「日本が主導してスリランカの債務整理をする」という記事が日経に掲載されていた。日本が国家デフォルトしたスリランカの面倒を押し付けられるのかと思ったのだが結局枠組みの発表は行われていない。ロイターの記事によると情報発信源は鈴木財務大臣本人であり日本主導とも強調されていない。日経新聞と鈴木さんがタッグを組んだ日本のリーダーシップアピールの一環だったようだ。
ただ、欧米はインフレ対策と金融システムの維持で手一杯な状況にある。つまり日本だけが最後の防波堤であるという現実には変わりはない。
日経新聞が「スリランカ債務、日本主導で債権国会議」という記事を書いている。主語が曖昧であたかも国際的合意があったように読めるタイトルになっている。そこで「面倒を押し付けられたのか」と感じた。だが、ロイターの記事は「スリランカ債務再編で新たな枠組み、日仏印が13日発表へ」となっている。鈴木財務大臣の発表の基づいているのだが、要するに中国は参加しない見込みが高いということを言っているだけである。日経新聞の忖度なのかあるいはリーダーシップアピールがしたい鈴木さんの主導だったのかはよくわからない。
中国は覇権獲得のツールとしての融資には積極的だが支援には極めて消極的である。面倒なことが起こると債務整理の席からは逃げ出してしまう。今回の「同意」も状況が落ち着くまで2年待ってやるというものだ。中国輸出入国銀行は2022年2と023年に返済予定だったものは直ちに支払わなくても良いとしており「寛大さ」を示している。ロイターが【独自】として伝えて各社が追随している。
日本が債務を放棄して状況が整理されれば戻ってきて「あのお金を返してください」と言い出しかねない。ただ、今権利を主張し続けるとIMFの支援が受けられなくなりお金は戻ってこなくなる。このため一時的に手を引いているのだ。
先進国が発展途上国に厳しい要求を突きつけるのは、貸した金が返ってこなくなることを恐れているからである。中国はここに入り込み有利な条件で融資をするのだが面倒なことが起こると手を引いてしまう。同じような事例はザンビア、ガーナ、エチオピアにも見られる。
スリランカが国家デフォルトしたのは2022年5月18日のことだった。もともと優良な紅茶の産出国だったのだが外国から肥料が買えなくなる。そこで大統領は「外国から化成肥料を買うのをやめよう」と呼びかけた。これが紅茶農家に打撃を与える。構造問題も解決できず結局破綻した。
破綻後の混乱は誰の目にも明らかだった。タンカーは港に停泊しているが決済代金が支払えないため国内のガソリンが枯渇した。そのひぐらしの人たちはガソリンがないと出勤ができない。このためガソリンスタンドには多くの国民が列を作った。
大統領とその一族への批判も殺到した。大統領と首相は兄弟だ。兄が大統領をやっていたが多選批判があり弟を大統領に立てて首相に回っていた。首相は5月に退任していたが大統領批判はやまない。結局、大統領は在職のままで7月に国外脱出した。大統領特権がなければ逮捕されてしまうと考えたのだろう。つまりスリランカの政治家たちも責任を取らなかった。
ウイクラマシンハ大統領はなんとかして債務を整理したいのだが、障壁になっていたのは中国問題だった。中国が同意しない限りIMFは支援をしないと条件を突きつけられたのである。このため経済再建はなかなか進まず現地の生活はかなり苦しいようだ。2023年のジェトロの調査ではさまざまな問題が浮かび上がっている。
- 国家として燃料が確保できないため、企業は余計なコストをかけて燃料を調達している。
- 政治的に予測不能な状態に陥り、そもそも落ち着いてビジネスができる環境ではなくなっている。
マクロ(国民経済)ではなくミクロ(個人の生活)に焦点を当てた記事もある。高齢者の生活が困窮しているそうだ。年金制度が脆弱なため国家高齢者事務局が65万人に対して支援を行なっているが将来の見通しは決して明るくない。新興国というと人口が増えているという印象があるのだがスリランカは高齢化が進んでいるそうである。
そんなスリランカも少しづつではあるが破綻国からの脱却を進めている。中国の同意を受けてIMFの融資計画がまとまった。今後4年にわたって3900億円の資金が提供される予定なのだそうだ。このうちの第一弾として440億円が支払われた。中国が表向き「2年間の猶予」を与えたのはIMFの援助を引き出すためだろう。
中国が知らぬ存ぜぬを決め込む中で、先進国が何もしないわけにはいかないがG7には余力がない。財務大臣・中央銀行総裁会議が開かれたが、主な議題は「世界金融システムの安定」と「サプライチェーンの多様化」だった。欧米はシリコンバレーバンクやUBSなどの金融不安問題を抱えており、新興国の救済にまで手が回らないと言ったところが本音なのだろう。
アメリカはインフレを止めるためのタカ派的な金利政策が行き詰まりつつある。このため前回のFOMCでは利上げの中止が検討されたものの結局継続が決定されたそうだ。状況は二転三転しているが、5月に一度利上げをしたのちに利上げを止めるのではないかといういう観測が出てきた。つまり物価の安定と金融システムの安定化が両立できなくなりつつある。
結局「日本がなんとかしろ」ということになりつつあるようだ。
欧米の金融システムの保全が優先され、まだ出口に向かっていない日銀だけが「最後の防波堤」になりつつある。ただしこれは将来の日本経済にとっては大きなリスク要因になるだろう。日本の将来も危険な状態にあるが「とにかく動いてくれるな」というのが欧米の本音だろう。
鈴木財務大臣も岸田総理大臣も「カリスマ性のなさ」を気にしているのだろう。ことあるごとに大げさにリーダーシップを喧伝する傾向がある。単なるガッカリ感につながるだけならまだいいのだが、現実に厄介ごとを押し付けられる可能性も大きくなっているのかもしれない。