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「ジャニーズ元所属タレントによる性被害告発」は日本の恥なのか?

BBCの報道がジャニー喜多川氏による「性的搾取」のドキュメンタリー番組を放送したのは3月だった。4月に入り日本外国特派員協会でカウアン・オカモト氏が告発会見を行い問題は新しい局面に入った。カウアン・オカモト氏の訴えは広がるだろうかと考えた時、伊藤詩織さんの問題を思い出した。日本社会はおそらくこの問題を正面から捉えず「世界を騒がせた恥」を糾弾することになるのではないかと思う。果たしてこれがいいことなのか悪いことなのかというのが本稿のテーマである。

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第一にこの問題でおそらく多くのジャニーズタレントが「この人も実は同じようなことをされているかもしれない」とみなされることになるだろう。特に世界進出をしたいジャニーズタレントにとっては潜在的な汚点ということになる。ジャニーズを推しているファンの人たちも「性的搾取をされていた人たちの問題を無視して応援しているのか」と非難されかねない。

これは極めて「恥ずかしい」ことだ。特にジャニーズファンはこの問題を持ち出した人たちに対して色をなして反論することになるのではないかと思う。

女性ジャーナリスト志望だった伊藤詩織さんが性的に搾取された時も同じような動きがあった。伊藤さんは勇気を出して告発を行った。海外では盛んに取り上げられたが日本ではほぼ無視された。日本での女性の地位は低く抑えられたままである。あの時にも「日本外国特派員協会はちゃんとたメディアではない」などと言っている人がいた。「記者クラブ体制」に守られたキトンとしたメディアではないという指摘だった。

だが、問題はそれだけでは収まらなかった。伊藤さんや支援者に対する個人的な中傷も多く見られた。伊藤さんは名誉毀損などを訴えて積極的に戦っていたようだが、おそらく中には「面倒なことに巻き込まれたくない」として支援をやめてしまった人たちもいるはずである。

日本人は「アジアの中で唯一先進国として認められた日本」を誇らしく思っている。だが一部の人権問題についての価値観のキャッチアップが全くできていない。このため「欧米から劣った国と見られるのが恥ずかしい」という意識が働くが、これをどう埋めていいかわからない。だから怒りに変わるのだ。

BBCはこの問題はタレントの特殊事情ではなく一般に見られると指摘している。こうした問題は「恥のベール」に隠れておりなかなか表面化しない。被害者は複雑な気持ちを解消できないままその後の人生を歩むことになる。きちんと読めば何が問題なのかはわかる。だが恥の意識に囚われている人はそもそもこうしたマテリアルは読まない。

恥の意識でしかものと後を捉えることができないは、普段から欧米の価値観を学んでいるわけではなく表面的に真似ているだけだということがわかる。そこで、告発者や告発者の周辺にいる人たちに怒りを向けて黙らせようとしてしまうのである。

その意味では日本は物事を表面的にしか捉えない「ムラ」としての意識が強い社会は成長や学びが難しい社会と言えるだろう。

もっともこの価値判断が絶対的なものとも言えない。相手が何を指摘しているのかを理解した上でどう対処するかが重要だ。全てを丸呑みしたり全てを拒否しなくてもいい。

欧米ではキリスト教聖職者の性的搾取問題が度々問題視されてきた。最近で「ダライ・ラマ14世が抱擁を求めてきた少年に口づけをしたうえで、みずからの舌を出して吸うように促す様子」がSNSで拡散しダライ・ラマ14世が謝罪に追い込まれている。

「欧米にはそのような空気がある」という点も実は否めない。正義や正解が空気に左右されるというには実は日本だけではなく欧米にも存在する。つまり、この性的被害の問題だけを見つめていても「正義や正解は相対的なものなのだから」という結論が得られるだけなのだ。

ただ「恥ずかしいから黙っていろ」では議論そのものが封殺され全体像の理解すら難しくなる。

さらに「ムラ」には共犯関係をベースにした庇い合いの構造もある。テレビ局や雑誌はジャニーズ事務所と共犯関係にある。裁判でも一部事実認定されている公知の事実なのだが、テレビと雑誌は一貫してこの問題を無視してきた。

今回ジャニーズ事務所は共同通信に対して短いコメントを出しているのだが「経営者が変わったので問題は過去のものになった」として対応しない方針を示している。ガバナンス強化をしているというが、マスコミが共犯になっているためこれを信頼する人はいないだろう。

つまり「恥の意識による封殺」と「共犯関係」という二つのベールが問題の解決を難しくしている。では、これは日本の組織にどのような影響を与えるのか。

すでにジャニーズ事務所に所属しているタレントたちの中にも脱退の動きがある。性的搾取に抗議しているわけではない。ジャニーズ事務所では海外進出の際に展望が開けないというのがその理由である。

最近では、最初から日本を選ばず高校生で韓国語を勉強して韓国のオーディション番組経由で世界デビューを果たすという通路ができつつある。かつては日本の模倣に過ぎないと侮られていたK-POPは今や日本の若者の憧れにまで成長している。適応は早ければ早い方がいい。高校で渡韓しデビューチャンスを掴んだある日本人はオーディションの時から「韓国語が非常に上手だ」と驚かれていた。本格デビューに向けて日本でも単独ライブを開催している。

価値観のアップデートができない組織はこのようにして競争力を失い選ばれなくなる。かつての日本と今の日本との違いはここにある。つまり海外流出するハードルがどんどん下がりつつある。若くして意識変革を遂げた人の方が状況に適応しやすい。結果的に価値観が変えられない人たちだけが日本に堆積することになり日本社会の変化や成長の阻害要因になる。単なる村ではなく過疎化し意固地になった難しいムラが日本のあちこちに生まれてしまうのだ。

価値観がアップデートできない組織や社会は停滞し成長力を失ってしまう。日本のエンターティンメントだけではなく社会が成長するためにも「恥ずかしいから黙っていろ」という指摘はプラスには働かないということがわかる。全てを一挙に変えることは難しいのだから問題は一つひとつ解決してゆくべきだ。

ただこれに気がついている人も出始めており、それぞれで意識変革し行動を起こしている。

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