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【基礎だけをざっくりおさらい】なぜバイデン大統領はG7広島サミットに来られないかもしれないのか?

バイデン大統領がG7広島サミットに来ることができないかもしれない。なぜそんな可能性が出てきたのかについてざっくりと解説したい。おそらく、普段ニュースを見ている人には新しい情報はないものと思われる。最も短く説明すると「国内で深刻な問題がありそれが解決できるまで身動きが取れない」。深刻な問題とは財源不足である。財務省の指定するデッドラインは6月1日でこの日以降いつ「Xデー」がきてもおかしくないとされている。つまり一ヶ月を切っており金融・経済の人たちが慌て始めている。

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まず「債務上限問題」についてざっくりとおさらいする。BBCのフッテージが一番わかりやすい。このまま議会が債務上限を拡大してくれないと、連邦職員に給料が払えなくなり、福祉予算などの給付ができなくなり、さらにアメリカの金融(国債)の信頼が失墜すると言っている。ビデオは90秒弱で閲覧できる。

90秒弱で解説 アメリカの債務上限危機、何が問題なのか


次になぜこんなことになっているのかの流れを確認する。おそらく「既に知っている」ことが多いはずだ。

アメリカ合衆国の大統領は民主党出身者だが中間選挙で下院の支配権が共和党に移った。起案は下院が行い上院が審査するという制度なので下院の存在は大きい。背景には政治的対立がある。

民主党はどちらかと言えば「大きな政府主義」と考えられている。政府が積極的に環境・人権問題に取り組み格差の縮小も訴えるというのが政策の柱だ。だが、共和党の中には「連邦政府が自分達の価値観を州に押し付けている」と反発する人がいる。さらにトランプ大統領の敗北を認めない急進派の人もおり共和党は妥協が難しくなっている。

民主党は公約に従って積極的な財政出動をしてきた。このため政府予算は逼迫している。民主党は国債を発行してでも政策を続けたいが共和党はこれをやめさせたい。アメリカは基軸通貨である米ドルを持っておりいくらでも借金ができるだろう。つまりデフォルトの懸念はない。しかしながら債務上限は議会が決めている。つまりこれは政治的危機といえる。

Xデーと言われるデッドラインがいつになるのかはまだわからないが、既に会計年度中に支払いに行き詰まる公算は高いと予想されている。アメリカの会計年度は10月から始まり9月に終わる。債務上限に達すると政府は資金調達に行き詰まり一部借金の返済ができなくなるものと予想されている。また支出も止めなければならなくなる。連邦職員の給与支払いや福祉給付の支払いが影響を受ける。

上限は早ければ6月上旬に来るだろうといわれており、財務省は焦りを募らせている。現在財務省は「早ければ6月1日に上限がくる」と主張しているが、この日に破綻することが決まったというわけではない。またXデーに何が起こるかもわからない。

共和党は大統領選挙対策の一環として民主党・バイデン大統領の失敗を印象付けたい。このため債務上限の延長には応じるが予算を一部諦めろと言っている。ただしバイデン大統領側はこれを「負け」と考えており一歩も引く気配がない。

米大統領、債務上限巡り共和党指導部と協議 主張平行線(ロイター)

債務問題が解決しないうちには思い切った外遊はできそうもない。そこでバイデン大統領は「債務問題が解決しないならG7には行かないかもしれない」などと言い出した。一部ではオンライン参加も検討しているなどと報じられている。バイデン氏がいなければ交渉ができないということはないだろうが「来月の給付が受けられない」と危機感を募らせる人がいる中で外遊をすればおそらくバイデン大統領にはいい印象はつかないだろう。

米大統領、G7サミット欠席の可能性示唆 債務上限協議優先で(ロイター)

ここで問題になるのは「どの程度の確率で上院との間に妥協が成立するか」である。これがなかなか難しい。バイデン大統領は「議論はなかなか建設的であった」と評価している。一方で共和党の場合は「従来の見解を繰り返しただけだった」と言っている。財務省のイエレン長官は「早くなんとかしてほしい」と従来の見解を繰り返している。

米債務上限巡る協議行き詰まりに「深い懸念」=財務省諮問委(ロイター)

議会共和党の中にも「悪者になりたくない」という思惑はあるだろう。既に金融界からは「今すぐなんとかするべきだ」という声が聞かれる。

だがトランプ前大統領は「バイデン氏がこのままの政策を続ければアメリカはどっちみち破綻するだろうから政策を諦めないつもりなら、共和党は今すぐにデフォルトさせた方がいい」などと主張している。共和党の中には一部「親トランプ派」がおり共和党執行部もまた頭を悩ませている。「金融経済界に配慮すべきか親トランプ派に配慮すべきか」が決められないのだ。

米国はデフォルトすべき、政権が歳出減に同意しなければ トランプ氏が発言(CNN)

バイデン大統領には奥の手がある。それは憲法の中にあるが記述が曖昧なために今まで使われてこなかった条文を引っ張り出して強行突破を図るという方法だ。これまで「検討していない」と言っていたがこの条文を使うならば裁判所と調整しなければならないと発言を修正しつつある。憲法修正第14条は非常に問題の多い条項と言われており法廷闘争の懸念もあるようだ。

バイデン氏、債務上限巡り憲法条項の発動検討(ロイター)

一方でバイデン大統領は外交には積極的な姿勢で臨むつもりのようだ。G7よりは中国との対向姿勢を打ち出してアメリカのプレゼンスを世界に印象付けたいと考えている。G7の後で、パプアニューギニアに行き太平洋諸国首脳らと会談しその後オーストラリアでクアッドの首脳会談に臨む予定になっている。

米大統領、パプアニューギニアと防衛協定に署名へ 中国を警戒(ロイター)

このようにバイデン大統領は「対決姿勢」を好む傾向にある。一方で高齢による失言問題なども取り沙汰されており次の大統領選挙に出馬すべきではないのではないかという根強い不安もあるようだ。会談後も共和党が「脅している」と表現するなど対決姿勢を維持している。

バイデン氏「共和党の脅しは危険」、債務上限引き上げ巡り

デフォルトと言ってもアメリカに支払い能力がないわけではない。あくまでもテクニカル(技術的な)デフォルトである。オバマ政権の時にも同じようなことがありぎりぎりでデフォルトが回避されたという経緯があり「今回もチキンレースの類だろう」と一般的には言われている。

オバマ政権時代との違いは2つある。1つはアメリカに景気後退懸念がある。金利を急速に高く上げているため金融機関の経営が傷んでおりいくつかの金融機関が政府に救済されている。また経済にもスタグフレーション懸念がある。インフレがおさらまらないのに景気が後退するという状態だ。

アングル:米株式市場に広がるスタグフレーション懸念(ロイター)

もう一つの違いは「オバマ政権の時にもなんとかなったのだから今回もなんとかなるだろう」という楽観である。

バイデン大統領は決して日本を軽く見てG7での広島訪問の中止を検討しているわけではない。内政の事情で外交どころではなくなっていると言えるだろう。いろいろとやりたいことはあるが来週の予定が立てられないという状態になっているだけなのである。

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