松野官房長官はスーダンにいる60人余りの邦人を救出するために自衛隊機をハルツームに派遣すると発表した。スーダン情勢は落とし所が見つからず被害が拡大し続けている。ハルツームでは空爆も確認されているという。自衛隊機はジブチ経由でハルツームを目指すがかなり危険な任務になることが予想される。ドイツは最初の救出を諦め途中で引き返している。岸田総理は難しい決断を迫られている。
30年余り独裁体制だったスーダンは軍事クーデターのあと軍を中心とした集団指導体制に移行していた。主導しているのは国軍とならずものの集まりだった第二軍(RSF)の指導者だ。詳細はロイターが端的にまとめているが、実は軍隊も第二軍も「同じような人たちの集まり」のようだ。人道支援や紳士的協定などの交渉が通じない相手なのである。
今回衝突している双方ともロシアからの資金援助を受けていたものとみられる。ロシアの狙いはスーダンの金資源だった。前政権時代には中国が航空機などを支援していたという話もある。このため両陣営とも豊富な戦闘資源を持っており容易には停戦にはつながらないものとみられている。
人道的見地から24時間の停戦が提案されたが結局は守られなかった。
WHOによると死者は270名に達している。国連食料計画(WFP)の職員3名が含まれている。さらにEUの駐スーダン大使も襲われたようだ。
日本はアフガニスタンからの邦人退避で対応が遅いと批判されていたが、この後で法律が改正され、自衛隊機が派遣できるようになった。松野官房長官はジブチ経由で自衛隊機を首都ハルツームに送り邦人保護につなげたい考えだ。首相官邸は既に対策室を設置済みである。
実はウクライナでは自衛隊機を送り込むことができていない。「安全が確保できないと自衛隊機を送れない」という規定があったため自衛隊派遣は検討していないと説明されていた。ウクライナでは陸路でポーランドまで退避してもらいポーランド経由で邦人120名を救出する作戦だった。
今回の任務はおそらくウクライナと同程度かあるいはそれ以上に危険である。だが政府は閣議決定で自衛隊機を派遣できるとしている。政府専用機ではなく自衛隊機を使う方向にシフトしており、今後もこのような任務が増えるものと思われる。
一方で心配な動きもある。ハルツームではサウジアラビア国営のサウジアの航空機が炎上しており、国連機も戦闘に巻き込まれたようだ。
スーダンは長年アメリカを中心とする西側の経済制裁を受けていたが、バシル政権は中国から軍事的支援を受けていたとされている。2008年の記事では中国がパイロットの訓練支援をしているようだという記事が見つかった。またロシアもウクライナの戦争で経済制裁を受けてからスーダンに接近し今回激突している双方に資金援助をしていたようだ。狙いはスーダンの金鉱脈だった。
このため双方とも豊富な軍事資源を蓄えており放送局や空港などの制圧を通じて支配権を拡大しようとしている。ハルツームでは空爆が確認されており、自国民を救出しようとしたドイツ軍はギリシャまで飛行機を飛ばしたものの退避を余儀なくされたようである。つまり、実は飛行場が最も危ないという現実がある。
日本の内閣はこれまで「邦人保護が後手に回っている」という批判を受けて権限強化の方向で法律の改正を重ねてきた。今回は国会承認なしで自衛隊派遣に適切な時期を探らなければならない。国会承認がないことで迅速な対応もできるのだが、結果次第では厳しい結果責任圧力にさらされることになることになるだろう。G7への機運が高まりつつある中で、岸田総理は邦人保護や自衛隊の安全確保の両立という難しい決断を迫られている。