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殻に閉じこもり被害妄想に彩られたプーチン大統領と「俺を忘れるな」と泣き叫ぶプリゴジン氏の複雑で迷惑な関係

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ロシアで対独戦勝記念日の演説が行われた。ロシアが全面的に攻撃されているとする被害妄想に満ちたものであった。一方でプリゴジン氏は戦場から俺はここにいるぞと泣き叫び続けている。結果的にロシアの兵士たちは何の意味もない無駄な戦闘で命を落としウクライナの街には「焦土化」の危機にさらされている。さらにザポリージャ原発でも何らかの不測の事態が起きるかもしれないなどと指摘され始めた。

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プーチン大統領の演説はやはり聞くに堪えないものだった。AFPは冷静なトーンで内容を伝えているが、CNNは「誤った見方」と断罪している。

内容は既に伝えられている通りだ。

西側はロシアの殲滅を図っている。既にウクライナはその犠牲になっているのだから我々が救ってやらなければならない。ソ連はナチスに攻撃され滅亡の危機に陥っったが我々は打ち勝った。今また同じような危機が訪れようとしているのだから、今回も打ち勝たなければならない。

おそらくもともとは個人の被害妄想に満ちた歴史観だったのだろうがそれをロシア国民全体に押し付けようとしている。プーチン大統領は既に外部の批判的な情報から閉じこもり盗聴やコロナウイルスなどを極度に恐れているとされている。これを「西側のプロパガンダ」だという指摘もあるだろうが、演説を聞く限り信憑性は高そうだ。巨大なエコーチェインバーの中で一人「自分だけの事実」を日々強化しているという状態なのだろう。

こうした状態の中で「一見冷静に見える狂気」が全体を蝕む。ワグネルのプリゴジン氏を見ているとそのことがよくわかる。最初は「小賢しい計算」があり戦場から逃げ出そうとしているのだろうと思っていたのだが、どうやら違うようなのだ。言っていることがめちゃくちゃなのだがそれが次第に大きくなっている。

見捨てられようとして不安になっている人が泣き叫んでいると考えると説明がつく。

バフムトはそもそも戦略上重要な拠点ではない。プリゴジン氏は元々プーチン大統領に近い人物として台頭してきた人だが、最終的には軍に捨て駒にされてさほど重要でない拠点に取り残された。ロシアは既にヘルソン州の西部から撤退しているがこのままではもともと親ロシア派の支配地域まで失いかねない。仮に親ロシア派地域を奪還されれば「特別軍事作戦はむしろロシアにとって損出」だったことになってしまう。

プリゴジン氏がここでやってきたのは「肉弾戦」である。プリゴジン氏はロシア軍から捨て駒にされたがプリコジン氏もまた刑務所に入っていた人たちを捨て駒にしている。どうやら「特攻」させているようだ。

ただ、チェレバティ氏はワグネルが「信じがたい損耗」を出した理由について、「絶えず肉弾攻撃を仕掛けるという愚かな行動」が原因だと分析。プリゴジン氏が撤退を望んでいるのは、バフムートを巡る戦闘でワグネルが壊滅に近い状態に追い込まれているからだとの見方を示した。

受刑者の半数が亡くなったとアメリカは主張しているが、誰が死んで誰が生きているのかという管理も曖昧なようだ。戦地から空の棺が送りつけられてきたとするルポもある。このルポでは集めてきた受刑者5万人のうち、4万人が死んだか逃げたか投稿したと書いている。

そもそも刑務所からの人間の補給がいつまでも続けられるわけではないのだがこの作戦には持続可能性がない。それでもなんとか成果を出しているように見せようとしてと「市庁舎」にロシアの旗を立てて法的にロシアのものになったなどと主張して見せていた。BBCによるとこの主張自体はかなり信憑性が低いそうである。

ところがこれも結局のところは嘘である。そこで今度は失敗を誰か別の人のせいにしようと「ロシア軍が弾薬を提供しないから自分達が犠牲になっている」と騒ぎ始めた。SNSで情報を拡散しプーチン大統領などに手紙を書いているそうだ。

内部でどのような話し合いが行われたのかはよくわからないのだが、今度は「ロシア国防省から弾薬を提供された」と表明した。これだけを聞くとバフムトにとどまるのか?という気もする。

だが、別の報道では「バフムトを別の人に引き渡した」と主張したという。

プリゴジン氏はバフムトの拠点はチェチェン共和国のカドイロフ首長が率いる部隊に引き渡されたと主張した。ただしカドイロフ首長は「命令を待っている段階にある」としており、必ずしも両者の主張は一致しない。

さらに「一度は届いた」としていた弾薬が「まだ届いていない」と言い出した。

撤退してしまえばプリゴジン氏はプーチン大統領の視界から消えてしまうことになる。おそらくこれが彼の最大の恐怖なのである。彼が出したお手紙の返事がなかなか来ないのだろう。そこでどんどん声が大きくなっている。「もう別れる」と言いながら別れる気配がない。

今プーチン氏の近くにいるとプリゴジン氏が考えているのがショイグ氏とゲラシモフ氏である。つまり、プリゴジン氏は彼らに嫉妬しているのではないかと思う。そう考えると「書簡」の意味が見えてくる。かつての恋人に見捨てられようとしておりそれを否定しようとして懸命に騒いでいることになる。

プリゴジン氏は(おそらくは)個人的な嫉妬に駆られ、今日も「ロシア軍がバフムトから敗走した」などと大騒ぎを続けているのだが、既に周りの情報を聞かなくなっているプーチン氏にはこうした叫びは届いていないのかもしれない。

問題はその怒りの矛先だ。被害者は大きく分けて二つある。ロシアの国際的な地位は台無しになり兵士たちは戦場で全く意味のない戦闘行為に駆り出されている。誰が生きているのか死んでしまったのかも定かではない。ウクライナの状況も悲惨である。国家の再建には長い時間がかかるだろう。

BBCはバフムトでは白リン弾が使われたと主張している。兵器としては禁止されていないそうだが民間人がいる可能性がある地域での使用は違法である。軍事兵器に詳しいJSF氏は「焼夷弾ではあるが白リン弾ではない」と言っている。実は白リン弾を使うよりも焼夷弾を使って街を焼き尽くすことの方が「ブラック度は高い」と言っている。各メディアの分析などを見るとどうやら白リンではない焼夷弾が使われていて焦土計画が実行されているようだ。

原子力発電所のあるザポリージャでも緊張が高まっている。IAEAはザポリージャ原発の安全性が脅かされていると訴えている。ザポリージャでは住民の「避難」が始まっているようだ。ロシアとウクライナの思惑をめぐって情報が錯綜し「現地ではパニックが起きているのではないか」とする報道もある。ザポリージャ原発で重大な事故が起こればおそらくヨーロッパに大きな環境被害が出るだろう。チェルノブイリ原発事故から我々が学んだことだ。

これを「狂気」と表現するかあるいは別の言葉を使うべきなのかは読んでいる人によって意見が分かれるのかもしれないが、少なくとも落とし所が見つかっていないことは明らかだ。グテーレス事務総長は次のように語りこの状態を「のめり込みだ」と言っている。

「(二つの)当事国がこの戦争に完全にのめり込んでいることは明らかだ」

「二つの」ということはロシアもウクライナもということになる。

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