5月11日からアンドロイド端末だけでマイナンバーカードと同じ機能が使えるようになる。政府は「住民票がコンビニで受け取れる」などと宣伝しているが肝心の住民票交付サービスは停止したままである。利便性が増す一方で転売時には自分で電子キーデータを抜く必要もある。機能拡大自体は歓迎したいのだが、ITガバナンスが徹底しないうちに闇雲にシステムだけを肥大化させれば、予期せぬ問題が起きた時に誰も問題を解決できなくなる可能性がある。中長期的な視野を持った政治家が出現することが望まれるが、目先の成果にしか興味のない人が多いという印象がある。
5月11日からアンドロイド端末だけでマイナンバーと同じ機能が使えるようになった。対応機種は限られており以下の条件を満たす必要があるそうだ。IT Mediaは「ミッドレンジモデル」が対応していると書いておりリンク先には対応端末の例も記載されているが、デジタル庁のWEBサイトからも情報が確認できる。
- NFC Type Bの通信に対応していること
- GP-SE(GlobalPlatform Secure Element)を搭載していること
このニュースは明らかに「良いニュース」だろう。少しずつ政府のデジタル化が前進している印象がある。早くiPhoneにも搭載されればいいのにと感じる。
ただやはり懸念があり積極的に利用する気にはなれない。
最初にこのニュースを聞いた時には「マイナンバーカードの申請は必要ないのだ」と勘違いしていたのだが、初回のマイナンバーカード取得は必要なようだ。あくまでも電子証明書を移し替えるサービスにすぎない。つまり「忙しくてマイナンバーカードが取得できない」人たちの助けにはならないことになる。政府はカードを携帯しなくて済むと言っているが、健康保険証の導入の時には「携行しても危険はない」と言っていたような記憶がある。この辺りのメッセージングが非常に曖昧である。
第二に売却時や紛失時の対応がやや面倒だ。転売時に転売店のスタッフが代行することはできず「本人が改廃手続き」を行う必要があるようだ。新しい証明書が発行されると古いものは自動的に無効になるのだが、あらかじめ決めておいたパスワードの入力を求められる。これができないまま古い証明書を無効にできない人は増えるのだろうという気がする。
第三にメリットの少なさも問題である。現在最も強調されているのがコンビニでの住民票交付サービスなのだが不具合でストップしている。13件の不具合が起こっているなどと報じられている。決して多い数ではないが「あってはならないこと」と考えるとやはり漠然とした不安は残る。
ただ、最も懸念されるのはやはり政府のITガバナンス意識の絶望的な低さだろう。当初横浜市で問題が発覚した時には「政令指定都市という特殊な環境で繁忙期に起こった」上に「サービスベンダーの問題であってデジタル庁は関係がない」というような姿勢だった。結局、川崎と足立区で同じ問題が起き一斉点検に追い込まれたと伝えられている。
現在でも河野デジタル担当大臣や松野官房長官は「システム会社の問題であり政府側には落ち度がない」と強調している。NHKも大人しく彼らのメッセージに忖度(そんたく)し記事のタイトルを書き換えたりしている。
デジタル田園都市構想の中核事業であるガバメントクラウドが拡大しスマホにマイナンバーカード搭載を前提としたアプリが行き渡ればベンダーの数はおそらくもっと増えてゆくだろう。誰がそれを管理すべきなのかまた管理するだけの資源を政府から与えられているのかなどは全く議論されていない。
河野太郎大臣の資質を問題視したいところなのだが、政府・野党・マスコミを含めて「ITガバナンス」の問題に触れている人は皆無と言って良い。比較的新しい分野であり政治家にはITに詳しい人たちがあまりいないのだろう。そのような背景を考えると「個人的にはまだ利用できないな」と感じてしまう。
将来地方自治体のIT化が進みベンダーが多岐に渡った時、松野官房長官が今回のような発言を繰り返すのだろうかと考えるとかなり暗い気持ちになる。
これでは全く問題の解決にはならず、従って国民の不安も解消しない。だが、時事通信は単に官房長官の発言を右から左に流して終わりにしている。
このままでは、おそらくITに詳しい人ほど「これはまだ実験段階のサービスだ」と感じるだろう。全体としての安全性が担保されていないからだ。まずアーリーアダプターと呼ばれる人たちが利用し始めなければ広がるものも広がらない。「マスコミの報道姿勢のせいで疑念が払拭できない」などと他人のせいにするのではなく自主的にITガバナンスの方針を打ち出し国民に理解を求めるべきなのではないかと感じるがいかがだろうか。