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2件の銃乱射事件を受けセルビア大統領が「刀狩」を提案

セルビアで2件の銃乱射事件が起きた。ユーゴスラビア紛争を経験しているセルビアにはまだ多数の銃が残っているという。大統領はほぼ完全な武装解除を行うと宣言した。現代版の刀狩である。歴史を調べるとセルビアには「国民皆兵」の伝統があるそうだ。武装解除がすんなり行くのかあるいは抵抗を受けるのかについては今のところ何の報道もない。

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セルビアで2件の銃乱射事件が起きた。最初の事件は首都のベオグラードで起きている。容疑者は13才の男子生徒で既に自首しているそうだ。子供8人と警備員が犠牲になっている。

学校で銃乱射、子ども8人と警備員1人が死亡 13歳生徒を逮捕 セルビア

ところがその後で別の場所で銃乱射事件が起きた。容疑者は21才の男性だが現在も逃亡しているとのことである。CNNは少なくとも8人が死亡したと報道している。「最初の犯行に刺激された」ように思えるのだが、ベオグラードの事件との関連についての記述はない。

セルビアでまた銃乱射事件、8人死亡 学校銃撃の翌日

これを受けて、アレクサンダル・ブチッチ大統領は「銃の回収」を宣言した。セルビアの人口は680万人だそうだが登録されている拳銃は67万丁あるそうだ。報道は「武装解除」と書いているがわかりやすく「現在の刀狩」と言っても良い。

ブチッチ大統領は「セルビアのほぼ完全な武装解除を行う」と表明。国民から銃数十万丁を回収するとともに、登録されている武器の大規模な調査と、違法武器の取り締まりを行うとする計画を発表した。

このニュースを見て「銃が行き渡っているにもかかわらずなぜ大量殺戮が起こらなかったのだろうか?」と疑問に感じた。うっすらと「ユーゴスラビア紛争の記憶が残っており人々が拳銃による無差別な殺人に嫌悪感を持っていたからだろう」と感じたのだが、実はそんな話ではないようだ。実はセルビアの人たちの中には銃の扱い方をきちんと知っている人たちが多いようなのだ。

ユーゴスラビアは形式的には東側陣営だったがソ連や中国とは距離のある独特のユーゴースラビア型社会主義路線をとっていた。これを支えたのが国民皆兵の「トータル・ナショナル・ディフェンス」という制度だったそうだ。Wikipediaは「国民のほとんどが銃火器を扱えることが仇となり」ユーゴスラビア紛争が激化したなどという記述がある。

ユーゴスラビア王国は1941年にドイツ、イタリア、ハンガリー、ブルガリアなどの周辺国に攻め込まれバラバラに分割統治されていた。ユーゴスラビアのスラブ系民族はユーゴスラビア国王のためではなく自分達のために「パルチザン」として蜂起する。中国の人民解放軍が「上から権力を収奪した」のに比べると、ユーゴスラビアは「下からの力」で独立を勝ち取ったことになる。この伝統がチトー体制で生き残り内戦を経て今でも生きていることになる。つまり、かなり独自武装の歴史が古いのだ。

状況は憲法で民兵組織が容認されているアメリカ合衆国と状況が非常によく似ている。ユーゴスラビアの内戦は結局は「宗教や言語が違う」人たちが信じられなくなったことから激化している。ユーゴスラビア内戦の混乱とアメリカ合衆国の現在の状況はその意味では非常によく似ていると言えるだろう。

仮に戦後からの伝統が背景にあるとすれば、ブチッチ大統領がすんなりと国民武装解除を行えるのかはまだよく分からないということになるのかもしれない。

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