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維新の奈良県知事が公共事業などの執行一時停止を指示。「政権交代」の成果をわかりやすく示す。

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奈良県の山下新知事が本格始動し公共事業などの一部予算執行停止を決めた。また荒井知事が難色を示していた広域連合への早期加入の意向も表明された。「政権交代」によって地方自治体の雰囲気が大きく変わるということが分かりやすい形で示された。1970年代には「選挙で地方自治体の政策が大きく変わる」という図式はよく見られたが、令和・平成時代しか知らない人たちにとっては「たかが選挙でここまで大きく変わるのか」という新鮮な驚きもあるかもしれない。

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山下知事が本格始動し奈良県の新しい方針が示された。これまでの予算の執行を一部停止するとともに広域連合への早期全面加入を指示した。

関西広域連合について奈良県は一部参加しているが、独自予算獲得や中央リニア駅誘致などで軋轢があったようだ。予算権限を保持し県政の独自性を高めたい狙いがあるものと思われる。ソースは確認できないものの荒井前知事は「京都や関西広域連合とは絶対に仲良くしてはダメ」と発言したなどと伝えられることがある。メリットは享受したいが利権は取られたくないという気持ちがあったのだろう。

予算削減については共同通信の事前取材によると

  • 世界遺産の平城宮跡を横切る近鉄奈良線の敷地外への移設事業
  • リニア中央新幹線新駅の県内設置を前提とした関西空港への鉄道網整備

など公共事業が標的になっているようだ。

リニア中央新幹線の名古屋以降の延伸計画はまだまとまっていない上にどこに駅が置かれるかも明らかではない。このため「それを前提とした」鉄道の整備計画はやや無謀と言えるかもしれない。関西テレビニュース(YouTube)によると停止された予算は81億円で「大規模防災災害拠点構想」などが含まれるという。奈良県では五條市に大規模防災災害拠点を作る計画がありそのために新しい部局が作られていたようだが、これが見直し対象になる。

ただし「中止を決定」したわけではなく「もう一度精査します」ということになっている。このため、議会側の反応について取材した媒体はなかった。おそらく実際に対立が表面化するのは中止が本格決定された時だろう。

奈良県の予算規模は5300億円程度。荒井知事の地元自治体との関係が良好だったことから、おそらくは地元自治体からの要望を受けた知事が「分配」のために公共事業を利用してきたという側面があるものと思われる。5300億円のうちの81億円が執行停止になったと考えると「今ある計画を最大限に利用して地域への利益誘導を盛り込もう」とする地方自治体ならではの現状がよくわかる。期待が大きかったとすれば落胆も大きいのではないだろうか。

地方政治への有権者の参加率は必ずしも高くないため一部の利権保持者が裁量できる範囲はかなり大きい。つまり一部の有権者が政治に参加しただけでこうした現状を大きく変えることができるのだ。

ただ、奈良県議会は現在「ねじれた」状態にある。奈良県議会の定数は43だそうだ。維新は「躍進」して14人の議員を送り込んだが、これでは多数派に届かない。今後「検討」が「停止」に変わった時にどの程度の反発が生まれるのかは今回の報道からは見えてこない。

少なくとも議会と妥協しなければ新しい予算は通せないのだから、今後山下知事は議会とうまくやってゆく必要があるはずである。

二元代表制は原理的には議会と首長が対立する可能性がある。市のレベルではすでに逼迫する予算を背景に議会対立がリコール運動に発展したところがある。日経新聞は名古屋市と阿久根市の対立について扱っているが、どちらも「異例の事態」だと紹介されていた。

日経新聞は次のように解説している。

首長と議会の衝突は1970年代の美濃部亮吉知事時代の都政など革新派知事の時代に頻発。その後「オール与党体制」が常態化したが、再び対立の構図が目立ってきた。地方分権が進む一方で、財政が悪化しており、従来にはない手法で自治体の組織や機能を大幅に見直そうという首長が出てきたためだ。

この記事からもわかるように日本人は基本的に表立った対立を嫌う。このため1970年代に見られた対立はあまり多く見られなくなり徐々に現在のような「馴れ合い」の議会が増えていった。「無駄な分配」が増えたとも言えるのだが面倒な対立を見なくて済むようになったと考えることもできる。

今回の奈良県の場合も全面対決に突入する可能性があるわけだが県民がどのような感情を抱くのかはわからない。

市長と市議会をどちらも掌握した大阪市では市議会の定数削減に関する議論が始まった。

こちらは「政治家など何の役にも立っていないのではないか」という無党派層の不信感を背景に党の主導で定数削減を推進する。議会も市長も維新系主導なのでおそらく「改革」自体はうまく進むだろう。ただ形式的には大阪府知事(維新の党首)が大阪市議会を縮小させるという形になる。この是非は議論が別れるところだろう。

仮に「地方議員を抵抗勢力と位置付ける」のであれば奈良県知事もまた対抗姿勢を明らかにするのではないかと思われる。どの県においても「県知事が変われば改革が進む」という事例になりそうだが「根回しなしに改革を推進すると混乱する」という事例にもなりかねない。

今後の県知事の手腕に注目が集まる。

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Comments

“維新の奈良県知事が公共事業などの執行一時停止を指示。「政権交代」の成果をわかりやすく示す。” への1件のコメント

  1. 井坂十蔵のアバター
    井坂十蔵

    青島都知事による「世界都市博中止」が思い起こされる。都知事選の公約の実行であるが、施設を途中まで建設していて民間企業への都から補償金支払いが発生して経済的には見合わなかったらしい。理念的には素晴らしいが経済行為としては無駄と映った可能性がある。

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