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「あれは実はアメリカのせいだ」と主張を転換 クレムリンのドローンはロシアの偽旗作戦なのか

クレムリン上空で爆発したドローンについて、昨日のエントリーでは「ウクライナとロシアのどちらにも動機がある」と書いた。ところがある記事を見て「やはりロシア側の偽旗なのかな」と感じた。ペスコフ報道官が「あれはアメリカのせいだ」と言い出した。根拠は示さず、アメリカは否定している。

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ロシア、クレムリン無人機攻撃「背後に米国」 非難の矛先変更は次のように書いている。

ロシア大統領府のペスコフ報道官は4日、「このような行動やテロ攻撃に関する決定は、キエフでなくワシントンで下されることを、われわれはよく知っている」と述べ、米国が攻撃の背後にいることは「間違いない」と述べた。

根拠を示していないというのが特徴である。

まず、先日のおさらいをする。

機密文書を漏洩させてしまったアメリカとウクライナの信頼関係はおそらく微妙なのだろう。ブリンケン国務長官は「ウクライナが何をするのかはウクライナ側が決めることだ」とした。つまりウクライナが国境を超えてロシアに攻撃を仕掛けることについては何も言わなかった。アメリカ側のグリップが効かなくなっている可能性はあるのだろうと感じる。

一方でロシアには「特別軍事作戦」を続行したい人が大勢いる。大統領選挙を控えたプーチン大統領は大規模動員には消極的な立場であると見られるが状況をエスカレートさせたいという思惑を持っている関係者は多いだろう。さらに5月9日の戦勝記念日に向けてロシア国民に対してウクライナへの憎しみを盛り上げたいという思惑もあるのかもしれない。

今回のペスコフ報道官の発言を見ると、おそらくこの「ドローン攻撃」の衝撃はあまり広がらなかったのだろう。西側がこれに反応しないことは最初からわかっているのだから、おそらく対象はロシア国民だったはずだ。

仮にこの作戦が「偽旗」だったとすると仕掛けた人たちはプーチン大統領がいない時を狙っていることになる。仮にプーチン大統領がクレムリンにいる時にやってしまうと「実は命を狙っているのかもしれない」ということになってしまうからだ。極めて「安全に配慮した」演出になっている。

日本テレビは比較的若い人たちに今回の件を聞いているが「面倒なことには関わりたくない」というような評価である。一方でNHKは比較的高齢の人に話を聞いていて「不安だ、こんなことはあってはならない」と言っている。どうやらロシア人と言っても年齢によって評価はまちまちのようである。国民がウクライナに対する憎しみを募らせているという様子はない。特に「戦争で使える」年齢の人たちの気持ちが動いたという様子はない。情報リテラシーが上がれば上がるほど「ロシアの報道には信頼がなく」「SNSの情報も吟味しなければならない」と感じる人が増えるのだろう。

日本テレビによると赤の広場は戦勝記念日を前に立ち入り禁止になっているが特に警備が厳しくなったというような感じではないようだ。仮にウクライナ側からドローンが飛んできていたとなると、モスクワの上空の警備体制はガラガラだったことになる。警備担当者にとっては責任問題となるため証拠をでっち上げてでも「犯人は捕まった」などと主張するものである。

例えばクリミア大橋の爆破事件の時にはトラックのX線写真などを見せて「外国から狙われているのだ」という証拠を提示して見せていた。「タイヤの数が違う」とか「国境でX線検査など行われていなかった」などという主張はあったようだが、そもそもロシアには「説明責任」というような概念はないのだから、とにかく自己保身のためにありとあらゆる方策がとられる。

仮にこれが「偽旗」だったとすると、もともとKGBの職員であり数々の情報工作活動で大統領まで上り詰めたプーチン大統領の作戦としてはあまりにも杜撰と言って良い。世論誘導の効果はなく、さほど世論への衝撃も与えなかった。あるいは「劣化コピー」になっているのかもしれない。だからこそ矛先をウクライナでなくアメリカに変えた可能性もあるわけだが、これでは却ってロシア側の信憑性が怪しくなる。

警備体制も強化されておらず、なりふり構わぬ「証拠」の提示もない。プーチン大統領が関与していおり「そもそも杜撰な工作が多かった」可能性は捨てきれないのだが、あるいはロシア国民もプーチン大統領も本気にしなかった可能性もあると感じた。

ウクライナからのドローンは実際にロシア領内に侵入しているようだ。だがその目的は兵站の分断である。BBCによるとターゲットになっているのはウクライナから見て北東側(つまりモスクワの方角)とクリミア半島周辺である。ロシア当局はこの事実をつかい「キエフ側がモスクワを攻撃している」と見せたかった可能性があるのだが、実際にはウクライナに侵入してきた軍隊の兵站を断つという実務的な作戦なのだろう。

こうなると今回の宣伝活動で動揺したのは比較的メディアリテラシのない中高年世代だけだったことになる。

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