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軽井沢のG7外相会議は日本のリーダーシップで対中国の結束を確認

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広島でのG7首脳会談を前に軽井沢で外務大臣会合が行われた。新幹線で仲良く軽井沢入りした外務大臣たちが早速話し合ったのは対中国についての意見の擦り合わせである。マクロン大統領が中国融和の姿勢を見せたため、もう一度G7として台湾有事は容認しないと確認したようだ。この際にアメリカのブリンケン国務長官が前にでることはなく、林外務大臣が一定の仕事をした。少なくとも外務大臣レベルではマクロン氏の発言は「雨降って地固まる」ということになりそうである。新幹線での移動も好評だったようでSNSでは一種ほのぼのとした「遠足」の様子が拡散され日本の観光振興にも一役買っている。

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マクロン大統領はフォンデアライエン欧州委員長と共に北京を訪れて歓待された。その後「台湾問題はヨーロッパの問題ではない」と物議を醸していた。G7の結束が揺るぎかねないという懸念が広がりG7のタイミングで修正を図ったという形だ。マクロン大統領の北京訪問後というタイミングは非常に適切だっただろう。

おそらく最も安堵したのはアメリカだろう。マクロン大統領は「同盟国はアメリカの属国ではない」と厳しい調子でアメリカに対峙していた。今回は間に林芳正外務大臣を入れることで直接的な対立は避けられた格好である。

もともとG7はヨーロッパとアメリカの利害が対立しがちである。アメリカに近い存在として日本がG7に入っていることで十分に機能を果たしたと言えるのかもしれない。

ブリンケン米国務長官は17日、「最も重要な問題に対するアプローチについて、われわれは見解の一致を結局さらに強めただけだった」と、フランスのコロナ外相と並んで発言した。

日本では岸田政権は「安倍政権よりも中国寄り」だとされることが多い。宏池会はバランス重視型であり日米同盟に加えてアジアとの関係も大切にすべきだという立場だ。また林芳正氏は前の日中友好議連の会長でもある。このため林氏は中国に妥協してしまうのではないかという懸念がある。アステラス社員が拘束された「スパイ」問題でも李強首相との会談の席で中国の「世界は必ずしもアメリカの脱中国化には与しない」という宣伝に利用されるような一幕があった。

ところがこの姿勢は結果的にヨーロッパサイドが日本に協力しやすくなる土壌となったようだ。

この当局者によると、中国との関係には率直でオープンな関与が必要だと述べた林芳正外相に他の外相も賛同し、台湾の政治的立場を巡り平和的解決を求めることで一致した。

もちろん林外務大臣にとっても「無条件の中国への擦り寄りがどんな混乱をもたらすか」を理解できる機会になったのかもしれない。

ヨーロッパはマクロン氏とEUの代表が立場を使い分けているようなところがある。

ボレル外交安全保障上級代表はオンライン会見で「EUの姿勢は中国次第だ」とした。つまり、譲れない一線はあるが「率直でオープンな関与」は排除していないという姿勢も維持している。仮に林外務大臣があからさまにアメリカ寄りの姿勢を示していればフランスとアメリカの溝は埋まらなかった可能性がある。

この中で面白い動きを見せている人がいる。それがドイツのベーアボック外相である。外交素人だそうだ。

対中国でドイツが価値観を妥協することはないと強調し、台湾情勢を巡る質問には、国際法への違反がある場合には「欧州が目を背けることはない」と言明した。

ベーアボック外務大臣は中国新外相の秦剛氏から歓待された。マクロン大統領が習近平国家主席に歓待されたことからわかるように中国は和平の担い手という地位を熱望しておりヨーロッパからの来賓を歓待する傾向にある。

マクロン大統領はこれにかなり気をよくしたようだが、ベーアボック外務大臣は「猜疑心を募らせた」という。歓待があまりにもあからさまで説教までされたというのだ。

ベーアボック氏は緑の党から連立政権入りしている。外交素人で「NATOはロシアを相手に戦争をしている」と発言し物議を醸していた。これはみんなわかっていることだが決して言ってはいけないことになっている。

ベーアボック外務大臣「価値を重視したフェミニズム外交」を標榜しているそうだが、要するに難しいことはわからないので私の常識で判断しますというような人なのだろう。ただおそらく中国の外交が「自分達を大きく見せたがる」という独特の癖には直感的に気がついたようだ。

このようにG7の会合には一人か二人くらいはこのような「一般人目線」を持った人がいる。林外務大臣はどちらかと言えばプロの政治家ではあるが「一般人目線」は欠ける。チームとしてはかなりバランスが良さそうだ。

さらに林大臣が持つ独特の「育ちの良さ」も今回は良い方向に働いている。「新幹線で軽井沢入り」がことのほか好評だった。

エマニュエル大使はブリンケン国務長官にPASMOを渡して「これでブリンケン氏も鉄オタである」と主張している。また峠の釜飯も試すように勧めたそうだ。旅行の様子はSNSで公開され、イギリスの外務大臣はブラッド・ピットは乗っていなかったようだとTweetしている。伊坂幸太郎原作を元にした「ブレットトレイン」という映画を踏まえたジョークである。

鉄道で外務大臣たちが一斉に移動するのは珍しいそうだ。鉄道の安全性が確保されている日本でなければ実現できなかったかもしれない。これが一種「遠足」のような雰囲気を作り出し、そのほのぼのとした様子がSNS経由で世界に拡散された。おそらく、東京から気軽に行けるリゾート地というSNSの発信は観光客の誘致にも一役買うことになるだろう。

アメリカのブリンケン国務長官とフランスのコロナ外相は誕生日だったそうで、ジョン・レノンが好きだったという万平ホテルのアップルパイでお祝いしてもらうというサプライズもあったようだ。

外務大臣会合は雨降って地固まるという結果になり林外務大臣は一定の仕事をしたようだ。あとはこれを広島の首脳会談でどう料理するかである。

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このように少なくとも外務大臣レベルではマクロン大統領の発言は「雨降って地固まる」という方向でまとまりつつある。チームとしては非常にバランスが取れていたようである。この会合の結果は広島の首脳会談に引き継がれる。外務大臣会合は日本の穏健なリーダーシップのおかげて割と上手く役割を果たしたということになるのかもしれない。


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