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アメリカの保守論壇に大きな影響があったFOXニュースのタッカー・カールソン氏が突然姿を消す

日本のネット保守論壇は元総理大臣をはじめとする政治家の主張がネット経由で拡散するという形式だった。アメリカはケーブルテレビのキャスターが「問題」を作り出し、ネットで広がり、それを政治家が採用するという形になっている。この台風の眼の一人だったタッカー・カールソン氏が突然FOXニュースから姿を消した。訴訟リスクを恐れて姿を消したのではないかなどと言われているようだが詳細は明らかになっていない。

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FOXニュースは「投票集計システムによる不正」を主張していた。裁判で争われる予定だったのだがFOXニュースは突如7億8750万ドルで和解を成立させていた。アメリカでも巨額の和解だったため大きく報道されていた。

タッカー・カールソン氏はこの裁判において重要な証言者になるものと考えられていた。カールソン氏は金曜日の番組は普通通りだったようだが番組に戻ってくることはなかった。FOXニュースもカールソン氏の側も何が話し合われたかについては詳細を公表していない。

有名なニュースのMCが突然消えたのだから当然アメリカのメディアは騒然とした。最も複雑なのがCNNだろう。CNNはカールソン氏が辞任するのは当然としつつ「FOXニュースがこれまでのような発言を修正することはないだろう」と言っている。政治言論において一つの極端な意見が出るとそれに対するカウンター運動も盛り上がる。CNNもおそらくカールソン批判である程度の視聴者数を維持してきたという自覚があるのではないかと思う。

日本ではバイデン大統領が正式に出馬したとして話題になっている。CNNはバイデン氏に対して複雑な感情を持っているようだ。民主党の政策は明らかに行き詰まっているのだがバイデン氏に変わる有力な候補者が出てこない。CNNは「なぜバイデン氏に変わる有力な候補者が出てこないのだ」という分析記事において、組織を押さえ、大統領選挙の日程を決定する立場にある有利な立場にあるとしつつ、「唯一トランプ氏に勝てる候補者」としての人気も高いのだと分析している。

実際のところトランプ氏とバイデン氏に代わる有力な候補者はおらず「高齢だけが問題である」などというのが現在の見方である。先日「日本の外務省はフロリダ州知事のデサンティス氏に次の大統領候補者として期待を寄せているようだ」と書いたのだが、現実はそうなっていない。

日本のネットを舞台にした保守言論(いわゆるネット右翼)を見ていると、安倍元総理が舞台から消えたことで全体的に核を失いつつある印象がある。これまで「権威と一体化している」ことで多くの視聴者を惹きつけていたネット系テレビ番組の勢いが落ちるとそれをコピーペーストしてきたネット論壇の勢いが落ちる。ネットを舞台にした保守言論は一部が過激化するものの「一言コメント」しか発することができなくなり表舞台から姿を消しつつある。言論の核がなくなるとせいぜい「コメント欄の花」にすぎなくなってしまうのである。このことから、日本では政権を担当する政治家の権威が「言論の核」になっていたことがわかる。

BBCは次のように書いている。カールソン氏がアメリカの保守言論において一つの核だったのは明らかである。

カールソン氏は保守派視聴者の間で絶大な人気を誇るだけでなく、アメリカ政治の動きにも影響力を持った。2016年開始の「タッカー・カールソン・トゥナイト」はしばしば、保守派にとって何が重要な課題なのかを提示し、それがひいては共和党にとっての政策課題となっていた。

日本では保守論壇の勢いが減じることで「反アベ」運動の勢いも減じた。地方組織をまとめきれなかった立憲民主党はかろうじて「反アベ」運動で見せかけの一体性を保ってきたが、高市文書問題で小西洋之氏が失速したことからも明らかなように反アベ運動も実は運命共同体だったのだ。

CNNは株価の下落について触れた上で「FOXニュースはこれまでのように過激な言論を続けるだろう」と言っている。反保守・反FOXのCNNとしては「これまでの姿勢を維持してもらわなければ困る」と考えているのかもしれない。

ただ、FOXニュースが右派的な言説から大きく距離を取る可能性は低い。FOXニュースによると、カールソン氏の午後8時の枠は他の司会者が交代で埋める見通し。今回の報道を受け、フォックス・コーポレーションの株価は5%下落した。

今回の動きは、おそらく「カールソン氏がいなくなって株価が落ちる」ことよりも「訴訟リスク」の方が上回ったということを意味しているのだろう。つまりそもそもアメリカの政治言論がある程度のリスクを織り込まなければ保持できないというような状態にあったことがわかる。これが過激化しベネフィット(視聴者の獲得・維持)よりもコスト(訴訟リスク・炎上リスク)の方が上回ってしまったのだ。

これは放送の許認可権限に守られた放送局しかない日本人にはなかなか理解が難しい。そもそも「中立で公平であるべき」政治報道がリスクを取る必要があるのか?が理解できないからだ。

他にもCNNの有名司会者が突然降板したことも話題になった。CNNは詳細を明らかにしていないものの司会者側は「突然解雇された」と主張しておりCNNと見解が異なっている。時事通信は「この司会者の女性蔑視発言が問題視されたのだろう」と総括している。アメリカの保守論壇の情勢は日本からはわかりにくいが「女性蔑視発言が炎上」というのはわかりやすい。このため日本ではこちらだけが記事として流通した。

さらにアンハイザー・ブッシュはバドライトのマーケティング担当副社長とマーケティング統括の副社長を休職扱いにしている。こちらはLGBTQをターゲットにしたサブキャンペーンが保守層に見つかって炎上したことを受けた措置とみられる。保守層の反発は「受動攻撃性の代理懲罰」という側面が強そうだが、やはり風当たりは強かったようで何もしないわけにはいかなかったものと思われる。

このようにアメリカの政治言論は大統領選挙からビールのマーケティングまで様々な分野で急速な変化を迎えている。これまで「多少派手な言論があった方が視聴者が喜ぶ」という空気だったのだが「炎上や訴訟リスクの方が怖い」ということになりつつあるようだ。

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