CNNが主催するタウンホールミーティングが行われトランプ前大統領が堂々と持論を展開した。「アメリカはデフォルトすべきだと主張した」と伝えられている。そのほかにはどのような持論を展開したのかを短く見てみたい。
まず、デフォルトについてである。「米国はデフォルトすべき、政権が歳出減に同意しなければ トランプ氏が発言」という記事にまとめられている。
現在の問題を作り出したのは民主党なのだからこのまま民主党が諦めないのならアメリカはどっちみちデフォルトするだろうと主張している。つまり間違った民主党を支持するならばその報いを受けるべきだと言っている。つまるところこれはワシントンの無能な政治家たちの問題であり自分達の問題ではないとも示唆している。だったら一度デフォルトすればいいというのがトランプ氏の発言だ。
だがこうすると「デフォルトを先導した」ということになってしまうので、最後に「問題の解決は簡単で民主党が全部を諦めればいい」と付け加えて「免責」を図っている。
CNNのまとめによると、そのほかの主張は次のとおりである。
- 選挙の敗北を認めることを拒否。
- 議会襲撃について自ら州兵の介入を要請したと「虚偽」の主張。
- 再選されれば議会襲撃した人たちの大部分を恩赦すると表明。
- ペンス氏は間違った主張(大統領選挙の敗北を認めなかったこと)をしたので襲われた。だから謝罪する必要はないとの認識を示す。
- 性的虐待で地裁判決が出ているキャロル氏について「知らない」と主張。
- どっちみち民主党に任せていたらアメリカはデフォルトする。だから今バイデン大統領の過剰な支出を止めないといけない。アメリカがデフォルトしたらそれはバイデン大統領のせいだ。
- 拳銃は悪いことをする奴が使っているのだから憲法で守られている銃の権利は最大限に尊重すべきだ。重犯罪を防ぐためにはいろいろな対策をとるつもりだ。
- 人工妊娠中絶法案については明言せず「素晴らしく公平な判断を下す」と主張。
- ウクライナの戦争は俺なら1日で止められると主張。
- 大統領を退任しても自分には機密文書を携行する十分な権利があったと主張。一方で持ち出された機密文書はすでに機密が解除されていたとも主張。
CNNは民主党支持・反トランプなのでサマリーはもちろんバイアスがかかったものになる。一方でバイアスがかかったところに堂々と乗り込んでゆきこれまで通りの持論を展開することでトランプ氏を応援したくなるという人も増えたはずだ。つまり今回のタウンミーティングはCNNの狙いとは裏腹にトランプ氏への支持を高めてしまう可能性がある。
トランプ氏の「アメリカはデフォルトすべき」発言は極めて問題が大きい。トランプ氏は今は当事者ではないため議論を収束させる必要がない。議論を収束させる責任を負っているのはバイデン大統領と議会共和党である。だが、トランプ氏に影響を受けた人たちが議会共和党の内部には多くいる。つまり外から無責任に問題を煽っていることになる。実際にタウンミーティングでは「だって、自分は今大統領でないから」と語っており、聴衆から拍手を受けている。無能な政治家の外側に自分を位置付けることに成功している。「自分は」というより「ここにいる我々は」ということになる。これがトランプ氏が支持される大きな理由の一つなのかもしれない。
アメリカでは今二つの危機が起きている。一つは債務上限問題である。こちらはバイデン大統領がG7広島サミットに出席しないかもしれないということが日本でも大きく取り上げられることとなった。
既に「政治的交渉そのものが信用不安につながる」として債務上限の恒久的な撤廃を提言する人たちも現れている。オバマ大統領自体にも危機が回避されたという経緯があり「チキンレースは直前で収まるところに収まる」と考える人が多い。つまりその期待が裏切られた時の反動はかなり大きなものになるだろうと懸念されている。
もう一つの問題は移民危機である。タイトル42がついに撤廃される。これは国境の解放を意味するわけではないのだが移民希望者の間にはSNS経由で過度な楽観論が蔓延しているようだ。一度大規模な衝突が起こればバイデン大統領が批判されるのは間違いないだろう。
現実に問題が起きているというよりは「この先どうなるかわからない」という不安が燻り続けているのが今のアメリカの現状と言えるだろう。
トランプ前大統領は自分の非を認めずデフォルトの危機や議会襲撃がアメリカ民主主義に与える影響を過小評価している。さらに主張にもあやふやな点が多い。
ただこれが必ずしもトランプ氏の不利に働かないというのが現在のアメリカの情勢である。
例えばデフォルトでアメリカがパニックに陥れば民主党支持者も共和党支持者も同じく被害を受けることになるだろう。だが人々が現在熱心に主張するのは「何かあったらそれは共和党のせい」なのか「それとも民主党のせい」なのかという点にある。党派的な議論のせいで全体像が見えなくなっていることがわかる。誰もが党派性の議論に夢中になり今実際に何を恐るべきなのかが見えなくなってしまうのである。
さらに「自分は政治の外にいる」と印象付けることで、一連の問題を「無能な政治家たちが作り出した」ものだと強調している。いわば「他人事化」が進んでいると言える、おそらく彼らは実際に問題が起これば政治家だけでなく多くの国民が被害を受けるということを忘れているだけといえるのだが、今の問題を見たくない、自分には非がない、面倒な問題は全て他人事だと証明したい人たちにとってはトランプ氏の一連の発言は甘い蜜のように感じられるだろう。