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インド東部で55人が死亡する民族対立が発生。インパールを中心に混乱が広がる。

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インド東部のマニプル州で部族間対立が広がっている。マニプル州というと聞きなれないのだが「州都がインパールである」と言えばなじみを感じる人もいるかもしれない。きっかけはチベット・ビルマ系のメイテイ族の「指定部族入り」だが、歴史的な背景があり混乱が広がっている。

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CNNが「部族衝突で55人死亡、数百人負傷 2万3000人が避難 インド」で伝えるところによると、主要民族のメイテイ族が指定部族入りのキャンペーンをおこなっており、それに反発した周辺民族が暴動を起こしたということになっている。ただ、これだけではなぜ指定部族入りが暴動に発展したのかがよくわからない。

英語のメディアを調べるとインドの媒体がいくつか背景情報を書いている。

What is really behind the violence in Manipur?

インド東部のマニプル州はインパールに盆地があり周りを山岳に囲まれている。地図で見るとバングラディシュのさらに東にあり北部のアッサム州(インド)からもミャンマーからも山岳で切り離された独立した盆地になっている。

マニプル州の中央に位置するインパールには主要民族であるメイテイ族が暮らしておりこの地域の支配的な民族だ。山岳地帯の治安は必ずしも安定しておらず政情不安定なビルマからも人々が流れてきたようだ。当局は治安維持のための活動をすることがあったが、長年の歴史的経緯から「少数民族」に圧力を加えているとみなされることが多かった。

ところが今回はメイテイ族が連邦に対して「自分達こそ少数民族なのだ」と主張し優遇措置を訴えた。これが実現しそうなところまできており、周辺の少数民族からの反発が高まっていたようである。そもそも「なぜ周辺民族が指定部族にならないのか」という疑問もある。

。指定部族は全体の8%程度である。「指定カースト」はヒンズー教の内部にいる被差別階層を指すが、指定部族はさらにその外側にいる人たちで「非差別民族」という含みがある。

インドのモディ首相はヒンズー第一至上を掲げてイスラム教徒などの非ヒンズー系との間に軋轢がある。一方でこれまで被差別階層として差別されてきた少数派の取り込みも熱心にやっている。その一つの表れとして大統領に指定部族の女性が選出されている。あまり権限のない象徴的な大統領に指定民族を頂くことで少数民族の取り込みを図りたい考えだ。大統領はオーストロアジア系のサンタル族の出身とされるが、日本の媒体ではインドの先住民族などと紹介されている。アーリア系が地域に侵入してくる以前からインド亜大陸に暮らしていた人たちである。

最近人口が中国を抜き世界第一位になったとされるインドだが、中央ではヒンズー至上主義が広がっている。モディ首相はイスラム系の少数民族の国籍を奪い「インドのヒンズー化」を推進する。一方で地方にはヒンズー教徒が絡まない多数派・少数派という構造が残っている。これが今回の問題の根幹にあるようだ。実際にビルマから人が流れ込んでいることからも「誰がインド人でだれがそうでないのか」はインドではいまだに解決していない問題である。

BBCの記事には次のような記述がある。そもそもインド人が何人いるのかについても公式統計がない。

国連の人口推定・予測部門の責任者パトリック・ガーランド氏はBBCのインタビューで、インドの真の人口規模に関するいかなる数字も、「断片的な情報に基づく単純な想定」だと述べている。

英語の媒体を読む限り現地の状態は制御不能であるなどと表現されており、連邦レベルでも州レベルでも治安維持には苦労しそうである。今や国際社会でも「グローバルサウス」の主要なメンバーとして存在感を増すインドなのだが、そもそも「国民が確定していない」というのはかなり意外な気がする。

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