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外貨不足、インフレ、洪水、デフォルト危機、野党指導者逮捕による政情不安、そして広がる暴動 パキスタンは今どのような状態にあるのか?

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スリランカが国家デフォルトを起こした時「悲惨なデフォルトはなんとしてでも避けるべきだ」と感じた人も多かったのではないか。だが、パキスタンは今「なかなかデフォルトしない」ことで危機に陥っている。これまでも外貨不足や洪水危機などさまざまな問題が発生していたのだが、前首相で現在の有力野党指導者であるカーン氏が何者かに逮捕されたことで大きな騒ぎが起きている。各地で暴動が起き1,000人を超える人が拘束されたとされている。

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パキスタンのカーン前首相が拘束された。総選挙を前に野党勢力が選挙に参加できないようにする狙いがあるのではないかなどと言われている。これがきっかけにになりパキスタン全土で抗議運動が起きている。BBCは暴動は全土に広がり1000人以上が拘束されたと書いている。

ニュースは突然やってきた。

初報は「裁判に出頭したパキスタンの前首相が警察に拘束された」というものだった。事前に予想されていたこともありSNSではカーン前首相のメッセージが拡散し大規模な抗議運動が起きていた。当局がモバイルによるインターネットアクセスを遮断し軍の出動を要請したことで騒ぎが広がっていた。

当初は警察が拘束したということになっていたのだが、次第に「準軍事組織」が拘束したということがわかってきた。準軍事組織によって連れ去られ裁判所ではなく警察本部で裁判を行うとううことのようだ。そもそも裁判所がこれを許可したのか、あるいは「裁判という名前の別の何か」なのかはわからないままだった。

一方で、カーン氏のメッセージがYouTubeによって広く拡散されている。カーン氏は自分の身に危険が迫っていることがわかっていたようだ。「自分は間もなく不正確な容疑で拘束されるだろう」と予想した上で「みなさんは自分たちの権利のために戦うべきだ」と呼びかけていた。

カーン氏はクリケットの代表選手としてパキスタンを優勝に導いた国家的ヒーローだった。2018年に首相になり軍と結びつき権力を強めてゆく。にもかかわらず今回カーン氏の支持者たちは軍に敵愾心を抱いている。つまり、カーン氏の支持者たちは軍がカーン氏を裏切ったと考えているのである。

第一生命経済研究所の西濵徹氏は、カーン首相が誕生してから不信任決議を受けるまでの事情を次のように説明する。

カーン首相はIMFの支援を受け入れて一旦は苦境を脱したように見えた。ところがコロナなどで経済が行き詰まる。IMFに手足を縛られる形で国民と軍の両方に失望されてしまう。そもそも少数与党だったため強力勢力が造反し軍にも見限られる形で政権を追われた。

Bloombergの取材によると今回は国家説明責任局(NAB)の命令により治安部隊に拘束されたようだ。政府や裁判所の関与があったのかはよくわかっていない。

パキスタンで政情不安広がる-前首相逮捕で支持者と治安部隊が衝突

NABは「政府からは独立した汚職捜査機関だ」と主張する人もいる。一方で勝手に軍や警察が広範に協力し非公開でカーン氏の裁判を行おうとしていると主張する人たちもいる。

いずれにせよカーン氏はおそらく政治的な権利を一生涯剥奪されるものと考えられているがこれは裁判がうまく進めばの話である。野党支持者たちは「身の危険が迫っている」と主張している。つまり生きて帰ってこれないかもしれないというのである。

ここまでの動きを見ると与党指導者がいて野党の指導者から政治的権力を奪おうとしているのではないかと思う人がいるかもしれない。だがおそらくそうではない。NABと称する組織が軍、準軍事組織、警察を勝手に動かしていることからも明らかだ。

逆に「そもそも独裁者さえ出てこない」という点に懸念があるともいえる。

カーン前首相はパキスタン経済を救うことができなかった。だが後継のシャリフ首相もパキスタン経済を救うことができていない。それどころか状況はさらに悪化している。

パキスタンは2022年に洪水が起こり国土の1/3が被災している。しかしながら経済状態は最悪で政府も援助ができない。シャリフ首相は国際社会に援助を求め日本を含む各国に対して1兆円以上の資金援助を要請していた。

ではなぜパキスタン政府は洪水で国土の1/3が冠水しても何もできなかったのか。実は、パキスタン経済は破綻寸前でありすでに外国からの援助に頼らざるを得ない状態に追い込まれている。この事態は今も進行中である。

2023年2月にはIMFと基本的な合意が結ばれている。

だが実際には支援は行われていない。支払いの前提条件がクリアできていないからである。このままではデフォルトの恐れがあるというのだがパキスタンのデフォルトの噂はもう長い間燻り続けている。6月はなんとかなりそうだが7月の資金調達の目処が立っていないと指摘する声もある。

IMFから支援を引き出すためには燃料費引き上げや金利の引き上げなどに応じなければならない。当然国民生活は窮乏する。すると不満を持った人たちの敵意は現在の政権や政権の背後にいる何者かに向かう。

つまり今回の政情不安の背景には長年続く貧困と窮乏があるものと思われる。

おそらく軍や警察などは困窮の原因をカーン氏であると考えており、カーン氏を政治から追放したい。だが野党支持者たちはシャリフ氏やその背後にいると思われる軍に敵愾心を向けている。実質的には経済破綻しており、国全体が「この状況を収めることができる人など誰もいない」という状態に気がつくまでこの混乱は続くものと思われる。自分達がそれに気がつくまで国際機関やIMFなどが援助をしても本質的な問題の解決にはならないだろう。

ただ、一旦政情不安が広がると「とにかく暴れたい」という人たちが出てくる。このようにしてパキスタンは基本的なデフォルト危機を抱えたままで落とし所がない状態に追い込まれている。

最新情報によると最高裁判所はカーン氏を保釈するように命じている。本当に解放されるのかが懸念されていたが、いくつかのメディアがカーン氏の釈放を報じ始めたようだ。YouTubeにニュースが流れはじめている。

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