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アメリカの機密文書リークのきっかけは21歳の州兵の「いいね稼ぎ」だった

アメリカの外交機密リークの容疑者が捕まった。当初は第二のスノーデン事件か?などと報道されていたのだがどうもそうではないようだ。

これをどう説明するのがいいのかと考えたのだが、NBCが‘It was basically to impress his friends’: DOJ arrests Pentagon docs leakerとの見出しをとっている。impress his friendsは友達に「いいかっこうをしたい」とか「いい印象を与えたい」という意味だ。あえて意訳するならば「いいね稼ぎ」ということになる。

その後、この21歳の若い州兵は基地内でネットワークの整備担当をしていることがわかっている。

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アメリカが同盟国をスパイしていたようだと騒ぎになってからしばらく経った。ウクライナ関連の情報が多かったことからロシアの思惑なども指摘されアメリカの内部にロシアの協力者がいたのではないかというような話も囁かれていた。しかし、容疑者が逮捕されてどうもそうではなかったことがわかってきた。むしろ浮かび上がるのはアメリカ軍の機密情報の管理体制の甘さである。

逮捕されたのはわずか21才のマサチューセッツ州の州兵だった。直ちに「そんな若い人が国家機密にアクセスできるはずはない」のではないかという疑惑が生じる。

BBCは当初の報道で

  • そもそも職務上情報にアクセスできる権限を持っていた可能性
  • アクセスはできないがハッキングした可能性
  • 誰かが情報を送りつけてきた可能性

などを指摘していた。だが21歳の州兵はあまり高位ではないことは明らかだ。そこで「ハッキング」があったか「誰かに情報をもらったのでは」の可能性が高まる。つまり国家叛逆の意思ありということになるだろう。

ところが、真相は意外なものだったようだ。TIME直後わかっている点について書いている。

  • テシエラ容疑者はSNSのDiscordで銃・ゲーム・お気に入りのミームなどについて投稿していた。
  • 容疑者は職務の一環として機密情報にアクセスできた。
  • パトリック・ライダー大将は「非常に若い軍人を信頼するのは軍隊の性質だ」と述べた。
  • 高校を卒業したばかりの兵士たちは機密情報を使ってイラク、アフガニスタンなどの攻撃をおこなっていた。

テシエラ容疑者にはそれほど悪気はなかったようだ。元々Discordのフォーラムは会員限定であり情報が外に漏れることは想定していなかったようだ。

ただテシエラ容疑者にはオンライン上の別の顔があった。OGと名乗り仲間内ではカリスマ的存在だったようである。フォーラムでゲームのキャラクターシートなども公開していたそうだ。ほんの遊び感覚であったということも伺える。

一部報道では「Thug Shaker Central」と呼ばれる銃、人種差別、ビデオゲームに関する情報を共有するオンライングループを「率いていた」などと書かれている。なんとなくこの情報だけを読むと秘密の凶悪なサークルのように感じられるが、おそらくあまり人権リテラシーのない人が仲間同士で「わちゃわちゃと」やっていただけなのだろう。

つまり、アメリカ軍内部ではあまり善悪のよくわからない高卒の兵士が国家機密にアクセスできるようなセキュリティになっていた。のちに基地内でネットワークの整備などを担当していたなどと報道されている。BBCの報道によれば「階級は比較的低い位の1等空兵で、ネットワークの保守・管理担当者としての肩書がついている」とのことだ。

ゲーム好きの仲間内ではヒーロー的存在だったと「Thug Shaker Central」の仲間が語っている。プロだったのだから当然でと言えば当然だ。だがその後の報道では仲間を繋ぎ止めるために刺激的な情報を公開していったようだとも言われている。SNSに人格を持ちそれがどんどん大きくなってゆくというのはよくあることだ。そしてそれはたいてい大した問題にはならない。フォロワーに対するナルシシスズムだなどとCNNでは解説されているが、それはおそらくSNSではむしろありふれたことなのではないかと思う。

では、なぜこのようなありふれた承認欲求やナルシシズムが国家の威信を揺るがすような大問題になったのか。

英語の各種報道を見ていると軍の関係者が口々に「軍隊は信頼で成り立っている」と言っている。つまり若者や地位の低い人たちにも信頼して仕事を任せているというのである。TIMEの報道にも「機密情報を使ってイラク、アフガニスタンなどの攻撃をさせていた」と書かれている。むしろ分別のない若者の方が「ビデオゲームのように」相手を攻撃することができるはずだ。自分が何をやっているのかを具体的に想定してしまうと攻撃の手が緩むが戦争がゲーム感覚になれば罪悪感は薄らぐだろう。

その意味では今回の情報漏洩は米軍が持っているかなり根幹的な性質に根付いているように思える。

途中の報道だけを読むと何か大きな陰謀が渦巻いているようにも思えたのだが、その真相はかなり意外なものだった。単に思慮の足りない若者が仲間から注目されたいだけだったのである。動機としては実にありふれておりSNSにアカウントを持っている人なら誰しも「ああそんなこともあるかもしれないな」と実感できるのではないだろうか。

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Comments

“アメリカの機密文書リークのきっかけは21歳の州兵の「いいね稼ぎ」だった” への2件のフィードバック

  1. 情報流出と聞くと、スパイやコンピュータウィルスが主な原因だと思ってしまいますが、内部の人間の作業ミスや意識の低さが原因であることが多いらしいですね。
    企業は情報管理や情報リテラシー教育をしっかりしていると思ってしまいますが、思っているより杜撰んな運用がされている場合が少なくないです。
    軍なら、もっと厳しい運用がされていると思うので、スパイが情報を流出させたり、偽情報を流したりしたのが妥当な考えだと思ってしまいますね。

    1. 今回の場合、結構誰でもどんな情報でも見ることができるようになっていたようです。軍隊はこれを杜撰とは認識せず「みんなを信頼していた」と説明することが多いようです。ロイターによると政府レベルでもきちんとした決まりがなかったようで「見直し」が進んでいます。

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