国連の安全保障理事会は理事国が持ち回りで議長を務める。4月の議長はロシアのラブロフ外務大臣だがグテーレス国連事務総長に批判されるなど異例の開幕となった。ラブロフ氏は依然西側に対する被害者意識をフルスロットルの発言を続けており、ウクライナ情勢に加えてスーダン情勢も抱えることになった国連の機能不全ぶりがよくわかる構図が作られている。
冒頭、グテーレス事務局長は「ロシアのウクライナ侵攻はウクライナに大規模な苦しみと荒廃をもたらしている」と名指しでロシアを批判した。総会と国際社会の意思を代表したものである。
これに対しラブロフ外相は「西側の少数者が全人類を代表して発言するは許されない」と応じた。長年ヨーロッパの辺境として疎外感を持ってきたロシアの被害者意識を代表している。
プーチン体制のロシアは周辺にプーチン大統領の意のままになる独裁者を置き体制を固めようとしてきた。
東ドイツでの市民蜂起をトラウマとして抱えるプーチン氏は市民主導の政治に強い恐怖心を持っていると指摘する人たちもいる。そして皮肉なことにプーチン氏が市民主導の政治に抵抗すればするほどロシアに対する風当たりは強くなってゆく。
真偽は定かでないものの、プーチン氏は盗聴とコロナウイルスを極端に恐れており、シェルターのようなところに隠れて住んでいるという話まである。英語では「燃料保存庫」を意味する「バンカー」と呼ばれている。Newsweekが「プーチン大統領はむしろ心の病気なのではないか」とする記事を書いている。
これを心の病気と呼ぶべきなのか正常な判断力を失った状態とするかは難しいところだがこの状態が国連の安全保障機能に大きな傷を与えているのは確かである。
しかし、現在問題なのはプーチン氏の状態ではない。国際社会は今ここにある危機をなんとかして乗り越えてゆかなければならない。
ウクライナへの理不尽な攻撃はおさまらない。ウクライナ産の小麦の輸出をロシアは妨害し続けており、ポーランドに代表される東欧・中欧の一部の国々に混乱が続いている。グテーレス事務局長はプーチン大統領などに書簡を送り関係打開を図ろうとしているのだが、ロシアがそれに応じる気配はない。ラブロフ氏は「ロシアの輸出を阻む障害」があると言っている。つまりは経済制裁に反対しているものと思われる。ロシア発の危機はEUの一体性を直接的に傷つけている。
その上、今度はスーダンで大規模な軍事衝突が起こっている。スーダンの情勢が悪化すれば東アフリカ全体に波及しかねない。すでにスーダンは崩壊状態でありエチオピアも不安定な状態が続いている、アメリカやサウジアラビアが仲介を始めたという話があるのだが、ラブロフ外務大臣は「ワグネルを使えばいいではないか」と言い放った。ワグネルは国軍とRSF双方に支援をしていると言われており、いわば今回の混乱の原因を作った当事者の一国である。
本来、国際社会の安全を保障するはずの「国連安保理」は機能を失いつつあるのではないかなどと言われてきた。国連の機能不全は明らかだが、その代替手段はない。このため多くの人たちが「国連安保理は機能していない」とは認めたくなかった。
だが、国際秩序に対する被害者意識に判断能力を蝕まれたロシアの代表者が議長席に座ることにより「機能していない現状」は誰の目にも明らかなものとなっている。安全保障というよりは明らかに「安全破壊」である。