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アメリカ憲法修正第14条はアメリカをデフォルトから救うことができるか?

バイデン大統領と共和党が主導する下院との間に軋轢が高まっている。そんな中「憲法修正第14条を使えばこの危機を回避できるのでは?」という人たちが現れた。バイデン大統領はまだその時期ではないと言っている。この議論を読むとアメリカが「南北戦争以来の危機」に陥っていることがわかる。

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南北戦争では奴隷制を容認しない北部と奴隷制を容認する南部が戦った。結果的に奴隷制を容認しない人たちが勝つ。分離は阻止されたのだから当然南部州を復帰させなければならない。だが復帰させれば敗戦側が州の権限を行使し市民に不当な圧力をかけることが懸念される。さらに過去の損害についての補償を連邦政府が押し付けられかねないという懸念もあったようだ。これを防ぐために元奴隷に対する公民権を保障しなおかつ州の権限を抑えたのが憲法第14条である。

ただしかなり急いで作ったために曖昧な部分が多いようだ。のちに南部はジム・クロウ法を作って脱法的に黒人を政治から排除したこともあり、訴訟が多い憲法条文だと指摘する記事もあった。

曖昧な憲法条文がのちに大きな禍根を残すことがわかる。作った経緯とは別に条文が一人歩きしてしまうのである。日本が民主主義のお手本としてきたアメリカの憲法に曖昧な条文があるというのも驚きだ。

ただ、今回話題になっている第4節はあまり訴訟対象になったことがない。あまりにも曖昧だからである。

条文は確かに「アメリカの公的債務の有効性は疑問視されないものとする」としている。だがその後に「アメリカのどの州も合衆国に対する暴動や反乱を支援するために生じた債務」を引き受けてはならないと続く。つまり、これは禁止事項の前提条件について記載したものであり目的そのものではないことになる。アメリカのデフォルトを回避するために作られた法律ではない。

ただ、これがまったくお話にならないかと言われればそんなこともない。問題点が二つある。一つはデフォルトで被害を受ける当事者が誰なのかが曖昧だという問題がある。

「アメリカがデフォルトに陥ったから損害を被った」と証明できる個人は確かにそれほど多くなさそうだ。つまり、訴訟を起こす権限のある人がいないという懸念が出ている。日本の憲法訴訟でもお馴染みの問題であるが法的概念としてスタンディングという名前がついているそうだ。裁判官は選挙で選ばれていないため政治的判断からは距離を置くという対応だ。

次の問題は、憲法修正第14条の目的外利用なのではないかという問題である。確かに素直に条文を読めば「南北戦争の損害」のための限定的な条項のように読める。だが憲法は恒久的なものなので「文脈を限定した条項」はあまり適切とは言えない。

最初の項目と後の項目の関係が必ずしも明確ではなくさらに過去に対する負債を心配しているのかあるいは未来に起きる何かを未然に防ごうとしているのかもよくわからない。当時の人々は文脈を共有していたのだろうが現在ではその文脈は失われている。だから「どうとでも読めてしまう」のだ。

オバマ政権の時にも同じような提案が出されたそうだが、この時はホワイトハウス側が「そんなことはできない」と否定しているという。

ただし、民主党が強い州の人たちから見れば「共和党が強い州の人たちが連邦の政策を邪魔しようとしている」と心情的には解釈できなくもない。つまり、政権を担当している民主党から見れば「共和党がアメリカの債務に挑戦して内部から破壊工作を行なっている」と思えなくもないわけである。

共和党も「意識高い系の民主党がアメリカの価値観を破壊しようとしている」と考えている可能性が高い。つまり、ある意味では南北戦争直後の連邦派の懸念が結実したことになる。州によって「あるべき連邦政府」や「アメリカ人はどう生きるべきか」という理想像が違っているのだから「連邦単位での同意」が得られなくなっている。

大統領選挙で共和党が勝てば民主党州が不満を持ち、大統領が民主党になれば共和党に不満を持つという状態はおそらく今後しばらくは解消されることはないのだろう。アメリカ合衆国は歴史的経緯から分裂の規定がないためこの状態が温存されることになる。基本的な格差が解消されない限り、連邦予算に対する混乱は今後も潜在的に燻(くすぶ)り続けることになる。

基軸通貨としてのステータスを持つアメリカドルがデフォルトすることなどあり得ないのだが、技術的にはデフォルトする可能性が出てきている。

バイデン大統領は一切の妥協はしないと宣言しており格付けを変更する会社も出てきたようである。「無理やり感」の強い憲法修正第14条はあくまでも「交渉のための議論」にすぎないのだろうが、今後バイデン大統領と下院共和党がどのような妥協をするのか、あるいはしないのかに注目が集まる。

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