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部下の官僚に恨まれたラーブのイギリス副首相が辞任 高市元総務大臣との違い

BBCで「首相がいじめ報告書を受け取った」というニュースをやっていた。一体何のことなのだろうか?と思ったのだが、実はラーブ副首相兼司法大臣が部下の公務員をいじめていたと告発されておりそのレポートをスナク首相が受け取ったというニュースだった。スナク首相はレポートはラーブ副首相を守ったとの立場だがラーブ氏は辞任した。さらに「一部の活動家公務員による妨害活動だ」と憤っている。陰で官僚に「行政文書」を作られた上に後で公開された高市元総務大臣に似ている。だが、正式の調査できちんと結果を出したという点に日英の大きな違いを感じた。

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ラーブ副首相兼司法大臣は部下24名に対するいじめの「正式な」告発を8件受けた。ラーブ氏は「いじめの証拠が少しでも見つかれば辞任する」と表明していたため、正式な報告書の受理を受けて辞任した。

どこからきたのかわからない告発が元だったため高市氏は辞任しなかった。だが、正式な調査を受けたラーブ氏は辞任した。ラーブ副首相兼司法大臣は「証拠が見つかったら辞めてやる」としていた。辞任を仄めかして啖呵を切ったところまでは一緒だが正式な調査だったため辞任に追い込まれたという違いだ。

日本の場合は陰で証拠が作られ「ネタ」を欲しがっている週刊誌や野党議員を通じて復讐が図られる。だが、イギリスの場合は公益通報に基づいて正式に処理されるという違いがある。このため日本の方が問題が陰湿になりやすい。

スナク首相の対応も岸田総理とは違っている。岸田総理は「知らぬ存ぜぬ」だったがスナク首相は「きまりに従って辞任したことで副首相の立場は守られた」とした。

では岸田首相は高市氏を守ったのか。高市氏はあやふやな態度を取り続けたことで奈良県知事選挙において維新の躍進を許し「総裁選は遠のいた」と評価されている岸田総理は高市氏を泳がせておくことでライバルを潰したことになる。国会議員としての地位は守られたが政治的には大きな傷を負った。官僚の行政文書を一種の「反乱行為」とみなすならば十分に効果があったことになる。

一方でスナク首相は「この制度には問題がある」として、官僚に対してパワハラの申し立てや対応方式について再検討するように依頼した。ルールを明確にすることで精度の透明性を高めてゆこうとする姿勢が窺える。これは日本の曖昧な議論を見ていてもよくわからなかった点だ。日本の行政文書に信頼がないのは運用ルールがあやふやなのに全く改善議論がないためであるということが明快に理解できる。

報告書の中身は誰でも検討することができる。レポートは一方的にラーブ氏を批判しているわけではない。外形的にはイギリス高等法院が決めたいじめの要件に合っていたと指摘するがラーブ氏には「いじめの自覚がなかった」という点についてもきちんと触れている。これも「相手の受け取り方の問題」として責任の所在を明らかにしない日本とは大きく違っている。

最後の違いは「地区」との関係である。高市元総務大臣は奈良県連のトップということになっている。ところが「地区」は前の県知事との間に利害関係を持った首長が多くいた。維新の躍進を恐れた高市氏がこれに介入したことで関係がこじれた。おそらく今回の問題の背景の一つだろう。だが、結果的には高市氏が恐れた通りになった。結局奈良県民は維新を選んだのだ。

一方でラーブ氏は次回の総選挙に出馬するかは地元の選挙区が決めることだと言っている。イギリスでは地域に委員会があり自律的に行動しているようだ。これも結果的に政治家を守っている。余計な運営上の負担が減らせるからである。維新が躍進する関西圏だけでなく多くの地域で「保守分裂」と呼ばれる騒ぎが起きている。責任者になっている議員は東京にいるが、地元には地元のつながりがある。これが軋轢の原因になっている。

実はこのズレが特に自民党において政治家の世代交代を妨げているのではないかと思う。

県知事選挙に関与するような有力議員は大抵東京でも要職に就いていて何かと忙しい。一方で暇を持て余す高齢議員や元議員といった人たちは「長老」として地域の活動に専念できる。結局、保守分裂の背景には高齢の長老議員が改革を志向する現役世代議員とぶつかることになり大抵の場合は長老が勝ってしまう。生き残るのは高齢政治家か高齢政治家のいうことをよく聞く「お人形」のような人たちになってしまうのである。

政党の世代交代は進まないが、有権者の間では既に世代交代が始まっている。前回2009年に民主党が勝った時の総選挙には単純な改革を求める普段選挙に行かない世代の人たちが民主党の主張に同調したことで政権交代が起きた。ところが今回はそのような兆候がない。にもかかわらず維新が躍進しているということはかつての選挙を支えてきた支持基盤が徐々に高齢化によって失われつつあるということになる。

イギリスにも自由民主党という改革志向の政党があり「過去200年保守党が守ってきた議席を奪還する」というニュースがあった。この補選での敗北に危機感を持ったジョンソン首相は結局政権を手放した。トラス首相による混乱はあったもののスナク首相の誕生で落ち着くところに落ち着いたという印象がある。

自民党がこのまま世代交代なしに現在の優位を守り続けることができるのか、特に関西圏で維新の躍進を許すのかという点にも注目したい。京都に地盤を持っていた伊吹文明氏は維新の躍進に警戒心を持っていた。これが正しかったのかあるいは杞憂だったのかは補選の結果によって明らかになるに違いない。

いずれにせよイギリスは明確なルールを定めることで有権者に説明責任を果たそうとしているとううことがよくわかる。ブレグジットをめぐっては何かと問題が目に付くイギリスの政党政治だが透明性確保と説明責任は見習っても良いのではないかと思う。

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