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麻生太郎氏の「戦える自衛隊」発言が愚策である理由

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麻生太郎氏が福岡で講演をやり「自衛隊は戦えるようにすべきだ」と発言した。今回はこの発言の是非を考える。結論は「どっちでもいい」になる。この発言が政治的に意味のあるものかと問われれば「それはない」というべきだろうが、潜在的には危険な火遊びだ。

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麻生太郎自民党副総裁が福岡で講演を行い「自衛隊は戦えるようにすべきだ」と発言した。発言の意図はそもそも不明だが憲法改正と岸田総理のリーダーシップを結びつけているところから従来の安倍派支持者たちを引きつけておく狙いがあるものと思われる。防衛力強化について安倍総理ができなかったことを岸田総理がやろうとしていると言う発言は清和会より宏池会の方が優秀だと言う含みだろう。麻生氏の祖父は吉田茂であり宏池会は吉田茂の流れを継承する池田勇人の系譜である。

特に関西では無党派が維新に流れている。補選の結果がまだわからないが各種世論調査によると1つの選挙区を除いて実は自民党はそれほど優勢ではないと言うことになっている。あるいは特定の地区で無党派層の取り込みが課題になっているのかもしれない。

つまり、政治的には無党派の繋ぎ止めに有効であれば「効果のある発言」ということになるが、どうもそれが怪しい。麻生さんの側の問題ではない。実はネットの保守世論が崩れつつあるのだ。


陸上自衛隊のヘリが撃墜されたと考えている人は誰かについて考察した短い記事がある。保守系アカウントが多いのだが2022年にワクチン懐疑派に転じた人が多いそうだ。そしてその数はそれほど多くなく17,000程度である。

記事を読んでゆく。記事は「本件は撃墜である」と考えるクラスターAと「撃墜論は陰謀論にすぎない」とするクラスターBを仕分けしている。当初はクラスターAが増えたがすぐにクラスターBによって反撃されていることがわかる。クラスターAは「日本に誇り」とか「反日」というキーワードが目立っている。これが「ミリオタ系」に反撃されているという図式になっている。もともとワクチン懐疑派から転じた人が多いことから「情弱」な人たちが撃墜論に加担していることがわかる。さらにワクチン懐疑派も古くからの懐疑派ではなく2022年に「懐疑派に転向した人」が多いようだ。

記事の著者は東京大学大学院の教授であるためあまり刺激的な書き方はしていない。だが「情報弱者ほど撃墜論に反応しやすい」ということになる。

おそらく、安倍総理を支えていたネット右派言論は急速に失速しつつある。自民党の中でメインストリーム出なくなったことで、議論を引っ張ってきた人たちが離れつつあるのだろう。ところが運動体としては残っており、徐々に「情弱化」している。

これについてQuoraで記事を書いたところ普段はあまり反応しない層の人たちが反応した。中には記事の中にあるゲームユーザーを「アマチュア」としている人やこれは保守ではなく単なる陰謀論支持者であると断じている人がいる。これまで「権威との一体化」でまとまっていた人たちがお互いの細かな違いによってセグメント化していることがわかる。だがそのセグメントはおそらく当事者にしかわからない実に細かいものである。セグメント分析をしている東京大学大学院の教授はおそらくここまでの「サブカル的な」分析はできないはずだ。

一方で普段の国際政治の記事よりもネットの細かいセグメントの方が、現在のネット世代には地続きの問題なのである。

おそらく自民党の議員たちはまだ彼らが運動体としてコアを保っていると考えているのだろう。そこで「早めに中国撃墜論を否定しなければならない」と慌てている。だが、実は中心にあった権威への信奉というコアが失われることによって運動体としての形が崩れつつある。台風で言えば「台風の眼」がなくなり形が崩れてきたような段階である。

かつて運動体にコアがあった時には「思っているよりネットで安倍総理を応援している人たちは多かった」という演出効果があった。ところが運動体がメンテナンスできなくなるとかえって「残念な人たちに支援されている」と考えられるようになるだろう。

そもそも既存の政治家には今のネットの細いセグメントは理解できないのだからコントロールは難しいだろう。

アメリカのトランプ支持者も「こういう人たち」だけが残っている。確かにトランプ氏が訴追されると寄付が集まったりするそうだが、穏健な共和党支持者たちが離れてゆく原因になる。おそらく麻生氏は「なんとなく口先介入すれば彼ら(どんな人たちかは知らないが)を惹きつけておける」と考えているのだろうがこのまま運動体の形が崩れてゆけば「単に残念な人たちに囲まれた残念な人」になりかねない上に思わぬ形で過激化しかねない。

視点を左右に広げるならば、カウンター・アベ運動(アベ政治を許さない)も実は大きな意味ではこの台風構造の一つであったことがわかる。反アベ運動が政治的に成り立たないということは小西洋之氏を見ているとよくわかる。おそらく山口4区の結果も反アベが政治運動として成り立たないという結果になるのではないかと思う。中にいる人たちは真剣なのだろうが外から見ていると「残念な界隈」にしか見えない。

幸いなことに麻生太郎氏にはトランプ氏のような勢いはないので、おそらく今回の件がそれほど大きな問題になることはないのだろう。だが、潜在的にはかなり危険なことをやっている。だから、このような「戦略」は早めにやめたほうがいいと思う。

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