国土交通省からOBに対して公開前の人事情報が173件の外部メールアドレスに流れていたと斉藤国土交通大臣が認めた。大臣は「OBへの職業斡旋が目的ではない」としているが、そもそも国土交通省の外に情報が漏れていること自体に大きな問題がある。歴代の国土交通大臣の預かり知らぬところで独自の意思決定を行う裏のネットワークがあったことを意味しているからだ。国道交通大臣ポストは公明党の指定席になっているが歴代の大臣たちがどのように官僚を管理していたのかに改めて注目が集まる。国土交通省は件数は173件だったとしつつ「現時点で内容はわからない」としている。誰に送られたのかが分かれば「裏ネットワーク」の実情が明らかになってしまう。そんな恐ろしいことは怖くてできないのだろう。
問題のきっかけは朝日新聞や文春の一連の報道だ。「空港設備」という会社の人事に対して国土交通省のOBたちが圧力をかけていた。OBの強い要望があり経営ポストをOBに譲るようにという働きかけだった。任侠映画さながらのセリフが飛び交い週刊誌的な興味を掻き立てていた。
斉藤大臣や岸田総理大臣が「OBのやっていることなので我々は知らない」と調査を否定したことで問題が大きくなった。空港設備側が独自調査を行い「デジタルフォレンジック」でメールを洗い出しそれを報告書という形で報告した。報告はあくまで経営陣にガバナンスの徹底を呼びかける内容だがおそらく目的の一つは人事情報のリークの告発にあるものと思われる。デジタルフォレンジックまでしてわざわざ過去のメールを炙り出すところに執念の深さを感じる。もともと空港設備と国土交通省は「持ちつ持たれつ」の関係にあるはずである。にもかかわらず歴代のOBたちが築き上げてきたピラミッドを崩そうとしているのだ。
情報はBCCで送られていたため、おそらくは山口氏だけではないんだろうということはわかっていた。今回の調査で件数が明らかになっているのだが各社で書き方が微妙に異なる。
もっともリテラシーがあるのはTBSだ。「件数」は宛先であることが明確にわかる。
一方で日経新聞の書き方では「メールの件数」が1058件ありそのうち173件が外部にも渡っていたと読み取れる内容になっておりやや正確性に欠ける印象だ。
ただし、おそらくはこの程度の問題で国会が紛糾することはないだろう。
高市文書問題では官僚が大臣に知られずに隠し持っていた文書がリークされ大問題になったが「大臣が預かり知らぬところで情報が飛び交っておりおそらくは官僚の言いように使われている」ことについては賛否両論が出ただけで終わりになっている。国民の注目は高市早苗氏が辞任するかどうかにかかっており、政府のガバナンスのあり方にはさほど関心が集まらない。国会に信頼がなく必ずしも国民の代表とは見做されていないからだろう。
一方で今回の件が問題になるとすればそれは虚偽報告の疑いということになるだろう。「メールが見つかりませんでしたから誰に送られたかは分かりません」としつつ具体的に「173アドレスが外部のものだった」などということだけは嫌にはっきりとわかっている。
ないものを数えたことになり、誰が考えても「ああ何か隠しているんだろうなあ」ということは合理的に推測できてしまう。つまり、後から野党に突っ込まれる材料を自ら作ってしまっているのだ。これを送った職員は「慣例的に引き継いでいる」BCCのリストを持っているはずだしメンテナンスもしているはずだ。
よほどデジタルリテラシーのない人なら「メールがなくなると宛先もわからなくなるのか」と思うだろうが普通の常識を持っている人ならBCCリストは残っているだろうということは容易に類推できる。
国土交通大臣はメール送付の目的を「引き継ぎの円滑化」などと説明している。おそらくこの調子では国会答弁にかなり苦慮することになるだろう。事前に情報を関係者に知らせないと「円滑に進まない業務とは何か?」ということが突っ込まれることは確実だからである。
野党側はこのBCCリストをなんとしてでも欲しがるはずである。なぜならばこのリストこそが日本の運輸・建設行政を陰で支えている「闇のネットワーク」そのものだという印象を付けられるからである。我々だけが行政の無駄を省くことができると主張する維新にとっても「公明党ではダメだ」と主張する材料に利用できる。
斉藤国土交通大臣と国交省官僚が必死で隠そうとすればするほど国民の疑念は膨らむことになるだろう。OBたちに恨まれるのは怖いだろうが、政権にとっても公明党にとってもリストの中身を早く公開したほうが傷は浅くて済むのではないかと思う。