シリアがアラブ連盟に復帰するという。アメリカの経済制裁からアサド政権が逃げ切ったと言えそうだ。きっかけになったのはトルコとシリアを襲った地震だったようだ。アメリカは今でも「シーザー法」という経済制裁のための法律を維持しており、今後どのように対応するのかにも注目が集まる。
21カ国と1機構が参加するアラブ連盟はカイロで非公開の外相級会合を開きシリアを連盟に復帰させることを承認したと時事通信などが報じている。2011年にアラブの春を弾圧したことに抗議して資格が停止されていたのだという。アラブ連盟はエジプト主導の緩やかな会議体であり政治的な重要性はあまりないようだがシリアの国際社会への復帰が加速しそうだ。
おそらく、アラブ圏では「シリアとの関係を修復したい」という気持ちが強かったのだろう。きっかけはトルコとシリアを襲った地震だったようだ。国際的な支援が入り協力関係が戻りつつあった。
ただし2021年にはNewsweekが「悪夢のシリア内戦から10年、結局は最後に笑ったのは暴君アサド」という記事を書いている。つまり、既に制裁は形骸化していたことになる。アラブが断交している間にロシアとトルコが入り込みまたアメリカも軍事行動をとっている。アラブの思惑は国によって違っているようだが「空白を利用して外国勢力に入り込まれても困る」という意味では思惑が一致したといえそうである。主にロシア、トルコ、アメリカが勝手に覇権争いを繰り広げているのがシリアだった。
Newsweekの記事には「シーザー法」というアメリカの経済制裁法が出てくる。表向きは人権擁護のための法律だが「シリアの人権状況をさらに悪化させかねない」という懸念があったようである。英語で検索するとワシントンポストが「バイデン政権はシリアの経済制裁を解除すべきではない」とする記事をいくつか出している。アメリカには依然「アサド政権の人権侵害は許し難い」と考える人たちがいることがわかる。本音での覇権争いに注目する人と額面である「人権侵害の防止」に注目する人がいるのである。
大統領選挙を間近に控えたトルコもまたシリアを選挙キャンペーンに利用している。シリアにはトルコを破壊しようとするクルド人勢力がいるという理由で報復空爆をやっている。
アメリカもシリアの国際社会への復帰間近にシリアへの空爆を実施しているそうだ。地域情勢に詳しい青山弘之氏は次のように結論づけている。
「人権」を表向きの理由として地域の覇権を狙うのがアメリカのやり方である。だが最大の武器であった「経済制裁」は効果を失いつつありその大義もアラブ圏では疑問視されている。シリアの国際社会への復帰もアメリカの国際政治上の変化の一つのバロメータになっていると言えそうだ。