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大阪の高校授業料完全無償化で維新が「投票すれば政治が変わる」とアピール

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大阪府民は「いままで選挙に行っていなかった人や何となく投票していた人が選挙に行けばここまで政治が変わる」ということがよくわかったのではないだろうか。大阪府は2024年から段階的に高校授業完全無償化を段階的に進めるとの意向を表明した。TwitterやYahoo!ニュースを見ると「維新には問題もあるかもしれないがこのニュースは歓迎だ」などとする意見が多い印象だ。増税などがなく受益が強調されている点が好感されているのだろう。維新は同時に「大阪市議会の定数削減」なども提案している。「無能な政治家対庶民」というわかりやすい勧善懲悪構図を作り出したのも効果的だった。今後は解散総選挙も噂されているそうだが維新はかなり躍進するのかもしれない。

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読売テレビ、関西テレビ、ABC、MBSが伝えるところによると

  • 大阪府は所得制限を撤廃した高校の授業料の完全無償化を進める考えを表明した。
  • 2024年度から段階的に開始され2026年度に全ての学年の授業料が全て無償になる。
  • 私立高校も生徒も無償化の対象にしたい考えで近畿の私立高校と調整してゆく。
  • 大阪公立大学の授業料も2026年度までに段階的に導入される。
  • 高校無償化の費用は382億円である。減権基金や財政調整基金などが財源になる。大学まで入れると430億円になる。ABCは3年間で450億円が必要としており媒体によって必要額の表現と内容が若干異なる。
  • 高校無償化は吉村知事の公約だった

ということである。

吉村知事だけでなく大阪府議会で優勢であることから実現できたことがわかる。無党派層がほんの少しでも選挙に参加すると選挙結果は大きく変わり、府民や大阪府に通学する学生にわかりやすい変化が実感できる。

民主主義国家において有権者が選挙に参加するのはいいことだ。地盤沈下に悩む公明党も実は「所得制限なき無償化」に意欲を示していた。有権者が選挙に参加することにより「競争」が生まれていた。

もちろん問題もある。

現在の議論は「全面無償化が維新の手によって天から降ってきた」ような印象を受けるのだが、実際には安倍政権により低所得者の高校教育の無償化が導入されておりそれに乗った形になる。さらに他に使えるはずだった予算を諦めて高校無償化を優先させている。これが全体の少子化対策につながっているのかは、実はよくわからない。

安倍政権の教育無償化は消費税増税と引き換えになっており一種の取引だった。ただ、国民の暮らし向きは良くなっておらず税と社会保険料の負担率はじわじわと上がってきている。消費税増税の目的限定使用にも批判があった。財源の一体的な議論が置き去りにされ有権者にわかりやすい政策が優先されてしまう懸念がある。

安倍政権時にも幼児教育の全面無償化よりも低所得世帯への支援を充実させた方が良いのではないかという議論があったが、結論を得ることはなかった。複雑な議論に参加したいと考える人は少ない。どうしても「タイムパフォーマンス」優先であり短い時間でわかりやすい結論を得たいと考える人が多い。

今回の場合も「私立高校をどうするのか?」という議論は煮詰まっていないようだ。吉村知事は私見を述べるにとどまっている。

「私学、私学と言うんだけども、公教育を担っていますよね、私学も。役所がくれる学校単位の私学助成金と授業料だけで全ての収入を確保するっていうのは、僕はこれからの社会は違うんだろうという風に思っています。メインになるのは寄付になると思っています。企業や人から寄付という形で応援をしてもらうというようなことも僕は(私学が)これからの新たな収入の大きな確保の道として、やはりやっていくべき方向性なんだろうという風に思っているんです」

全面無償化は直感とは異なり格差を拡大させる可能性もあるだろう。おそらく、良い教育を受けたい人は「寄付」により問題を解決しようと考えるはずだ。教育費の例で言えば9000億円もの教員のタダ働きが指摘されており教員の担い手が減っている。設備投資が滞れば「寄付を集めて良い教育を師弟に受けさせよう」とする人はこの枠組みからは逃避するはずである。

幼児教育の無償化は少子化対策にはならなかった。そもそも身分も収入も安定しない非正規の人たちは「結婚と子供を作る事業」に参入できなくなっているのだからこちらに手当てをした方が効果は高かったはずだ。

おそらく「教育の無償化」はわかりやすさはあっても少子化対策にはつながらないだろう。従前指摘されていた「幼児教育無償化が消費の拡大に寄与する」という効果も実証されていないようだ。

政府は危機感を募らせ「少子化対策ができる最後のチャンスが来ている」などと言っているが財源確保の見通しはついていない。これらはあくまでも2017年の無償化の裏返しなのだがなんとなく岸田政権はもたもたしていて安倍政権や維新の方が「国民のためになる」政治をしているような印象になる。

岸田政権での議論は次のようなものである。6月までに骨太の方針が出ることになっている。

鈴木財務大臣は「国債は問題の先送りである」として国債の利用を否定した。

防衛費の財源問題では安倍派から「国債使用」というアイディアが出ていたのだが、子ども子育てについての意見は聞かれない。

自民党の茂木幹事長は増税には否定的であり「保険料収入を転用してはどうか」と提案している。

これに対して加藤厚生労働大臣は「社会保険からはお金は出せない」と否定的な見解を示した。

岸田総理は調整を図っているが見通しはついていないようだ。

このように実際の有権者はたえず「全体として」は何かを選択している。安倍政権の消費税増勢の結果を我々は今経験していると言えるのである。

ただ「選挙に行かずに何の変化もない状態を嘆き続けるのか」のと「それでも何かを選択する」のどちらがいいのだろうとは考えてしまう。有権者がそれを実感しているのかは定かではないが維新の参入で大阪はとにかく決断する道を選んでいる。何もせずにただ沈んでゆくとの何かをして問題に直面するのとどちらがいいのか。人によって意見は分かれるだろう。

今回は大阪市議会の定数削減なども同時に提案されており「政治家や官僚」の無駄を省けば「府民全体にいいことがある」というわかりやすい図式を作り出すことに成功した。奈良県では「維新が勝ったら公共事業や調査が止まった」という図式が作られている。これも「誰かがこっそりトクをしているのではないか」といううっすらとした疑念を利用しており非常にわかりやすい。村社会の日本には強いフリーライダー懸念があり「勝ち負け」も好きなのである。

今回の成功で維新がさらに躍進すれば、各政党も財源議論を棚上げにしわかりやすい「受益」アピールに傾斜してゆくのかもしれない。すでに一部の自民党議員からは国債の償還ルールを見直すべきであるという議論が出ている。国民民主党は永久国債というアイディアを提案しており財務大臣から「財政ファイナンスという批判を受ける」と否定されている。

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