トルコが移民政策を転換させればヨーロッパに大量に移民が流れ込みヨーロッパは再び危機に陥ることになる。ヨーロッパに一定の協力姿勢を見せることでエルドアン大統領は批判を交わしてきた。また2022年にウクライナ危機が訪れるとNATO加盟国でありなおかつロシアとのパイプがあるトルコの国際的な重要性はさらに増すことになった。

もう一つが中間所得層の支持を維持し続けることだった。これで野党支持をある程度抑制している。

トランプ大統領の経済制裁に端を発したトルコショックはその後もおさまらなかった。エルドアン大統領は金融市場を説得することはできず、消費者物価は2022年8月には79.6%上昇した。それでもエルドアン大統領の支持が落ちなかったのはなりふり構わぬバラマキ政策を実施したからだなどと言われている。エルドアン大統領の経済政策は次のようなものだった。この政策の結果2022年の10月には支持率が回復している。

  • 最低賃金を2倍に引き上げる
  • 40才代を含む200万人を新しい年金の支給対象にする

10月にかけて物価上昇が続いたが最近ではやや落ち着きを取り戻し前年比40%という状態が続いていた。

中間所得層にとって住宅取得は非常に大切な政治課題だ。エルドアン大統領が低金利にこだわっているのは庶民が住宅を得やすくなるからだろう。

この期待が剥落したのがトルコ南部とシリアを襲った地震だった。多くの建物が耐震偽装だったとされているのだがお金を払えば耐震基準を緩やかにしてもらえるという特例も状況の悪化に拍車をかけたようだ。トルコとシリアでの死者は5万人を超えていると言われ復興作業も思うように進まなかったようだ。学校に通えなくなった子供が400万人いるという報道もある。

最後の原因は野党側のまとまりのなさだ。つまり絶対的な政敵の存在がないという点もエルドアン大統領に有利だった。

トルコの野党には国民の人気が高いイスタンブールのイマモール市長などがいる。一方で野党第一党のCHP(共和人民党=Cumhuriyet Halk Partisi)の党首は「堅実で経験はあるが退屈でカリスマ性に欠ける」などと揶揄されることも多いクルチダルオール氏だった。CHPは「野党」と言ってもケマル・アタチュルク氏によって設立された伝統政党である。民族右派政党優良党(IYI)は「クルチダルオール氏では選挙に勝てない」とししてクルチダルオール氏は支持できないという考えだったが、最終的にはクルチダルオール氏支持でまとまることになった。

ウクライナでの戦争をめぐってエルドアン大統領はNATOを撹乱する動きを見せている。このため西側は本音ではクルチダルオール氏支持なのだろう。BBCは「退屈」ではなく「ガンジーのような」と持ち上げて見せている。

野党勢力が勝利した場合、まずはエルドアン大統領によって拡大された大統領権限の縮小が図られる見通しである。つまり議会勢力が自分達の権限を元に戻そうとしている。言い換えると「共通の敵」がいるからまとまっているだけという見方もできる。野党勢力として政策上のまとまりを維持できるのかに注目が集まることになる。

西側先進国はクルチダルオール氏が勝利すればトルコとの協力関係が得やすくなると期待している。だが野党連合でありクルチダルオール氏が単独で物事を進められるわけではない。一部報道によるとロシアとの関係は維持され一帯一路に期待するという内容の政策合意となっており、野党が勝ったからといって手放しで喜べるような状況でもないようである。

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Comments

“得票率50%を割り込みトルコの大統領選挙は決選投票へ” への2件のフィードバック

  1. 通りすがりのおじいさんのアバター
    通りすがりのおじいさん

    NHKの報道とやや差が出ている。アルジャジーラでは93%段階で49.6%の得票率で「決選投票必至」的な報道でした。他にもガーディアンも似たような報道です。ただ検索AIの説明ではトルコの選挙管理委員会の公表値とアルジャジーラとは数値が異なると説明があり、選管の公表を疑うことも出来ないし、海外投票結果もあるだろうし、高みの見物の日本人は様子を見る事しか出来ません。

    1. アルジャジーラの報道をずっと見ているのですがクルチダルオール氏は「エルドアン陣営が開票を妨害している」というような主張をしているようですね。

      Kemal Kilicdaroglu has said that the Erdogan camp keeps objecting to the results from certain ballot boxes to block the system.

      NHKが「決選投票の可能性も」と伝える通り、そもそも選挙結果が確定しないと決選投票が行われるかどうかも不確かな情勢ですが、確かにご指摘の通り「見ているだけしかない」という感じなのかもしれません。